5-4.適応力S



『貴様、他愛の無い会話とは何ですか』


 唐突にあなたに投げかけられた言葉にあなたはふと思考を巡らせます。

 あなたにとって会話とは情報交換であり関係性の構築であり時に戦いでもあります。

 しかし今回は単純にそういった意図のない暇つぶしでしょう。

 メシエにこう伝えます。


 客観的に見てつまらないであろう会話を延々繰り返すことだ。


『つまらない、とは』

『楽しくないこと、だよね?』


 大体あってる。


『そんな会話をして何が目的ですか、サティ』

『えー、でもそういうのが定番、なんでしょ?』


 サティの発案だったらしい。なるほど配信者としてそれなりに考えているようだ。

 あなたは彼女たちにテーマを与えることでそういった雑談動画を撮影しようと思いつきますが、それではいつもと変わらない。彼女たちの雑談であるので彼女たちらしい映像であるべきだろう。

 そこであなたは彼女たちに自撮り、カメラを自分に向けるように指示しました。


『リスナーさんが撮るんじゃないんだ』

『いいでしょう。私が設定しておきます』


 自らの肩口に置いていた水晶のようなものをくるりと回し自分の前に置いたメシエ。二人の中心に置いたそれだけではあなたにとっては少々物足りないような気になりますがまあまずはやってみるかと歩みを進めます。


『じゃあ何話そっか』

『貴様、こういった時のテーマを提案なさい』


 じゃあ好きなものについて。


『好きなもの? えっと、私は人、かなあ』

『私は、そうですね。……艦隊戦? そんな敵がいるのですか?』

『戦闘機能なんて無いけどね』

『無くても困りませんし破壊兵器は用意できますので』


 沈黙。


 おかしい。というかこの二人もしやコミュニケーション能力に問題のあるタイプの配信者か。

 あなたの記憶からソロ配信しているときとコラボやグループ配信で役割や立ち位置が変わっている配信者が思い出されます。

 本来コラボというのは何か特別な配信という印象がありますが、それがいい方向に働く場合とあまり視聴者にウケない場合があることを知っています。

 受けたのならばいいでしょう。それぞれの視聴者が何かしらに満足した、自分の好きな配信者以外の配信者の映像を見るというストレスを上回るほどの満足感が得られた、企画や題材が良く互いの長所がいかせていた等。更に彼女たちの場合は箱推しが可能という点もありますので。

 逆に多人数過ぎた、推しが活躍できそうにない、不得意であるといった深刻な推し不足になりそうなコラボだった場合リスナーはコラボに否定的になります。

 もっと言えば、ソロ配信やコミュニケーション能力不足によるコミュ障発症など。それをネタに出来るくらい内弁慶に特化していれば笑い話にもなるのでしょうが、彼女たちはそのどちらも未知未熟であるようです。

 とはいえそういった配信慣れしていない初々しい配信者が好きな視聴者がいるのも事実。えてして視聴者の玩具になりがちな初心者配信者っぽいムーブですが、果たして彼女たちはどうか。

 サティはともかくメシエは視聴者のコメントなんかは読んでいても気にしたりせず、自分が使う側だろうという気位が見え隠れしています。

 そもそも彼女は艦隊司令官という人を扱う役職についている存在です。正社員に従うバイトリーダーに従うアルバイトの役職しか経験したことの無いあなたにはわかりませんが、それはそれは責任重大な役割です。


 じゃあお互いの印象。


『印象? うーん、どうだろう。こういうのは初めてだからまだよくわかんない』

『……なるほど。そうですね。あまり為人ヒトとナリというものを知ろうとはしなかったので新鮮ではあります』

『あ、ね! それは思った! なんか面白いよね!』

『本来はそういったことは思わないのですが。これが個性というものでしょうか』

『そうそう。単一種で違いを出す理由っていうのがよくわからなかったけど、こうしてみると面白いよね』


 特技。


『何だろう? 調査?』

『では私は監査という事になりますね』

『あーいや、性能試験!』

『今後は要望書を出すように。申請が無い場合は一切の許可を与えませんので』

『えー?』

『性能試験は重要ですが以前のようなことは控えるように。こちらにも限度というものがあります』

『はーい』


 苦手なもの。


『サティの運転です』

『あはは。自分で操作するのと同乗するのじゃ全然違うよね』

『いえ、問題はあなたの運転です。先ほども言いましたが、今後は必ず要望書を、最悪事前に申請するように。私は同乗を拒否しますので』


 お、いい感じ。あなたは流れが出来つつあるのを感じています。これならばきっと自然に雑談動画を撮影できるだろうと明るい兆しを見ました。

 あなたは金属の照り返しで予想以上に明るく感じるこのトンネルの中でどうすれば綺麗に映るのか、ライティングを試す作業に移りながらも二人の会話を耳に流し込み後をついて行きました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る