4-2.ドライブしてみたらしい
あなたは自他ではありませんがそれなりのゲーマーです。ゲーマーに言ったら怒られそうなので自称でしかないのはあなたも認めるところなので。
とはいえあなたがゲームプレイしてきた時間は無駄ではありません。ゲームで培った運転スキルは確かにあなたに車の運転を可能にさせました。
『リスナーさん? 私たち何もしてないけどいいのー?』
後部座席で並んで座っているサティは気遣い上手であることを知っています。
だからこそあなたは運転席が一人用である三輪自動車でありながらある程度人を乗せることが出来るトゥクトゥクのような車を運転しています。
因みにこのトゥクトゥクはバージョンアップを重ねること4回。
最初は開放感を感じることが出来ると開け放たれた車体でしたが時折礫が飛んできたり、星裁の影響で飛来物があるので締め切るために。
2回目はスタックしたので足回りの強化を。
3回目はパワー不足を感じたメシエがエンジンをはじめとした駆動部を強化。
そして先程気づいたハンパない振動に対応するための振動対策をしたのが数分前のことです。
『まだ揺れるねー』
『イエス。シートの更新を提言』
などと揺れないメシエが言うので5回目のアップデートもすぐに行われることになりました。
『今日はメシエちゃんと旅していくよー』
『本日は余暇を過ごすために来てあげたわ。感謝しなさい』
『ありがとー』
『そうよ。良い心がけね』
2人のコラボ動画の撮影が始まりましたが会話という機能が仕事をしていないメシエにあなたが思いついた流れを伝えてありますが、どうしても棒読みになりがちです。なんだお前ら仲悪いのかと、あなたは茶々を入れます。
あなたはフロントガラスの一部に投影されている二人を映している映像の返しを見ながら、これまたガラスの一部に投影されている矢印に従って慎重に運転しています。
あなたは運転するからには出来ればマップが欲しいと言いましたが目の前にうねった線が現れるだけだったので、情報をシンプルにするために今の形に落ち着きました。
『一応この星の情報は聞いているわ。この辺りの特徴はどうなっているの?』
『この辺りは星裁と呼ばれる異常気象が多発している場所だね。この大陸は星裁が円上に配置されてるんだ』
『そうなの。原因は火山だったかしら』
『正確には火山の跡だねー。元々極東にある星の瞳って呼ばれる場所がこの星に星裁をもたらしたって考えられてるんだー』
あなたの心がときめき、そして戦慄します。急にそんなキラーワードを出すなんて。コイツ、男心を分かってやがると。
『星の瞳。ええ、聞いています。確か、星を割る海溝、海が収束する大瀑布』
『そうだね』
『そして、星の終焉そのものだと』
ポストアポカリプスものだ。あなたの耳は気になるワードしか拾わない壊れかけのマイクのようです。
運転しながら遠くに見える星裁の映像を撮影するために二つ目のカメラを動かします。
山頂付近は黒煙に覆われており、時折青白い稲光と空気を打ち破る轟音に、何か巨大な金属を無理やりに纏めてねじ切るような歪な音が響いています。
あなたがカメラを外に向けたことに気づいたサティが気を利かせてくれます。
『本来は星の瞳の中で起こっていることが余波となって表出したのが星裁ってことだね。因みに噴火噴石落雷は当たり前、磁気嵐や豪雨はレアで、たまに次元乱が観測されてるね』
『大気圏内で起こる気象としてはまさに異常ですね』
次から次へと繰り出されるワードがあなたのハートを打ち据えます。星裁に目を向けながらも視界にうつる矢印は見逃しません。
ぐっとハンドルを切れば体が流れます。後部座席にいる二人が揃って体を揺らします。かわいい。あなたは思いました。
『星の瞳の中は磁気嵐と次元乱で観測不能なの。間違っても降りようとしないでね?』
『探査機は……難しいですか』
『この星の調査回数分調査してるけどまともな結果にはなって無いかな』
『星裁を観測すれば星の瞳の観測も可能なのでは? 星裁は星の瞳内部のエネルギーが噴出した結果なのですよね?』
『星裁内部も調べられるものは調べたけどバラつきが多すぎて。それでもちょっとずつ進んではいる、と思いたいなあ』
あなたの残念な頭脳でも星の瞳という場所がこれでもかというほど危険なのは理解出来ました。あなたも危険の無いように見れるのならば見てみたい。ですが今の二人の醸し出す雰囲気を邪魔するようなことはしたくない。
あなたは嵐の海、船の中でクルーの安否を真剣に討論している船員の目の前でライフジャケットもつけずに釣りをするために甲板に出る自殺志願者ではありません。
いい感じの会話を繰り広げる二人の会話を邪魔しないようにサインを出します。
一先ず、星裁ってのを改めて見てみたらどうだ?
ガラスの返し映像に映る二人が揃って頷くのを見ると矢印が二つになっていました。
やたらでかでかと主張する矢印に従ってあなたは再びハンドルを切りました。後部座席の二人が揃って体を揺らします。かわいい。
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