見渡す者とその足元

4-1.コラボ



 あなたはサティと旅を続けるかどうか悩んでいます。それもそのはず、いえよくよく考えれば100万のリスナーを抱える有名配信者が個人活動で何とかなるはずがありません。それは彼女の上司と呼ばれるマネージャーが表れたことで納得するしかない事実であり、逆にあなたの自分勝手な行動を断罪する者が現れたということです。少なくともあなたはそう考えています。


 ぷかぷかと浮遊する通信装置のようなものをダイレクトデリバリーされたことには驚きましたが幸いあなたにとってはそよ風のようなものでしたし、直撃は避けられたので何ともありません。

 先ほどまで星裁と呼ばれる異常気象の話をしていたのですわ隕石かと思いましたが、土煙の先にいたものにあなたの頭の中には疑問符が沢山浮かんでいたことでしょう。

 サティにアレは何かと問いかけようとしてみれば着地の瞬間に吹き飛ばされているではありませんか。あなたは血の気が引きました。彼女の活動に命や人生を捧げられる強火のリスナーがいたらあなたはその責任を追及されその内住所まで追及されて嫌がらせを受けてしまうかもしれません。

 まああなたのSNSは情報収集用の特に自身に繋がる情報を乗せたり発言を残したりすることの無いアカウントしかありませんので特定される可能性は少ないですが、身近に過激なリスナーがいたら個人情報の拡散は諦めるしかありません。

 サティを介抱することにしたあなたには打算しかありません。土下座してでも動画の公開を止めてもらうしかありません。しかしイエスアイドルノータッチ。安易に触れる判断を下すことも出来ずに彼女の周囲をくるくると回り、仰向けに倒れていた彼女の様子を見ること数分。あなたと落下物は何故か隣り合ってサティの様子を眺めていました。


 いっそ喋れないというのならとりあえず話を聞いてもらうほかありません。

 あなたは何の考えもなく、サティという配信者が素晴らしい才能に満ち溢れていて、しかし感性そのものは残念で表情筋が死んでいるなどいっそ誹謗中傷のような事実をあげつらいます。隣にいた機械は一部チカチカと明滅していますがあなたにはそれが認識できません。




 ようやく起きたサティはすぐにいなくなってしまいました。どうやら急な用事が出来たようです。

 あなたの頭の中では公開処刑のカウントダウンが始まっています。

 メディカルケアは必要でしょう。それと同時にこれまで不遜な態度をとり続けていたあなたをどう辱めてやろうか。どうすれば最も苦しむのか。それをあのマネージャーらしき人物と考えているに違いありません。


 あなたが一人考え込んでいる間に先ほどとは比べ物にならないほど静かに二つの影が下りてきました。


『お待たせしましたリスナーさん』

『……こんにちわ』


 そこにいたのは先ほどとは少し装いが違うサティと、青と白のツートンカラーのツインテール黒軍服風ゴスロリ少女でした。

 呆気にとられたあなたはつい口にしてしまいます。


 マネージャーさんは?


『この人だよ?』

『ゴルゴーンです』

『違うよー?』

『ノー。違いません。当機は』

『違うよー?』

『……。わたくしは、統合軍遊撃艦隊司令? 宙海? メシエ。以後よろしくしてあげるわ』


 え、マネージャーさんも配信者なの?


『そうだよー』

『ノー。違います』

『そうだよ?』

『そうらしい、わ』


 あなたの頭にいくつもの疑問が浮かびます。マネージャーと配信者兼任? セルフプロデュースとかじゃなく? っていうか名前の繋がりからして同期生ってやつ? え、もしかしてマネージャーって芸能マネじゃなくて役割としての司令官マネージャーってことか?

 え、じゃあさっきの隕石みたいなやつって偵察機か何か? え、ヤバくない? と続かない辺りあなたの脳は灰色ではなくただの灰になって飛び散ってしまったのかも知れません。

 あなたはメシエのプロ根性に恐れおののきました。華奢で背の低いのに志は見上げるほど高い。彼女もまた数百万を超える有名配信者なのでしょう。


 そうなればあなたがするべきことは二人をいかにして並べ、またいかにして競り合わせ、いかにして円満に区切るか。

 どちらを応援してもいい、どちらの推しも楽しみ満足させることが出来るか。

 あなたの動物やアウトドア系、時々ゲーム系しかない視聴履歴から察するに大したことは思い浮かびませんが、何はともあれ現状最善と思われる手段をとるため、提案することにしました。


 コラボは何回目だ、と。


 サティは何をするのだろうかと少しだけワクワクした表情にで、メシエは何を言ってるんだろうかと呆れた表情であなたに向き直りました。


 どうやらあなたはまずコラボ動画のオープニングカットを撮影することで先程の失態を無かったことには出来なくとも、お茶を濁すことにしたようです。

  


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