3-2.【星廻サティ】サンドサーフィン【踊ってみた?】



『ハロー人類! 今日もサティちゃんのワールドツアーにようこそ! 今日は白海でさーふぃん? をするよー! そうじゃあさっそくぅ、スタート!』


 そう言ってセイルに繋がるトラクターハンドルを動かし航行するサティをあなたは撮影しています。

 あなたの動きは船に連動していますのでやや下から見上げる形のサティは両腕を動かして何かのアクションをしているようにも見えます。

 また先ほどジャージのような格好に見えた彼女の衣装はこのサンドサーフィンという状況も相まってダイビングスーツやラッシュガードにも見える不思議な装いです。

 ちなみにあなたはサティが船体を加工してくれたおかげですっぽりと船体の端に収まることが出来ています。


『さあ、丘を越えるよ!』


 あなたは正面で掴んでいたカメラをサイドスローでぶん投げますが野球ゲームでも見れないようなスライダー系の変化をしてぴたりと船体の横数十メートル離れた場所に留めます。

 これはサティに調整してもらったカメラの操作方法です。貴方の役割は視線で凡そカメラの軌道を誘導し彼女が展開するコンソールに映る返しと呼ばれるモニターで映像を確認しながらこのサーフィンを撮影するというものです。


『……いいいぃぃぃ、やっ……ほぉぉぉおおおっっ!!』


 サティも素晴らしいリアクションです。流石に十数回繰り返したリアクションの取り方だけに素晴らしい反応だと言えるでしょう。




 彼女はプロ意識の高い配信者でありながらスポーツとしてのサーフィンに対しても競技者として高い意識を持っていました。


 彼女と砂船と呼ばれる船に乗り、じゃあ撮影係をしようと申し出たあなたが撮影した映像はサティのガチ顔でした。終始真面目な顔でトラクターハンドルを握る彼女を撮影し一日が終わった時にはあなたは頭を抱えることになりました。

 彼女は配信者です。彼女を推す数百万のリスナーの為にももう少し違った映像が欲しい。あなたは立ち寄った廃墟群の影に停泊している船の中で、隣に座るサティに要求を出しました。


 あなたのその行動は正論や正攻法で配信者に指示を出す指示厨と大きな違いはありません。そのことをあなたは自覚していますが、先ほどのガチスタイルはまた別の需要があるでしょうからそれ用に取りまとめるとして、もっと気軽に見れるようなものにしたいと告げます。


 サティは返します。気軽に、とは。

 あなたは返します。君が楽しむ姿が見たいのだと。


 あなたは彼女を支える数百万のリスナーがどんな映像を見れば満足するか、一般的な思考で考えました。

 配信者そのものに人気がある場合はその人がどんな反応をするのか、どんなことをするのか、その結果どんなことが起こるのか。それらすべてに期待がかかります。

 あなたはサティのことを良く知りませんが、彼女のスペックなら何をやらせても上手くいくと考えました。

 であるなら笑顔で楽しみながらスゴ技を連発するビジュアルだけじゃない実力派としての演出をしようと思い立ちましたが、ふとあなたは気付きました。


 それって配信者である必要あるか?


 世の中には天から二物も三物も与えられた人間がいます。得てしてそのような人はビジュアルとその実力や実績に注目されます。

 美しすぎる〇〇といった謳い文句は今や当然のように巷に溢れ、いっそ陳腐化していると言っていいものになっているからです。

 ではどうするか。あなたはいつの間にかチャンネル登録者数百万人を擁する配信者のプロデューサーになったつもりで考え込んでしまいましたが、結局は彼女であることがすべてだろうと考え、普通の彼女をカメラに収めることにしたようです。


 しかしいざカメラを回してみれば特に表情の変化もなく淡々と乗りこなすサティ。

 あなたはつい余計なお世話を焼くことにしてしまいます。

 

 突如としてサティからトラクターハンドルを奪い彼女を待機場所に押し込んだあなたは彼女に楽しむを教えることにしたようです。


 風を掴み膨らむ透明で頑丈なセイル。トラクターハンドルを操作することで左右へ滑りながら蛇行しそして迎えたキッカーとも呼ぶべき坂であなたは大声で叫びます。


 風を受けて加速した砂船は物凄い勢いで飛び出し、体感で何時間もあったかのようなあの重力から解き放たれた浮遊感の後派手に砂に着地しました。ジャンプの快感と着地直前の地面までの高さを知った時の恐怖感と、こちらを見て目を見開くサティのレアな表情を見て、あなたは彼女自身の魅力を再確認しました。

 これでいける。ミリオン間違いなしだ、と。


 結局あなたの思う砂船の映像が撮れたのは数日後か数時間後か。とにかく予想以上に長い時間がかかりましたが、納得のいく映像を収めることが出来たので、あなたとしてはこの砂船での生活も楽しめそうだと、狭い船室でサティと二人サンドサーフィン動画の反省会を行うのでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る