うみをわたる
3-1.フネをこぐ
あなたは白い砂の海、吹き荒れる嵐、遠くの山の頂上を覆う雲海から漏れ出る稲光と異常気象の真ん中にありながら個性的なリクライニングチェアに寝そべり風景を楽しんでいます。
ドリルポッドロケットで外に飛び出たあなたとサティは見事な着地の後、吹き荒れる砂嵐に対応するため文字通り顔を突き合わせて話し合いをしました。そこでまずは外へ出ようとしたあなたですがサティから待ったがかかります。
何故でしょう。あなたは素直に尋ねたところサティはまずは移動手段を用意すると言って外に出てしまいます。それに続いてあなたが外に出ようとすると強烈に顔面を打ち付けました。それは風に巻き上げられて空を舞う無数の砂の礫です。
それはサティがすぐにポッドを閉じることで収まりましたが、あなたに確かな脅威を伝えることに成功しました。
正直に言えば貴方にとっては衝撃こそ感じたものの痛みを伴うものではありませんでした。ならばとあなたは自慢のそれで対抗することにしたのです。
それはあなたが着ている学生服の中に着込んだフルジップパーカーのフードです。
あなたは一般人的なセンスで学校指定の詰襟の学生服の内側にパーカーを着ています。しかしあなたは何を隠そうオシャレ番長を自認しています。オシャレとは外側だけではない、あまり目にはつかない内側にこそ細心の注意を払うべきだと考えています。
それ故、あなたは春夏秋冬いつでも着心地抜群のパーカーを数十着取り揃えています。そんな自慢のパーカーのフードを被り再び外に出ようとして、あなたは外が様変わりしていることに気が付きました。
いつの間にかロケットを覆う簡素な東屋のようなものが出来ていました。外にいるサティはいつの間にかお着替えを済ませており、何故か体育の授業時に着るジャージのような服装にサンバイザーのようなヘルメットを着用して荷車のようなものをつくっていました。
あなたがドリルポッドロケットから出るとサティが使っていたようなコンソールがありそこにマイクが置いてありました。
何故マイクだけがあるのか。カメラはどこに行ったのか。
あなたは作業を続けるサティを見て納得しました。彼女は何かはわからないが作ってみた動画を撮影しているようだと。マイクがここにあるのは裏方役である自分に何かしらの指示を出してくれというものだろう、と。
調子はどう?
ぴくりと動きを止めたサティはこちらへ振り返り手を振っています。大丈夫という事だろう。
ふむ。どうするか。こういった作業系の動画は配信なら雑談を兼ねて、動画であれば早送りやカットを使用しますが、ここでやることはあるのか。
手元をこっちに映せる?
サティは真っ直ぐ手を伸ばし何かを操作するとカメラが動きコンソールの脇に映像が映りました。何かはよくわからないが何かとてもすごくすごい技術だ。あなたは頭の中を空にしてその技術を褒めました。
その後もサティの手元や背後から制作物の全体像が徐々に組みあがってきます。それはソリに帆を付けた船のようなものでした。
帆は透明で昆虫の羽のように線が入っており光を反射して七色に輝いています。それを支えるマストのようなものは釣り竿のような細さとしなやかさを持っており、船体から半球状全てに旋回するように二本取り付けられているようでした。
そして恐らく操作はあの船体後方についているハンドルとスツールが一緒になったような場所で行うのでしょう。
船体自体は先ほどのポッドの倍以上の大きさですが船体のほとんどが黒く塗られており、舳先は鋭く攻撃的なフォルムをしています。
あなたは興奮を抑えられません。
一般リスナーと化したあなたは、おおおおとコメントしますが何処かでその性能を疑っています。急に天邪鬼リスナーに変貌したあなたは、それ本当に動くの? とコメントします。
任せてと言って乗り込んだサティはスツールに腰掛け、ハンドルのような部分から何か輪っかのようなものを取り外します。
それをサティがぐっと引くと帆が持ち上がり左右が引っ張られ帆が何かを包むように変形しました。
帆は役割を思い出したかのように風を掴み、その重そうな船体をするすると動かし広大な砂原の海へ漕ぎだします。
カメラはサティの後方、頭上近くから前を向きその広大な砂の海を映し出し、そしてあなたの視界からサティと船が消えました。
すげーとコメントする一般リスナーに戻ったあなたですが、どうやらサティの方は運転するのに集中している様子。カメラ位置の調整や画角調整をする以外は何もすることがありません。少しコンソールをいじってみましたがマイク以外はあなたの指示を受け付けないようです。
することが無くなったあなたは置いてあった驚くほど軽いドリルロケットポッドを倒しその上に寝そべって映像を眺めることにしました。
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