第13話 友達の家へ

「———眠いんだけど……まだ夕方だし、主様の命令じゃなきゃ起きてないよ……」

「いきなり起こして悪いが、オレを魔導王国に連れて行ってくれ」


 オレが頼ったのは、我が家に居候している『怠惰』の所有者———エイミー。

 魔法の……それも転移系魔法の扱いにおいては、無類の上手さを誇っている。


 正直、彼女程、転移の扱いが上手い者は人生で一度も見た事ない。

 あの『傲慢』で常に自分が1番上だと信じて疑わないアメリアでさえ、転移系の魔法では敵わないと認めた程だ。


 オレは時間短縮のため、彼女の転移魔法で魔導王国に連れて行って貰うことにした。

 エイミーは、面倒くさそうに……いや、物凄く眠たそうに欠伸やら目を擦ったりしているが、どうやら引き受けてくれる様で、俺の背中に触れる。


「……これから送るよ……暴れないでね」

「勿論だ」


 オレがそう言うと共に、オレの視界が一面真っ白に染まった。







 

 

「———やって来ました、魔導王国!」

「いぇーい!」


 俺は隣で両手上げてバンザイの状態でぴょんぴょん跳ねながら喜んでいるリリーに問い掛ける。


「何で居るの?」

「何で居たらダメなの?」


 質問を質問で返すなよ。

 何でって言われたら答えにくいじゃん。


「俺、1人で転移されたんだけど?」

「ついて来た! エイミーちゃんにおねだりしたら連れて来てくれた!」


 裏表の無い清々しいほどの純粋な笑顔を浮かべて言うリリーだが、残念なことに俺は知っている。

 

 ———リリーのおねだりとは、俺とレオナ以外には脅迫だと言うことを。


 リリーは純粋な笑みを浮かべながら、数多の魔法と持ち前の身体能力でどんな相手の心をも確実にへし折る。 

 俺とレオナには可愛らしく言葉の通りおねだりしてくるので、実質俺に実害はなく、あまり気にしていないが。


「まあ、いいか、リリー1人くらい」

「アルクお兄ちゃん、一緒にデートしよ!」

「デートじゃなくてお散歩な。俺とデートするなんて後10年早いぞ」


 俺はロリコンでは断じてない。

 よって、こんな子供は俺のストライクゾーンから大きく外れている。


 しかし、俺の言葉が不服なのか、リリーは大きく頬を膨らませた。


「リリーは子供じゃないもん、立派なオンナだもん! アルクお兄ちゃんとデート出来るもん!」


 そう言いながら更に頬を膨らませて不貞腐れるリリー。

 そう言うところが子供なのだが、これ以上言うと泣きそうなのでやめておこう。


「ほらリリー、好きなお菓子買ってあげるから早く行こう」

「ほんと!? やったあ、直ぐ行こ!!」


 一気に頬を萎ませ、上機嫌で俺の手を引きながら歩き出す。

 何なら鼻唄すら歌っている。


「…………」

「? どうしたのアルクお兄ちゃん?」

「いや、何でもないよ」


 不思議そうに首を傾げるリリーに、俺は首を振って誤魔化す。

 ただ無邪気な子供みたいで微笑ましいなと思っただけなので、言う必要もないだろう。

 

 俺はリリーの可愛さに癒されながら、リリーの歩幅に合わせて歩き出した。











 ———魔導王国に転移で来てから、既に2時間以上が経過した。

 未だユーマの家には辿り着けていない。


 理由は単純明白。


「この街広ーーい!!」


 リリーが叫んだことが正直全てである。


 この街は魔導王国の首都なのだが、如何せん広過ぎる。

 弱小国家生まれの俺としては、目が回りそうな程の広さで、人の数も異次元に多い。

 カリバン王国全体の人口が約200万人位なのに対し、魔導王国は首都だけで300万人は裕に超える。


 そんな大人口の首都ともなれば、建物も街の中心部は、高くて50メートル、低くても2、30メートルはあるのでは無いかと思われる規模の物が幾つも存在していた。

 更に魔法を使う者達が多いせいか、空を飛ぶ者も複数いる。


 …………空飛べばいいじゃん。


「リリー、大人の貴女にお仕事があります」

「何でしょうか、アルクお兄ちゃん! 大人のリリーが遂行します!」


 俺は、敬礼のポーズを取らながらも、先程まで食べていたクッキーの食べかすを口周りに付けたキュートで微笑ましいリリーに頼んだ。


「俺を連れて空を飛んでください」

「リリーにお任せあれ!」


 リリーは二つ返事で了承すると、俺の手を握り、一言唱えた。


「《お空へれっつごー!》」


 そんな掛け声の様な詠唱と共に———リリーの魔力が俺とリリーの身体を覆う。

 更に魔力が空気を押して、空へとゆっくり浮かび上がり始めた。

 

 空を飛ぶのは基本簡単だ。

 魔力を均一に身体に纏わせ、空気と反発させる事によって宙に浮かぶ。

 後は魔力の出力を調節して移動するだけ。

 それを一瞬で発動させるのが、飛翔魔法の基礎だ。


 ただ、この方法は結構な量の魔力を食うので、魔力が乏しい俺には出来ない芸当なのである。


 因みにリリーは魔力量は、俺のざっと1000倍程度はあるだろう。

 数値にしたら『SSS』と言った所か。

 俺の『C+』とはレベルが違う。


 そんなバケモノ級の魔力量を誇るリリーは……。

 

「アルクお兄ちゃん、凄いでしょ? リリー偉い?」


 俺に頭を突き出して、撫でて欲しそうに上目遣いで見ていた。

 目をうるうるとさせて庇護欲を唆らせている辺り、大概年上の扱いが上手い。


「よしよし、凄いぞ」

「えへへ……リリーもっと頑張るっ!」


 リリーがそう言って意気込むと同時に、俺の本能が警鐘を鳴らす。

 此処で止めなければ、何か嫌な事が起こる気がして止めようとするも———。


「《進めー!》」

「うおっ!?」


 それよりも早くリリーが詠唱を済ませて魔法を発動すると、一気に俺とリリーの身体が加速する。

 ただ加速しただけならまだしも……景色の移り変わりを見る限り音速と同等レベルで進んでいる模様。


「あ、ユーマの家……」

「なーにー? 聞こえないよー!!」


 俺は、一瞬で目的地を通り過ぎたことを確認しながら、諦めて、楽しそうに空を飛ぶリリーの好きな様にさせてあげる事にした。


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