第12話 消えた友達

「———やばい、やばい、やばい」


 模擬戦のあった次の日、朝っぱらから俺は学園で頭を抱えていた。

 理由はただ1つ。

 

 ———この学園の中に、俺の正体を知る者が居る、又は、俺の正体に限り無く近付いている者がいる。

 それも2人も。


 1人目は勿論、昨日戦ったお姫様だ。

 あの話振りと、此方を試す様な戦い方は、間違いなく俺が何か普通とは違うことを見抜いている。


 だが、まだバレてはいないはず。

 よってセーフ!


 問題は次だ。

 昨日宰相が学園長に連絡した所、そんな書類は一切受け取っていないとの返答が返って来たのだ。

 その返答に対し、普段は物凄く冷静な宰相がガチギレして物凄く怖かった。

 爺さんと部屋の隅で縮こまってしまうくらいに怖く、何なら『大罪』の奴らよりも場合によっては怖いかもしれない。


 話がズレたが、兎に角俺が言いたいのは、一国の重鎮である宰相と国王の押し印まである書類を、学園長に届けない不届者がこの学園内に存在すると言うことだ。

 今回俺の相手がお姫様だったのも、ソイツがやったのかもしれない。


 つまり、俺は今後、お姫様と謎の人物に注意を払って学園生活を送ることを余儀なくされるわけだ。


「め、面倒過ぎる……」

「どうしたんだ、アルク? あ、分かった、昨日リーナ様に情け無い所見せて落ち込んでんだろ。まあしょうがないって」

「全く違う、1ミリたりともあってないから」


 タオが机に突っ伏して頭を抱える俺を揶揄ってくる。

 だが、今は悪いがタオを相手にしている暇はないのだ。


「何だよ、違うのか、結構合ってると思ったんだけど……。あ、今思い出したけど、ユーマは? また稽古付けてもらいたいのに、最近全く姿を見てないんだけど」

「……確かに」


 ユーマとは、俺とタオが仲良くしている同じクラス……ではなくBクラスでもTOP10に入る程の秀才君だ。

 出身は魔導王国で、現大魔法士。


 余談だが、魔導王国の魔法使いには階級があり、それによって地位も変わってくる。

 1番上から『大魔導師』『魔導師』『大魔法士』『魔法士』『魔法使い』と5つの階級に分かれているわけだ。

 大魔導師は10人のみで、そこから下は試験やそれ相応の事を成し遂げて階級を上げるらしい。


 話は戻るが、ユーマは、茶髪にイケメンが眼鏡をかけているのと座学の成績が良いことから、愛称はインテリ系イケメン、略して『テリメン』などと俺達の中では呼ばれている。

 当の本人は、ダサ過ぎて嫌だ、と絶えず呟いているが。

 

 そんな彼だが、最近ドタバタしていて気付かなかったが、確かに全く姿を見せていない様な気がする。


「何かに巻き込まれたのかな? ユーマは強いから滅多な事ないと思うんだけど……」


 友達兼師匠のユーマに会えず、少し不安気に呟くタオ。

 俺も心配だし、数少ない友達なので行方も気になる。


 と言う事で、タオも誘ってユーマの借りている宿に凸る事にした。

 

「……今日の放課後にでも、ユーマの家にでも行ってみようぜ」

「あ、いや、俺は今日部活あるから、また別の日に行くとするよ」


 そうだった。

 無所ぞ———帰宅部の俺とは違って、タオは魔法研究部に在籍しているんだった。


 なら仕方ない。

 俺だけで様子を見に行くとするか。









「…………居ないな」


 俺は放課後、タオに言った通り、ユーマの借りている宿に訪れていた。

 そこそこいい宿だからか、『インターホン』と呼ばれる魔導具が付いていたので押してみるも、反応はない。


「魔力探知でも……そう言えば、この国って一部以外魔法用禁止だったわ」


 俺は仕方ないので、この宿の店主である60代のおばちゃんに話し掛ける。

 

「あ、おばちゃん、ちょっといいですか?」

「んー? あ、誰かと思えばアルク君じゃないかい! どうしたんだい?」

「実はユーマが最近学園に来てないんですよ。何か知らないかな、と思いまして」


 毎日此処に戻って来ているなら、それはそれで何をしているのか非常に気になるが、取り敢えず今は安否確認が最優先だ。

 もし帰って来ていなければ……まあ友達として責任を持って連れて帰って見せよう。


 そんな意気込みを持った俺に、おばちゃんは困った様に言った。


「それがねぇ……最近帰って来てないのよ。2日くらい実家に戻るって言ったっきりね」

「そう、ですか……その時に何か変わったことはありませんでしたか?」

「無かった気がするよ。普段通り明るい雰囲気で、『久し振りに親に呼ばれたんだ』って嬉しそうに言っていたのを覚えているよ」


 ユーマ本人が言うには、実家は実力主義な場所らしい。

 両親何方も魔導師で、息子のユーマには魔導王国最高峰の称号である『大魔導師』になって欲しい様だ。


 そんな家に呼ばれたきり、戻って来てないと……幾ら何でも怪し過ぎないか?


「ありがとうございます、おばちゃん! 今度はユーマも連れて来ます!」

「何かよく分からないけど、気を付けて行くんだよー!」


 おばちゃんの声を聞きながら、路地裏に入ると、即座にフード付きのローブを着る。

 面倒事は嫌いだが、何かに巻き込まれていそうな友達を見捨てれる程薄情でもない。


「———オレだ、1つ頼みたい事がある」


 俺は、ポケットに突っ込んでいた連絡用の魔導具を取り出して、とある人物に連絡を掛けた。


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 次は18時更新。

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