第11話 それぞれの思惑

「———おいこら、ふざけてんじゃねぇぞ」

「!? な、何故お主が此処に……と言うか我が近衛兵達はどうした!?」


 俺が1日振りに王城の執務室に行くと、爺さんと宰相が驚いた様に仕事の手を止めて俺の方へと視線を向けた。

 2人とも大きく目を見開いており、大変驚いている様だが、模擬戦でのことがなければ罪悪感に苛まれていたかもしれない。

 まあ今は1ミリたりとも罪悪感なんて感じていないが。


「視認出来ない速度で素通りして来た……ってそんなのどうでも良いんだよ。おい、宰相、何で対戦相手を変えてくれなかった?」


 怒りのクレームを入れると、宰相が慌てた様に立ち上がる。

 激しく動揺している辺り、何か理由がありそうだが……よっぽどの事が無い限り許すつもりはないが、さて、一体どう言う言い訳を言うつもりなのだろうか。


「そ、そんなはずは……私はちゃんと対戦相手を変えました。手配書も書いていますし、手元にあります」


 宰相から受け取った紙を見てみると、確かに俺の対戦相手を、更には怪しまれない様に何人かの生徒も一緒に変える様に手配されていた。

 それに学園側の押し印もある。


「……なら何で俺の対戦相手が変わらなかったんだよ」


 幾ら弱小だからと言って、カリバン王国の宰相、果てには国王の押し印まである手配書を無視出来る程学園に権力はないはずだ。

 と言うか無視されたのだとしたら、我が国が舐められすぎて心配になる。


「分かりませんが、学園側に確認を取っておきましょう。結果も勿論お教えします」

「そうしてくれ、じゃないと『傲慢』をけしかけるからな」

「今すぐやるのだハイン! 残っている仕事はお前が戻るまで余がやっておく! これは国王命令である!」

「はっ、直ぐに取り掛かります。少々お待ち下さい、アルク様」


 俺が『大罪』の名を出して軽く脅した途端に2人は顔を真っ青にして焦り始めた。

 普段は問題児だらけの『大罪』達だが、アイツらの名前はこう言った場面では結構使えるらしい。


「じゃあ俺は適当に寛いでおくわ」

「是非ともそうしておいてくれ、決して『大罪』の奴らは呼ばないでくれよ!」


 一応俺、その恐れる大罪達の元締めなんだが……。


 少し釈然としないと、眉を顰め、慌てふためく2人を見ながら優雅にお茶を啜った。









 ———アルクがお茶を啜っていた頃。


 学園の生徒の中でも、ほんの一握りの者しか入室を許可されない学園長室に、リーナ・フォン・カリバンは来ていた。

 学園長室の来客用ソファーで、リーナはお茶には手を付けず、目の前に座る学園長であり世界最強と名高い魔女———ノアは、蠱惑的な笑みを絶えず浮かべて優雅に紅茶を飲んでいた。


「ごめんねえ、私は何も知らないわよ〜」

「嘘ですね、貴女が知らないはずがない。教えて下さい———アルク・ドミネイターは、ドミネイター家とは一体何なのですか?」


 真剣な表情で詰問するリーナ。

 だが、ノアは相変わらず笑みを浮かべたまましらばっくれる。


「本当に知らないわよお? だって私、この国に詳しくないからねえ」

「……教えて頂けないと言うことですね」


 鋭くノアを睨み付けながら吐き捨てる様に言うリーナは、軽く殺気まで纏っていそうな不気味な雰囲気だった。

 しかし手荒な真似などは一切しない。

 リーナも理解しているのだ。


 目の前の女性は、まだリーナでは、智謀にしても戦闘力にしても到底敵わない相手であることを。


 リーナこれ以上此処に居ても無駄だと判断した様で、ため息を吐きながら立ち上がる。

 そんなリーナが退出する間際、ノアが言った。


「この世界にはねえ、知らない方がいいことも沢山あるのよ」

「……御忠告ありがとうございます」


 リーナは一言、顔も見ずに言うと、部屋を出て行った。


「ふぅ……大分怪しまれていますねえ、ま、私には関係のないことだけれど。うん、やっぱり私の淹れる紅茶は最高ねえ」


 ノアは1度も手を付けなかったリーナの紅茶の飲み、頷きながら言った。






 ———同時刻。


 カリバン王国のはずれのにある、モンスターの巣窟として知られる森のとある一角で、隠遁効果のなされた結界に護られた荘厳な邸宅が建っていた。

 周りは木……ではなく木に擬態したプラントと呼ばれるモンスターに囲まれている。

 そのためか、その区画だけ他のモンスターの姿が見えなかった。


「———『大罪王』は残念ながら何事もなく模擬戦を終えられました」

 

 そんな邸宅の一部屋で、1人の男が、グラスに入ったワインを優雅に味わっている女に告げる。

 女は男の報告を聞いて、グラスから口を離し、少しつまらなそうに呟いた。


「……そうか、あの天才と呼ばれるリーナでもダメか。まあ予想範囲内だ、また何かあれば私に報告しろ」

「はっ、仰せのままに」


 男はそれだけ言うと、一瞬にしてその場から消え失せる。

 1人になった部屋で、女は———。


「早く『大罪王』の座、渡して欲しいものだな」


 アルクから大罪王の座を奪い取った時のことを考え、グラスのワインに口を付けた。

 

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 次は朝7時更新。

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