第10話 違和感(始めリーナside)

「…………」

「…………」


 私———リーナ・フォン・カリバンは、目の前に現れた顔を真っ青にした青年を観察する。


 アルク・ドミネイター。

 黒髪黒目と言う、貴族にしては珍しい姿であり、100年以上もの間この国の子爵として責務を全うしている貴族の息子。

 歴代の当主の能力は、彼と同様に全て平凡ながら、当主になると、絶対に没落もしないし、かと言って大きな手柄も立てない。


 ドミネイター家は、我が国で最も謎めいた貴族家である。

 何故か他国はそこまで気にしていない様だが、それも仕方のないこと。

 私自身、過去にあんなことを見なければ疑いすらしなかったはずだから。

 

 それは———数年前、1度だけ彼が王城に来ているのを目撃した事がある。

 しかも、この国で最も忙しい宰相であるハインが敬語で案内をしていたのだ。

 一介の子爵家の子息に、だ。


 それ以来私は彼の家について調べる様になった。

 城の使用人からの情報提供から始まり、昔の文献なども漁ってみたが、これと言っていい情報は得られなかった。


 しかし、今回、遂に彼と接触する機会を得たのだ。

 私自ら彼の下に行けば、他国にまでドミネイター家が王家と何かしら繋がりがあるとの疑惑を植え付けてしまうため行けなかったが、模擬戦ならば、そんなことは思われない。


「貴方、剣を使うのかしら?」

「あ、はい、そうです」


 アルク・ドミネイターは、ペコペコ頭を下げながら愛想笑いを浮かべている。

 とてもこれから戦う対戦相手に負けるものではない。


 更に、魔力は完全に制御されておらず、常に少量だが身体の外に漏れている。

 佇まいも武術に秀でている様にはとてもではないが見えない。


「それでは対戦を始める、準備はいいか?」

「「はい」」


 教師の言葉に私もアルク・ドミネイターも頷く。

 2人の同意を得た教師は、上に挙げた手を振り下ろした。


「試合———開始!!」


 私は教師の言葉が言い終わるのと同時に剣を抜いて、武舞台を駆ける。

 そのままドミネイターに接近すると、挨拶代わりの横薙ぎを繰り出す。


「うおっ!?」

「へえ、この攻撃に対応出来るのね、中々やるじゃない」


 ドミネイターは、不格好ながら私の剣を受け止め流した。

 幾ら力も技術も篭っていないとはいえ、速度はBクラスにも劣らない程度で攻撃した。


 私は少し面白くなって、普段戦場以外では使わない突飛な技を繰り出した。

 私がいきなり剣ではなく、脚で蹴り上げて来たことに驚いた様子のドミネイターだったが、瞬時に地面を蹴って私の蹴りの威力を減衰させる。


「り、リーナ様……?」

「何? 戦いでは脚を使ってはいけないなんてルールはないわよ?」

「…………そうですね」


 『何言ってんだコイツ』的な顔をしていたドミネイターだったが、私の振り上げた剣に気付いてギリギリの所で剣を身体の間に滑り込ませた。

 私は力を込めて剣を振り、受け止めたドミネイターを吹き飛ばす。


「まだまだこれからよ!」


 私は剣を構え、意気揚々とドミネイターに突っ込んだ。













 ———いや、虐めですか?

 俺、一回も攻撃に移れてないんだけど。

 隙自体はあるけど、此処で反撃したら俺が実力隠してるのバレるよな。

 てか、俺、Cクラスなのに手加減ないわけ?

 

 俺はお姫様の鋭い攻撃を剣で防ぎながら、心の中で毒付く。

 

 本来模擬戦は、下位者の実力を測るための戦いであって、上位者が一方的に攻撃をするものではない筈だ。

 と言うか、そもそも上位者の過度な攻撃は禁じられているはずなのだが、何故か試験官である教師が止めないのは流石におかしい。


 俺は上段からの振り下ろしを頭の上で剣を水平に構えて受け止めながら声を上げる。


「あ、あの! これってルール違反なんじゃ……」

「別にルール違反では無いわよ、だって私が貴方の実力を測っているんだもの」


 その言葉に、俺は違和感を覚える。


 ……

 教師でも無い一介の生徒が?


 そんな馬鹿なことあり得ない筈だ。

 成績を付けるのが教師なのだから、実力を測るのは教師の仕事のはず。

 

 何かおかしいな……もしかして俺を探っているのか?

 いや、流石に俺が『大罪王』だとはバレていないはず、なのだが……。


「どうしたの、反撃はしないの?」


 巧みな剣捌きで俺の動きを封殺しているお姫様が挑戦的な笑みを浮かべる。


 アンタ、絶対何か俺の秘密の一端を握ってんだろ。

 あと、わざと隙見せて反撃させようとするのやめろよ!


 何処か含みのある笑みを浮かべながら楽しそうに訊いて来るお姫様には、少し殺意が湧きそうだ。

 だが、ここで怒ると社会的に死にそうなので我慢我慢。


「反撃したくても、出来ないんです、よ!」

「……本当に?」


 お姫様がグイッと顔を俺の耳に近付けて呟いた瞬間、背筋が凍る様な感覚に陥る。

 その声色には、確信を得ている様な、そう言った感情が混じっていた。


 ……もしかして既にバレてる?


 俺は極力顔や身体に動揺が出ない様にするが、果たしてバレていないかは不明だ。

 もはや神にバレていないことを祈るしかなさそうである。


 俺が神に祈りを捧げていると、お姫様が小さくため息を吐いた後で言った。


「———まあ良いわ、今日はこれくらいにしておいてあげる」

「え?」


 間抜けな声を上げると同時に、お姫様が今までで最も鋭く剣を振るって俺を弾き飛ばす。

 防ぐと言うか剣で何とか受けた俺が着地をしたのを見届けると、何やら教師と一言二言会話してから武舞台を降りて行った。


「これにてアルク・ドミネイターとリーナ・フォン・カリバンの模擬戦を終了する!」 

 

 教師の掛け声は、あまりの展開の速さに追い付けずにいた俺を正気に戻すのに十分であった。

 正気に戻った俺はと言うと……。


「あいつら……何があったのかしっかりと教えてもらわないとな」


 苛つきを抑えながら直ぐに武舞台を降りてそのままの足で王城へと向かった。

 

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 次は18時更新。

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