第7話 レオンと手合わせ

 俺の言葉を聞いた爺さんが、呆然としながら机に肘を付くと頭を抱え込む。


「ちょ、ちょっと、いや、少し待ってくれ……。余の愛娘、リーナがこの頭のおかしい男と戦うだと……?」

「おい、誰が頭のおかしい奴だ。だが、いいだろう、そこまで言うなら『大罪』達をこの城にけしかけてやる」

「ま、待て、余が悪かった! 少し混乱して判断が鈍っただけだ! だからあのバカみたいに強い奴らは呼ばんでくれ!!」


 本気で泣きながら俺の足にしがみつく爺さんからは、微塵も王としての威厳を感じなかった。


 黙っていれば王様っぽいのに。

 ほら、宰相もため息付いてるぞ。


 宰相は爺さんのあまりの醜態に見兼ねたのか、俺の足にしがみつく爺さんを無理矢理引き剥がして、思いっ切り頭をチョップした。

 『ゴチンッ!』と結構痛そうな音が響いたかと思うと……。


「国王陛下、子供の前であまり醜態を晒さないでください」

「こ、子供……?」

「はい。アルク君は『大罪王』ですが、この国の子供です。一国の王として相応しい言動を心がけてください」

「……はい……」


 宰相に結構マジで怒られた爺さんは、意気消沈としてシュンとしてしまった。

 そんな爺さんを見てため息を吐く宰相は、何かを諦めた様に首を横に振る。


「アルク君、取り敢えず対戦相手は私が何とかしておきますので、今日の所はお帰り頂けると幸いです」

「……ああ。帰るとしよう」


 俺は再びフードを被って魔力を纏うと、窓から飛び降りる。

 その際、宰相は礼をして立っており、爺さんは未だ不貞腐れている姿が見えた。


 ……この国は多分宰相のお陰で存続出来ているんだろうな……。


 俺は1人で国を守る宰相に、今度何かいい事をしてあげようと思った。











「———お、やっと来たなぁ」

「五月蝿いぞ、デイビッド。主人が来た時間が集合時間だ。つまり、今は集合時間だ」

「えぇ、相変わらずレオンの狂信振りには驚かされるなぁ……」


 国王との面会の後、俺はそのままの足で家に戻り、デイビッドとレオンに会いに来た。

 2人は既に俺の家の秘密の修練場に来ており、2人で戦ったのか、既に修練場の一部が破損している。

 まぁ自己修復機能が付いているので全く問題ないが。


「主人、俺達のためにわざわざ時間を作って頂きありがとうございます!」

「別にプライベートだし、ゆるくていいぞ」

「ダメです、今まで俺が犯してきた無礼を考えればこのくらいは当たり前です」


 もうやだよ、アメリアみたいで接しにくいんだけど。


 仮面をつけたまま、俺が言っても尚、頑なに口調を変えないレオンと、その横で苦笑いをしているデイビッド。

 しかし、苦笑いをするだけでどうやら助け舟は出してくれない模様。


「諦めなぁ、主。コイツは頑固だから絶対に変わらないぜ?」

「黙れジジイ、殺すぞ」

「お前も一々キレるな、他の奴らから苦情も来てんだぞ」


 レオンは『憤怒』の所有者なので、キレるなと言っても難しいのかもしれないが、苦情が来ているのは本当だ。

 まずアメリアにエレナ、エイミーの女性陣からは全員来ており、デイビッドも今の様にボロクソに言われている。

 流石にリリーとルドには怒らない様にしているらしいが、正直、大罪所有者の中ではぶっちぎりで1番の問題児である。


 それに大罪の性故に他の勢力との衝突も俺の部下で1番多い。

 毎些細なことが多いが、大事になり、デイビッドか俺かエレナが仲裁に入ると言うのがもはや定番になっている程だ。


「最近は問題起こしてないだろうな?」

「勿論です、主人に迷惑は掛けられませんので、ギリギリの所で踏ん張ってます!」

「でもこの前———むぐっ!?」

「それより、また俺と手合わせお願いしてもいいでしょうか!?」


 デイビッドが何か言い掛けた瞬間、レオンが少し焦った様にデイビッドの口を塞いで物凄い露骨に話題転換をしてきた。

 仮面を着けているせいでどんな表情をしているか不明だが、相当焦っている様だ。


「別にいいが……今からやるのか?」

「勿論です!」


 レオンは槍を持って俺から離れる。

 2、30メートルほど離れたかと思えば、腰を落として力強く槍を構えた。

 更に濃密で強大な赤黒い魔力が全身から噴き出すが、直ぐに身体の周りに薄い膜の様に纏われる。


「いつでも大丈夫です!」

「本当にいきなりだな……」


 いつもはあんなに俺を狂信レベルで崇拝するレオンだが、いざ手合わせとなると敵意丸出しで挑んで来る。

 しかも魔力まで使うとは、相当本気で来る様だ。

 その証拠に、武闘派デイビッドが少し離れた所で魔力の壁を作っている程だ。


 正直面倒だが……受けると言った以上、此方もある程度ちゃんとやらないとな。


「はぁ……。よし、やるか」


 俺は全身に無色透明な魔力を纏う。

 手にするは、無骨な何の変哲もない剣。


 魔力は何種類かの色があり、俺の魔力もレオンの魔力も世界に唯一の色の魔力だ。

 一応色毎に少しばかりか特性に違いはあるが……まぁぶっちゃけ殆ど変わらないので特に気にしなくていい。


「行きます———ッ!!」

「……っ」


 レオンの声と、俺の目の前にレオンが現れるのはほぼ同時だった。

 俺の目に飛び込む槍の刃の先。

 咄嗟に剣を振り上げて刃先を力ずくで弾き飛ばすと、バックステップで距離を取る。


「流石主人、あの攻撃に対応して来ますか」

「これは少し、マズいかも」


 俺は纏う魔力を増やして飛び込んだ。

 

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