第6話 カリバン国王と対面
「———随分と久し振りだな……1年振り程か?」
俺はいつも『大罪王』として活動するときに着用しているフード付きマントとちゃんとした服装に着替えて城を見上げていた。
カリバン城は他の大国に比べれば小さくて質素だが、我が家の邸宅なんかよりはよっぽど大きくて豪華絢爛である。
確か前回はここに来たのは、裏社会で俺の部下に喧嘩を売ったヤクザが実は他国の諜報員だったことに気付き、尚且つ、俺の正体にあと一歩の所まで迫っていたので、その国を滅ぼしに行くと報告に来た時以来のはずだ。
あの時は俺も国王も、理由は違えど結構本気で焦った。
『大罪王』の正体がバレれば神聖国に攻められる可能性がほぼ100%に上昇し、他の国からの引き抜きが絶えなくなることが容易に想像出来たからだ。
俺は平穏を望み、国王はこの国の平穏を望んでいたため、非常に迅速に許可がおり、国民を殺さないことを条件に滅ぼすことを許可された。
滅ぼすとは言えど、この情報を知る者以外は抹消する必要も無いので、たった一夜の内に終わったのは懐かしい思い出だ。
主に思い出したく無い思い出だが。
「さてと、行くか」
俺は、意識して魔力を体内に封じ込め、一切外部との接触を遮断する。
こうすることで俺は魔力を持たない存在と見做され、城の結界をすり抜けられるのだ。
「行くならやっぱり玉座の間か」
カリバン王の玉座に行くには、どう足掻いても中に入らないといけないので、非常に面倒極まりない。
ただ、堂々と真正面から入ろうとしても衛兵が俺のことを知っているはずもないので、こっそりと侵入することにした。
窓が開いている所……あった。
高さは地上から35メートル。
魔力を使えばジャンプ1回分の高さだが、生身だと15メートル以上は飛べない。
俺の基礎スペックは大して高くないのだ。
「面倒くせぇ、なっ!」
俺は、地面が抉れない程度に蹴って跳躍。
城の低い位置にある屋根に飛び乗り、再びジャンプして窓に手を掛ける。
「あ、開いてない」
残念ながら窓はしっかりと施錠されている様だ。
しかも魔法で強化されているのか、ガラスなのに叩くと金属みたいな音がする。
まぁ開けっ放しとか言う不用心なことは王のいる城じゃ無理か。
俺の家は基本開けっ放しだけど。
「さて、どうするかな」
正直言って、素の俺の身体能力では、この強化されたガラスを破壊するには、足場が悪いこともあって少し無理がある。
かと言って諦める訳にもいかない。
……仕方ない、こうなったら向こうから来て貰うとするか。
俺は拳に魔力を纏うと、片手で身体を支えながらもう片方の拳でガラス窓を殴る。
俺の拳が当たったガラスは、誰かしらに聞こえる程に大音量の破壊音を響かせて粉々に砕け散った。
「よし、これで侵入成功」
「———何者だッ!!」
俺が窓から侵入してから僅か十数秒しか経っていないと言うのに、もう何人もの兵士がやって来た。
随分と訓練された兵士だこと。
俺が少し感心していると、1番先頭に立った鎧を着た男が、魔力の纏われた剣を此方に向けて鋭く言い放つ。
「私は貴様に何者だと訊いている!」
「言ってどうなる」
「本来ならば捕縛して侵入したわけを尋問するが、返答次第ではその場で殺す!」
要は、『今すぐにここに来た理由を言え。言わないと即座に斬り殺す』と遠回しに脅しているのだ。
別に要件などこの者達に言わなくてもいいのだが、ここで罪のない、自らの仕事を全うしている兵士を殺す事は出来ない。
「王に会いに来た。宰相か王に『大罪王』が会いに来たと伝えろ」
「『大罪王』……? 一体何だそれ———」
「大罪王様、ようこそおいで下さいました。お久し振りですね」
「さ、宰相様!? な、何故この場に!? き、危険です、今すぐに離れて下さい!」
鎧の男は、何の警戒もせず俺に近付く宰相にギョッとしながらも、直ぐに宰相を守る様に立ち回る……前に宰相に手で止められた。
宰相———30代前半のイケメン———は尚も俺の下へ不用心に近付いてくる。
「宰相様!?」
「大丈夫です、彼は私達の味方ですから。どうぞ、此方へ」
「ああ」
俺は宰相に連れられ———玉座の間ではなく、執務室的な所に入る。
そこには……。
「くそッ……何故余がこんな事をしなければならないのだ……! ハインめ……いきなり出て行くと思えば余に仕事を押し付けよって……!」
どうやら宰相に仕事を押し付けられたらしいカリバン国王の姿があった。
その机には大量に山積みされた書類や何やらが置いてある。
「大変そうだな、爺さん」
「余を爺さんとは何と不敬……毎度注意するが、いい加減勝手に余の所に来るでない、せめてアポを取れ! アポを!」
カリバン国王———爺さんは、イライラの頂点に達したのか、全力で俺に万年筆を投げてくる。
俺は飛んでくる万年筆を2本の指で掴む。
「物騒過ぎるって爺さん」
「お主は何故こうも忙しい時に限って余の所に来るのだ!? それにハイン、貴様は余に仕事を押し付けて何をしておったのだ!」
唾を飛ばす勢いで畳み掛ける爺さんの言葉を、宰相のハインは慣れた様に涼しい顔で聞き流していた。
恐らく普段からこの様なやり取りを何度もしているのだろう。
「はぁ……。で、お主は何故余の所に来たのだ?」
「———おい爺さん、一体どういう了見で俺の相手をお姫様にした? お陰でこっちは目立って目立ってしょうがないんだよ……!」
俺は、フードを外して勢い良く爺さんに掴み掛かる。
突然の俺の行動に宰相は驚いた様に目を見開いて固まっており、爺さんは少しの間をあけて……。
「………………は?」
理解不能とでも言う様に小さく溢した。
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次は18時更新。
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