第5話 抗議する凡人子息

「ゼェ……ゼェ……っ、し、死ぬ……!」

「お前な……流石に2000メートルでそこまではならんだろ」


 一応毎日授業で運動しているので、コイツの様に地面にぶっ倒れそうな程疲れている生徒は殆どいない。

 俺は皆の速度に合わせて走ったので、まだまだ余裕がある。


「ゼェ……ゼェ……ゴホッゴホッ!!」

「聞いてないなコイツ。まぁいいか」


 俺は咳込むタオを横目に、明日行われる種目———戦闘技能テストについて考える。


 戦闘技能テストは俗に言う模擬戦で、実力に差がある生徒同士で戦い、その者の戦闘能力を測る物である。

 A組は先生、B組はA組、C組はB組と言った風に、自分より1つ上のクラスと戦うため、E組以外はどの組も2回は戦わないといけない。


「面倒くせぇ……」


 思わず顔を顰めてしまう。

 ただ、面倒と言うのにはちゃんとそれなりの理由があるのだ。


 戦闘技能は、どの種目より自分の能力を隠すのが大変且つ面倒な種目である。

 雑魚を演じるとしても少しのミスで教師に実力がバレる恐れがあるし、下手すれば、教師だけでなく生徒にもバレるかもしれない。

 まあ武術の技術程度なら多少バレても問題はないんだが、俺のもう1つの力がバレるのはマジでやばい。


 我がドミネイター家の本来の姿は、我が国の王族の僅か一部分しか知らない。

 更に昔国と交わした盟約に正体を知られてはならないと言う掟があるので、『大罪王』だとバレれば、その人間を抹殺しなければならないのである。

 

 流石に無実の人間を殺す勇気は俺にない。

 多分罪悪感で普通に病むと思う。


 なので絶対に誰にもバレるわけにはいかないのである。


 いかないはずなのだが……。


「『アルク・ドミネイターVSリーナ・フォン・カリバン』だと……っ!?」


 何故か俺の相手がこの国の王族だった。

 しかも無能ならまだしも、歴代カリバン王族の中で圧倒的な神童で最強と名高く、武術と魔導どちらにも長け、俺達の学年の序列1位&学園序列10位の猛者である。

 今は居ないようだが、いれば間違いなくあの持久走も1位だったはずだ。


 ———どう考えても明らかに俺の実力がバレそうな相手ナンバーワンである。


 カリバン王は自分の娘を殺したいのか?

 シャレ抜きでバレそうなんだが?

 と言うかそもそも何でA組の1位とC組の中位層の俺が戦うんだ?


 俺が学園側の思惑に理解しかねていると、周りの視線が集まっていることに気付く。

 まぁA組の1位がこんな凡人で目立たない男と戦うことになったのだから当たり前だ。

 

「よし、これは抗議に行かないとな」


 俺は続々と自身の教室に戻る生徒達に紛れて、アメリアの居る職員室へと向かった。









「対戦相手の変更、ですか?」

「そうだ。アメリアの力でどうにが出来ないか? 流石に無実な人間は殺せん。あと面倒臭い」


 オレは今回の模擬戦の相手の変更について、早速アメリアに相談していた。

 アメリアは俺の言葉に目を輝かせて力強く頷く。


「任せて下さい。主様に命令であれば、例えどんなことをしてでも対戦相手を変えて見せます!」

「待て、一旦落ち着け。目立つ行動はするな」


 お前、一応世界の至る所で恨まれたり忌諱されている大罪所有者だぞ。


 特に神聖国の奴らにバレたら断罪とか言ってカリバン王国に攻め込む恐れがある。

 あの国は徹底的に『大罪』を忌諱しており、出会えばどんな年齢だろうと即座に殺せとまで言って教育しているらしい。

 

 もう恐ろしいどころじゃないよ。

 裏社会の暗殺者みたいな教え方してるよ。

 もしかして人間の国で1番危険なのって神聖国なのでは?

 

「す、すみませんでした……」

「いやいいんだ。ただ、神聖国にバレると危ないのはアメリアの方だ。はアメリアを失いたくない」


 オレがそう言った瞬間、アメリアの動きが止まる。

 同時にアメリアの表情が感激へと変化し、挙げ句の果てには目に涙まで浮かべ出した。


「主様が私の心配を……! 主様、私はこれからもより一層主様のために命を賭けて精進して行きたいと思いますっ!!」


 アメリアは、少々オレの言葉に過剰に反応し過ぎだと思う。

 別に先程の言葉はそこまで考えて言ってないので、そんなオーバーに捉えられると、言った此方側が変な気持ちになってしまう。


 オレが反応に困っていると、正常に戻ったアメリアが1つ提案して来た。


「物凄く、物凄く遺憾で悔しいですが! 残念ながら私では解決出来ないと思いますので、カリバンの王に直接会って訊くのはどうでしょうか?」

「それも考えたが……忙しい王がオレに会うと思うか?」


 この国が幾ら小さいとは言え、国1つを治めている国王が突然のオレの訪問に応じてくれる可能性は少ない様に思える。


 だがアメリアはオレの様には考えていないのか、ぶんぶんと首を横に振る。

 そしてキッパリと断言した。

 

「そんなことありません! 主様であれば、例え帝国の帝王であっても間違いなく会ってくれます! 仮に会おうとしない不届者がいましたら、私が襲撃……説得しますので大丈夫です!」

「説得も襲撃もしなくていい。オレが話を付ける。だからアメリア、お前は待機だ。余計なことは決してするな。取り敢えず今日は早退する」

「……分かりました、主様が言うなら……」

 

 渋々と引き下がるアメリアにホッと安堵していると、何かを思い出した様にアメリアが言った。

 ただ、物凄く不機嫌そうに。


「主様、デイビッドとレオンの2人が畏れ多くも主様に会いたがっていました。あの2人に伝えろと念押しされましたので言いましたが、断って貰って大丈夫です。私が断っておきましょうか?」

「……いや、会うとしよう。明日のことで相談もしたいこともあるからな」

「むぅ……あんな奴ら放っておけば宜しいのに……」


 そう言って頬を膨らませるアメリアだが、相変わらず他の大罪所有者のことは好きではないらしい。

 オレが他の奴らに会おうとすると露骨に表情を変えるほどだ。


 困ったものだと、内心ため息を吐きながら目立たぬ様に気配を消して学園を出た。


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 次は7時更新。

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