第4話 測定と拳王の娘

「———これより身体測定を始める。組ごとに担任の先生の前に集まるように」


 そんな先生……名前は忘れたが、偉そうな男の先生の号令と共に生徒達が一斉に動き始めた。

 俺もこれ以上やらかさないように、そそくさとクラスメイトに着いて行く。

 その横で、タオが何故か興奮していた。


「お、おい、どうしたん?」

「あの人って学年序列5位のハルト・サンダーレインだよな!? 俺、ファンなんだよ。サイン貰えばよかった……!」

「少しは俺の心配しろよ、この野郎!」

「痛っ、も、勿論心配もしてるって! ただあの人は俺の憧れなんだよ!」


 まぁ確かにガタイも良かったし、身長も高くて顔も物凄く整ってたし、あの雷の魔法の練度も高かったよ?

 昔から魔導師になりたかったタオが憧れるのも無理はないけど……。


「タオ、お前はまず、その贅肉を無くしてから憧れるんだな」

「わ、分かってるわい! これでも最近ダイエットしてるんだからな!」


 そう言いながらも、目が右往左往に泳いでいるので、恐らくしてないな。

 まぁ昨日も食堂でめちゃくちゃカロリー高そうな家系ラーメン食べてたし、十中八九嘘だろうが……これ以上は可哀想なのでツッコまないであげよう。


 俺はタオから視線をアメリアに移す。

 アメリアの手元には魔力測定器と呼ばれる魔導具があり、現在出席番号順に魔力を測っていた。

 

 因みに俺の出席番号は27番なので、もう少し後である。

 出席番号も去年の序列を元に決まるので、俺はクラスで27番目に強いと言うことだ。


 つまり……微妙。

 強くもないし、弱くもないと言う素晴らしい順位である。


 歴代のドミネイター家でも此処まで普通を演じれる奴も居なかっただろうな。

 まぁ現在進行形でA組の男にマークされると言うやらかしをしてしまったわけだが。


「次は、主———アルク君ね」

「……」


 アメリア……今、主様と言おうとしたな?


 俺が疑惑の視線を向けると、アメリアは気まずそうに目を逸らした。

 彼女は教師を出来るほど頭がいいが、偶にPONするので、少し注意しなければならないのだ。


 ほんと、PONさえ無ければ超有能なのに。


 俺は小さくため息を吐きながら、魔力測定器と呼ばれる透明な水晶玉に手を乗せる。

 その瞬間に俺の体内から魔力が水晶玉へと移動していき、それに倣って水晶玉が白く光り輝く。

 それに続いて黄緑、緑、青……と段々色が濃くなって行く。

 しかし……それまでだった。

 

「アルク君は……『C+』ね。前回と変化なし、と……」


 アメリアが紙に書き込むのを横目に、タオと入れ替わる様にして先程居た場所まで戻ると、ホッと安堵のため息を吐いた。


 あ、危ねぇ……誰かから軽い殺気当てられて思わず魔力じゃないのが漏れるとこだった……。

 漏れたら確実に水晶玉に反応があったと思うし、何なら普通に状態バレる。

 確実にハルトとか言う奴だと思うけど、本気で焦ったわ。


 俺は恨みの気持ちも込めてA組のハルトの方を睨む。

 ハルトも俺を見ており、何処か楽しそうにしながら獰猛な笑みを浮かべていた。


 あ、アイツやばい奴だ。

 俺が関わり合いたくない分類の奴だ絶対。


 本能的に察する俺の下に、少し嬉しそうなタオが戻って来た。

 お前が居ると何か落ち着くな、と思いながら浮かれている訳を訊いてみる。


「どうしたん、タオ? 魔力の評価上がったか?」

「ふっふっふっ……聞いて驚け! 俺は遂に『B』の境地に到達した!」

「おおーすげぇじゃん」

「何か反応薄くない? もう少し褒めてくれてもいいんだぞ?」


 褒めろと言われてもな……。


「A組の生徒の測定見てたら普通に感じるんだよな」

「……A組は皆最低でも『A』以上だもんな。俺の記録なんて雑魚だもんな!」


 そう嘆いて膝を抱えて半泣きになるタオ。

 ただ、チラチラと俺を見ながら『褒めてくれてもいいんだぞ』的な視線を送ってくるせいか、全く慰めようと思えない。

 取り敢えず放っておくことにしよう。


 魔力測定の次は身体測定だ。


 ただ、身体測定とは言わず『身体能力テスト』と呼んだ方が正しいだろう。 

 実際、身体測定では、魔力使用禁止の2000メートル走と50メートル走、反射神経テストに危機回避能力テストなど、とてもじゃないが身体測定と言えるものは何1つとして存在しないのだから。


「俺、身体測定苦手なんだけど……」

「そう言えばタオって万年身体能力『D』だったな。まぁその体型だし無理もないけど」


 因みに俺は、魔力操作よりも断然身体を制御する方が得意である。

 俺の戦闘スタイル的に、魔力操作より武術の方が圧倒的に重要で、『嫉妬』の所有者のデイビッドに武術指南を受けているほどだ。

 正直同じ条件でやれば、デイビッドにボコボコにされる未来しか見えないけど。


 俺がデイビッドとの地獄の特訓を思い出して身震いしていると、タオが俺の肩を叩く。

 何事だ、と思ってタオの方を振り返ると。


 ———A組のハルトと1人の美少女があり得ない程の速度で2000メートルを爆走しているではないか。

 しかもハルトは美少女に徐々に差を広げられており、悔しそうに顔を歪めていた。


「……」

 

 何故か気分が良くなるのは、決して俺が性格悪いからではないと信じたい。

 

「あれが、『拳王』の娘か……」

「拳王だって?」


 俺は何処からともなく聞こえて来た言葉に思わず耳を疑う。

 

 『拳王』とは、武王国の最強の格闘家が手にする称号だ。

 1度デイビッドが戦ったそうだが、2度と相手にしたくないと当時のことを振り返って苦虫を噛み潰した様な表情になっていたので、俺も絶対に関わらない様にしようと心に誓ったのを覚えている。


 俺は昔の記憶を思い出しながら、視線を可憐な美少女へと移した。


 美少女はストレートロングの黒髪を靡かせながら、恐ろしいほど姿勢良く走っており、息切れしている様子もない。

 何ならどんどん速度が上がっていって、2番目のハルトと既に半周ほど差を付けていた。


『拳王はな……体力が尋常じゃない。しかもスロースターターで、時間が経てば経つほど強くなるとか言う化け物なんだよなぁ……』


 当時そんなことを言っていたデイビッドに、そんな奴居るわけないだろと、碌に信じず一蹴していた俺を1度殴ってやりたい。


「……絶対に関わらないでおこう、うん、それがいい」


 俺はハルトに続き、1日で2人の要注意人物に出会った。

 

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 次は18時更新。

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