第2話 教師アメリア
「———そろそろ起きて下さい、アルク様」
「あ、あと10分……」
「だめです」
「や、やめろ、俺の毛布を取るな! 寝れないじゃんか!」
俺———アルトは必死に毛布を取り返そうとするが、寝起きということもあり力が入らず、クレアにあっさり取られてしまった。
「あぁ……俺の毛布……俺の睡眠……」
「7時間寝れば十分でしょう? 良い加減寝過ぎです。今日も学園なのですから早く起きて下さい」
正論過ぎてぐうの音すら出ない。
ただ、昨日は久し振りの定期報告会が開かれたせいで寝付きが悪かったのだ。
なのでめちゃくちゃ眠たい。
そして、こう言う時に正論を聞くのが1番嫌いだ。
俺は耳を塞ぐため毛布を……使おうとして毛布を取られてしまったのを思い出し、起きる道しか存在しないことを悟った。
「はぁ……起きるか」
俺はゆっくりと身体を起こし、我が最高のベッドから立ち上がる。
伸びをすれば小気味良い背骨が鳴る音が聞こえた。
「うぅんんんん———はぁぁぁぁぁ……よし、準備しねぇとなぁ」
だがその前に———一先ず朝飯を食べるとしようか。
俺の通っている学園———『共立第一学園』は、我がドミネイター領が存在する弱小国のカリバン王国に設立された、5カ国共同で運営されている学園だ。
残りの4カ国は、魔法に秀でたエーテル魔導王国、武術に秀でたアドレン武王国、魔導具作りと軍事に優れたディザスタ帝国、この世界の神———アリス様を信仰する神聖国で、カリバン王国以外全て大国である。
そのため、カリバン王国にありながら、生徒の数は圧倒的にカリバン王国が少なく、残りの4カ国が大多数を占めている。
しかも面倒なことに、それぞれの大国か仲悪いので、カリバン王国の生徒は肩身狭い生活を余儀なくされていた。
因みに我がクラスの3年C組は、45人中カリバン王国の人間はたった5人ほどだ。
組が1学年に成績順A〜Eの5クラスで、1クラス45人なので単純計算すれば、学年にざっと25人いる計算になる。
しかし、カリバン王国は優秀な人材が少ないからどうせ20人も居ないだろう。
俺らの学年はA組なんてカリバン王国1人しか居ないし。
その1人が最強でも、その他は基本下位組に密集してるし。
因みにドミネイター家は絶対に入学する義務があり、C組固定である。
俺以外に、爺ちゃんも父さんもひいじいちゃんもC組だった。
ほんと、ドミネイター家は強制入学とか本当に意味不明だよな。
まぁどうせ俺の行動を制限させるためだろうけど。
「———ほんと、面倒だよなぁ……」
「……ユーマの奴、どこに……あ、おはようアルク———ってどうした? 随分と眠たそうだが……まさか寝不足か?」
「おはよータオ。寝不足というか……睡眠の質の問題?」
「何だそれ? 何かあったのか?」
俺に話し掛けてくれる、このぽっちゃり系男子は、タオ・ヘレニア。
我がドミネイター子爵領の隣に位置するヘレニア子爵領の1人息子で、昔から仲良くしている、所謂幼馴染って奴だ。
ただ働きたく無くて楽するためにこの学園に入った俺とは違い、『将来魔導師になる』と言う昔からの夢に向かって頑張っている真面目な奴である。
「何でもないって。ただレオナが早く学年序列上げろって煩くてな」
流石に『大罪』の所持者達と会っていたとは言えないので、適当に誤魔化す。
すると、タオは昔からレオナを知っているせいか、全くの嘘なのに何故か納得げに頷いていた。
「なるほどなぁ……確かにレオナさんなら言いそうだ。どんまいアルク」
おいタオ、お前大丈夫か?
幼馴染ながら、将来変な奴らに騙されないか非常に心配だぞ。
俺が本気で心配していると、此方に1人の生徒が歩いてくる。
皆赤色の制服に身を包んでおり、魔導王国の生徒だと容易に分かった。
この学園では、何故か国それぞれに制服の色が違う。
カリバン王国は白、魔導王国は赤、武王国は青、帝国は黒、神聖国は……白と緑の複合版みたいな色だ。
「おい、アルク、タオ! お前ら昨日俺が言ったことやって来たか!?」
そう威圧的に言うのは、魔導国の伯爵家の次男———ゴンザレス。
俗に言ういじめっ子って奴である。
正直デコピンでも勝てるが、俺の平穏な生活と、目立たない我が家の方針のためにも、コイツに虐められていた方が都合が良い。
ゴンザレスの威圧的な態度に、気弱なタオは大きな身体を縮こませて小さく頷く。
「う、うん……やって来た……これ……」
そう言って手渡すのは、今日提出の魔法理論の課題で、魔法陣も描かないといけない普通に面倒なやつだ。
そんな面倒な課題をやらせたにも関わらず、ゴンザレスは全く感謝の欠片も無く毟る様に奪い取った。
「おい、次はアルクだ。早く出せ」
ゴンザレスが手を出してくるが……さて、どう言い逃れしようかな。
昨日は、あの報告会のせいで自分の課題以外一切やっていない。
俺は中級レベルの魔導具の設計図を考えてくる課題を押し付けられたのだが……もはや何処に置いたかも忘れた。
「もしかして……やってないのか……?」
俺が無言で動かないのを見て、ゴンザレスの顔が怒りで真っ赤に染まり、同時に魔力が高ぶり始めた。
隣では、タオが魔力に当てられて震えている。
うわぁ……クソ面倒いなぁ……。
でも人目もあるし、大人しくパンチ1発くらい当たっとくかな。
俺はゴンザレスが振りかぶった拳を見ながらぼんやりとそんな事を考えていると———後ろに誰かが急に現れた。
「———何をしているのかしら?」
「っ、あ、アメリア先生っ!?」
後ろに現れた人物———この学園の教師であり、俺の部下で『傲慢』の所持者であるアメリアが、眉と口角をぴくぴく痙攣させながら恐ろしい笑みを浮かべて立っていた。
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次は18時更新。
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