(三)天下三分計

 城主の残していったものはあまりに大きかった。強く固めたはずの私の決意は揺れた。

 しかし悩みに悩んだあげく、私はやはり彼のもとへ出仕することはできないという結論に達した。とにかくもう野で生きていくと決めた後なのだ。

 私は決意を改め、再び彼が来る時を待った。断りの台詞を幾度も自分の中で繰り返して。


 次に城主が私の家を訪れたのは翌年の春のことだった。

 冬の間一人で鬱々と考え込んでいた私は、城主の顔を見るなりさっそく用意していた断りの台詞を告げた。彼と話しているうちに気が変わってしまったら困るため、始めにそれを伝えておいたのだ。

 断りの言葉を聞いた城主は表情を動かさずに「そうか」と言った。

「それならそれで、いい。君がそう決意したのなら構わない」

 城主があまりにも淡々とした口調で言うので少し拍子抜けしてしまった。もっと激しい抵抗があると思ったから冬の間ずっと断る練習をしていたのに、こうまで簡単に引き下がられると調子が狂う。

「申し訳ありません」

 私が謝ると城主は

「謝ることはない。君が自分で決めたことなのだから、それでいい」

 と静かに言った。

 この間とは態度が違うので、私は思わず城主の顔をまじまじと見つめた。その硬い表情からは城主の考えていることまでは読み取れなかった。落胆しているのか、それとも本当にどうでもいいと思っているのか、私には分からなかった。

「それでは、これでもう会うことはないな」

 城主がそう言った時は心の奥が痛んだ。だが私は気持ちを抑えて、笑った。

「はい。私は庶民として、いつまでもあなたを応援しています」

 すると城主は、

「……そうか。ありがとう」

 と言って笑った。それが少しの悔恨もない、さっぱりした笑顔であったので私は改めてこの人に感服してしまった。

 帰り支度を始めた時、彼はふと思いついたように言った。

「そうだ。最後に、君から庶民としての意見を聞かせてもらおうかな」

「庶民としての意見ですか」

「そうだ。君は庶民として応援してくれるのだろう。だったら庶民としての意見を聞かせてほしい。私にとって、庶民の声ほどありがたいものはないんだ」

「ですが……」

 私が戸惑っていると彼は笑って

「そんな、難しく考えなくていい。日頃思っていることでいいんだよ」

 と言う。

「私が日頃思っていること……」

「そう。たとえば、君の夢でも何でもいい。聞かせてくれ」

 夢。そう言われて私は思った。そうだ、この際だからこの人に自分の夢を話してみようか。もう二度と会うことはないのだし、他人に自分の夢を話すいい機会かもしれない。

「分かりました。ではお粗末ながら私の夢をお話しします。でもお時間は、大丈夫なのですか」

 私が尋ねると城主はにこりと笑い、

「君のためになら時間はいくらでもあるよ」

 と言って姿勢を正して座り直した。私はそれを聞き安心し、ゆっくりと言葉を探すように話し始めた。


「私は、光和四年の生まれです。漢朝が乱れ、人々が略奪と虐殺に怯え始めた頃でした。三つの年を数える頃には黄巾乱こうきんらんが起きています。ですから私は幼い頃より遠くの陰惨な話ばかり聞かされて育ちました。そのたびにどうしようもない悲しみに襲われ、激しく思ったものです。“このようなことがあってはいけない、どうにかしなければ”と」

 城主は眉間にしわを寄せ、黙って私の話を聞いていた。彼は他でもない、その黄巾乱の鎮圧のため立ち上がり世に出た人だった。私が幼い頃から耳にしてきた戦いの中心で生きてこられた人物なのだ。私はそんな城主におこがましいことを承知で話を続けた。

「おそらく争いをなくすことなど不可能とお思いになることでしょう。しかし決して、不可能なことではないのです。全ての人々がこの世の中心の真実を手にすることができれば、争いは確実に消え失せます。しかし難しいのは人々が真実を手にすることです。この世の中心にある、永遠の世界へ目を向けさえすれば良いのに、欲に囚われている人にはそれができない……」

 私は昂ぶり始めた気持ちを抑えるため息を吸い、先を続けた。

「私のあざなである“孔明こうめい”は、朝を呼ぶ啓明けいめい(明けの明星)にちなんだもの。朝すなわち真実(明)をこの世でかなえたいという願いを込めた名です〔※14〕。私の夢は、“全ての人々が真実を得た世を地上で見る”ことなのです。そして私自身は、真実がこの世で実現するための突破口の一つになりたいと思っています。とは言えそれは何も、だいそれたことではありません。永遠の世界へ通じるあの壁に、ほんの小さなあなでも開けることができればそれで良いと思います。たとえば針の先ほどの小さな孔でも、数多く開ければ壁に大きな孔を開けることができる。少しの水滴でも長い間をかけて同じ場所へ落ちれば岩を砕きます。私はそんな針の孔の一つに、水滴の一つになりたいと思っています。私が普通に庶民として生きていて、それで周りの数人が真実を感じてくれたならば私は突破口の一つになれたと言えます。そして本当の意味での思想家になれたとも言えます。そのような生き方が、私の望む人生です」

 私が話し終わると城主は目を閉じて何事かを考えていた。しばらく後、まるで独り言のように呟いた。

「なるほど。よく分かった。それが君の夢で、君の望む人生か」

 そして深々とため息をつき、苦悩の声で言った。

「しかしその真実とやらをこの世の人々に知らせることは、今すぐにはできないことだろう。ならば今の現実はどうする? 現にこの国で暴虐に苦しんでいる人々は? 君は真実が争いをなくすと言う。私は思想の用語に詳しくはないが、君の言いたいことは分かる。もしも全ての人々が純粋な気持ちで生きたなら馬鹿げた争いはなくなるだろう、と私も思う。しかし現時点では、そのようなことは不可能だ。現にこの漢土は今にも凶暴な独裁者、曹操の手に堕ちようとしている。もしそうなれば圧制を受ける人々の苦しみは言語を絶するものとなるだろう。――私は君に、尋ねたい。今、この国の危機をどうすれば良い? どうすれば民を独裁者の魔手から救うことができ、どうすれば安穏な日々をもたらすことができるのか……」

 私は言葉を失った。現実にこの国の上層で活躍している人物が、私のような若造へ心から真剣に国の行く末について尋ねてきたからだ。だが次の言葉を聞いた時、私は彼の本心を悟った。

「言ってくれ。私は、どうすれば良いのだ……?」

 彼は決して、私に尋ねているのではなかった。ただ自分自身に尋ねているだけなのだった。そして私には、私だけが思うことを、何でも良いから答えて欲しいのだ。

 私は気持ちを固め、答えた。

「幾度も言うようですが私は一介の庶民です。とてもとても、あなたのような一線で活躍する方に申し上げる言葉は持ちません。ですが個人的には、人々を平穏へ導く方法がたった一つだけあると思います」

 すると城主は顔を上げた。私は彼の瞳を真直ぐに見据えて、言った。

「あなたが、王になることです。劉将軍」

 さすがの城主もこの言葉には仰天した。

「なに」

「ですから、あなたが国家の頂点に立てば平和が訪れるのです。いえ現時点ではそれ以外に、人々を平穏へ導く方法は一切存在しないでしょう」

 城主は言葉を失い、私の顔をまじまじと見ていた。しばらくしてようやくこう言った。

「君はどうかしている。そのようなことが、できるはずがないだろう」

 私はすかさず、言った。

「いいえ。できます。と言うより、そうする他ないのです。漢の高祖こうそ劉邦りゅうほう)はいました、“劉姓の者以外が王となり漢土を治めることを禁ずる”と。将軍、あなたが今の世で劉姓にお生まれになったのは天の導き、民の招聘です。……私の申し上げることがお分かりになりませんか。本当に天命〔※15〕を受けるべき者は、国で最も弱い存在のことを本気で考えられる人です。つまり、泣いている女の人たちや子供たちのことを考えられる人物です。そのような方が治める以外に、民を救い、国に安穏をもたらす方法は存在しないのです。そして私はこれまで生きてきたなかで、あなたの他にそのような人物を知りません。おそらく今の時代では、天命を受ける資格を持つ方はあなた一人しかいないでしょう。ですから私はあなたが漢を統治する以外に、人々を救う方法は存在しないと申し上げているのです」

 城主はしばらく黙っていたが、やがて呟いた。

「君は、私のことをあまりに買い被り過ぎだ」

「いいえ。買い被ってなどおりません。あなたは間違いなく、王となりいずれは天子となる資格を有するお方です。華夏かか〔※16〕の頂点に立つべきお方です」

 城主が答えないため私は言葉を継いだ。

「現実的な方策にお迷いなら、僭越ながらこの庶民の考えを述べさせていただきます。素人考えですが聴いていただけると幸いです……。〔※17〕

 曹操そう・そう袁紹えん・しょうと比べれば名声も軍勢も足下にも及ばない劣勢でした。そんな曹操が袁紹を破り強者となったのは、決して天運によるのではなく彼の狡猾なはかりごとによります。つまり、天に逆らい権力を盗んだ盗賊に過ぎないのですが、そのずるさを責める声だけでは無力。盗賊に良心は無いため責めても暴虐を止めない。したがって正攻法では敵いません。今や曹操は百万の軍勢を持ち、天子の名で諸侯へ号令しています。正面から戦うべき相手ではないでしょう。

 いっぽう孫権そんけんは三代にわたり江東こうとうを支配しています。劉姓の王ではありませんが、長江に守られた領土は険しく、今のところ民も孫権へ服し、有能な臣下たちが補佐しています。ですから孫権は敵とすべき相手ではありません。彼と手を組むべきです。

 そしてここ荊州けいしゅうですが、北は漢水かんすい沔水べんすい〔※18〕に守られ、経済の利益は南海なんかい〔※19〕にまで及びます。さらに東はへ西は巴蜀はしょくへ通じています。交易の中心であり、軍事拠点としても重要な地であるのに、今の領主〔※20〕では防衛しきれるとは思えません。この荊州に将軍が導かれたことも天命。天が荊州をあなたに与えているのです。あなたには受けるご意志はないのでしょうか。

 続いてえき州、しょくです。蜀は険しい山々という天然の要害に守られ、肥沃な土地が千里もあります。高祖もその蜀を本拠地として天下を統一されました。しかし益州の主である劉璋りゅう・しょうは暗愚で気が弱く、邪教の五斗米道ごとべいどう〔※21〕教祖、張魯ちょうろに北の領土を脅かされています。また経済も豊かで民の力も強いのに、民へ恩恵を及ぼさずに信頼を失っています。蜀の民は明君に統治されることを望んでいます。

 劉将軍。あなたは高祖の末裔として天下に名が知れ渡っているだけではなく、信義に厚いそのご人格も知れ渡り、民の人望を集めています。さらに喉が渇いて水を求めるように人材を求める将軍のもとへは、これからも有能な武将や補佐たちが集まるでしょう。そして、あなたがもし荊州と益州を治めるならば必ず機会は訪れます。要害を固く守り、西と南の異民族を慰撫し、孫権と友好関係を結んで内政を整えてお待ちください。暴虐の限りを尽くす曹操は自ら権力を衰退させるはず。やがて朝廷は権力闘争で混乱に陥るでしょう。乱が起きたらその機会にすかさず荊州の兵を中原へ向かわせてください。同時にあなたご自身も益州の軍勢を率いて曹操討伐へ出陣するのです。

 あなたを支援しない民がどこにいるでしょうか。漢全土の民はこぞって兵糧を整えあなたをお待ちするでしょう。

 そして盗賊を追い出した暁には――あなたの天下統一は果たされ、漢王朝の復興も成し遂げられます」

 私は長々と回りくどく言葉を変えて、「あなたが天命を受けるべき」と繰り返したのだった。未だ何も答えず当惑している城主の顔を、半ば睨みつけるように見て強く言い切った。

「あなたには力がある。私が先ほど申し上げた“真実の世界”をこの世で実現する力が。もしあなたが天命を受け、ご自身の手で国を治めるならば私の夢が叶います。ですから私は、あなたが頂点に立つ国家を求めるのです」

 城主は大きく目を見開き私を見ていた。私は泣き出したい気持ちで、幼子のように訴えた。

「私はもし、この世界で真実が実現するのでしたら何を捧げてもいいと思っているのです。命など、幾つ捧げてもいい。それどころか、自分の魂を捧げてもいいと思っています。地上で真実が孔うなら、私はこの魂が消滅したって構わないんです……」

 私はそこで、はっと息を飲んだ。城主の目にうっすらと涙のようなものが浮かんでいたからである。

 彼は立ち上がり、私へ背を向けるようにして窓辺に立った。そして絞り出すような声でこう言った。

「悔やまれる。悔やまれてならない。君が私のもとに来ないとは」

 声が出なかった。夢の中で聴く声のように彼の言葉が胸に響いた。

「やはり、君だった。私が探していたのは、君だったのだ」

 私は驚いた。城主の涙があの時の私の涙と全く同じだったからだ。つまり城主も、私と同じく探していた者に出会った喜びで涙を浮かべていたのである。

 城主は私に背を向けたまま言った。

「私が欲しいのは、助言者や提案者ではない。伴に生きてくれる仲間だ。そして君は……、間違いなく私の仲間となる人間だ。君こそが、私と伴に生きてくれる唯一の伴侶だったのだ。しかし残念だ。君は、私と伴に生きてはくれないと言う。寂しいことだが私は今日ここで永久に君へ別れを告げなければならない」


 しばらく私たちはお互いに黙ったままだった。どのような言葉も声にならなかった。

 いつの間にか、日は西に沈みかけていた。黙ったまま窓辺に佇む城主の姿を、柔らかい春の夕日が暖かく照らし出している。少しだけ目を細めて遠くを眺める横顔が、しだいに濃く優しい赤で染められていく。斜め後ろからその姿を見ていた私は、彼の横顔にふと説明のつかない郷愁を覚えた。

「それでは……そろそろ、行かなくては」

 不意に城主がそう呟いた。その声で現実に引き戻された。

 彼は顔だけこちらへ振り返り、言った。

「今日はありがとう。いい話を、聞かせてもらった。それから……」

 私の方へ向き直り、真直ぐに私を見て、

「君と会うことができて、本当に良かったと思う」

 と言って笑った。

 そのまるで泣いているかのような笑顔を見た瞬間、私は全身を貫く衝撃を感じた。

“いけない! このまま、この人物を行かせてはいけない!”

 圧倒的な量の心の声が、激しい衝動の波となって私の全身を揺さぶった。

“今すぐ、はっきりと言うんだ。自分はあなたと伴に生きると!”

 この時城主はすでに帰る支度を整え、戸口へ向かっていた。その背中を目にした瞬間、張り裂けてしまうのではないかと思うほど胸が激しく脈打った。顔が熱くなり、そして……。

「待ってください」 

 気付けば私は出て行こうとする城主の背中へ叫んでいた。

「……待ってください」

 城主は驚いて振り返り、私の顔を穴のあくほど見つめた。

「行きます。私などで良ければ、あなたについて行きます。いえ、ぜひ、ついて行かせてください」

 城主はまるで魂を抜かれた人のように呆然と突っ立っていた。しばらくして震える声で言った。

「……本当か」

 私は大きく頷いた。

「それは、本当か!」

 彼は大げさに手を広げて叫んだ。自分の感情をどのように表現すれば良いのか分からないようだった。彼は私に近付いてきて手を取り、

「よろしく頼む」

 と、力を込めて言った。

 この瞬間、“ああ、言ってしまった……”と思った。ついに私は口にしてしまったのだ。決して言うまいと固く心に決めた言葉、そして心の底から最も言いたかったその言葉を。

 後悔は、なかった。先のことも全く考えていなかった。ただその時は、たとえようのない衝動に突き動かされてその言葉を口にしただけのことだった。私は今でも何故あれほど重大な決心ができたのか分からない。とにかく私はその時、自分の人生を決定的に変えてしまう一言を口にしたのだった。


 この後は大変な騒ぎだった。私が劉将軍へ仕えることが決まったと聞いて、親族たちは喜び連日祝いの宴を開いた。特に私をあの会合へ出席させた舅は驚き喜んだ。

 里も大騒ぎとなった。貧しい近所の書生が、庶民にとって雲上人の“劉皇叔”へ仕えることになったのである。私は里のどこを歩いても人々に囲まれ、家の前にも人だかりができ少しも心が休まる時がなかった。

 あれほど仲が良かった隣家の人々も急に態度を変えてしまった。まるでとても高い地位の人へ向かうように、慇懃な態度で接するようになったのだ。

 ある日村長が皆の前でこう言い放った。

「お前たち、今まで少爺ぼっちゃんと親しくしてきただろうが。それがなんだい、急に態度を変えやがって。どこへ行こうと、亮少爺は亮少爺だ。それはいつまでも変わらねえぞ」

 すると皆は涙ぐみながら口々に言った。

「でも、少爺は突然飛び立って雲の上へ行ってしまうのだから寂しいよ」

 私も思わず涙した。

「何を言うんですか。私は私です、どんな状況になったって変わりません。だから皆さんにはいつまでも、“少爺”と呼んで欲しいです」

「でも……いつかここへ戻ってくるのかい? もう一度会えるのかい?」

 私は返答に困ったが正直に言った。

「お約束はできません。もしかしたら二度と、戻って来られないかもしれない。けれどいつか平穏が訪れたら必ずここに戻ります。そしてまた、皆で楽しくやりましょう」

 里の人々は承知してくれた。そしていつか平穏な日々が戻ったら、必ず皆でお祝いをしようと誓い合ったのだった。

 

 出仕の日、私は迎えに来た城主の臣下たちに伴われて庵を出た。馬に乗り、真直ぐな道のりを一路城を目指して進んだ。

 この日馬に揺られて歩いたどこまでも真直ぐに伸びる一本道は、はっきりと一本に定まった私の心を表していた。さらにどこまでも迷うことのない道は、それから先の私の迷いのない人生を表していた。

 この時私は人生のちょうど半分の年齢だった。私は残り半分の人生を、君主へ捧げ尽くすことになる。


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注釈


※14 “明”は日と月の光のことで、世を照らす真実を象徴的に表す。“孔”という漢字は燕の子を表しており、本義では「願いが実現する、かなう」の意味を持つ。そこから転じて「目的を達成するために通す孔(あな)」の意で使われるようになった。


※15 古代で「天命」とは、天から降される統治代行の命令のこと。「天命」を受け神々の代行として天下を治めることになるのが「天子(てんし)」で、つまり王や皇帝を指す。


※16 華夏とは中華の上級な呼び方。


※17 以下、括弧の終了までは『正史』本文から引用した(分かりやすくするための超訳あり)。諸葛亮が劉備へ提言したとされるこの計略は、一般に「天下三分(てんかさんぶん)の計」と呼ばれる。またこの時の対話は「隆中対(りゅうちゅうたい)」という。


※18 漢水は荊州(現在の湖北省)の北を流れる川。沔水はその上流。


※19 南海は現在の広東省を含む広い地域。


※20 荊州の当時の領主、劉表のこと。


※21 五斗米道は道教系の新興宗教。蜀の成都付近で興る。祈祷で病を治すとしたことから流行した。黄巾賊と同じく信者には山賊や流民の類が多かった。漢中で宗教王国を築き領土を侵して暴れたため、益州民を悩ませていた。


〔弱者救済の考えについて補足〕

・「天命を受けるべき者は、国で最も弱い存在のことを本気で考えられる人です。つまり、泣いている女の人たちや子供たちのことを考えられる人物です。」…ここで言う弱者・女性とは当然ながら“弱者を装った犯罪者”を含まない。

21世紀現代では弱者の意味が反転され、弱者を装った強者の活動家たちが国家破壊を目的とした犯罪を行っている。このため“弱者救済”の考えは有害思想と結び付けられ危険視されているが、当小説では字義通り本当に泣いている人々に寄り添いたいというだけのシンプルな気持ちを描いた。これは古代中華の素朴な“義侠”精神に相当し、破壊を目的とする現代左翼の思想とは異なる。



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