夕暮百物語・第27話 襟足

誠也さんは一時だけ、訃報を予知することが出来た。謂わゆる虫の知らせだ。それが初めて届いたのは中学生の頃。夜中、部屋で勉強をしていると急に後ろから気配を感じた。同居する家族ではない。それだけは分かった。誠也さんはゆっくり振り返り、辺りを見回した。けれど何もいない。首を傾げながら椅子に背を傾けていると、突然(ぐいっ)と彼のほんの少し長めの襟足を何かが引っ張る。その勢いで顔が天井を向く。


思わず椅子から立ち上がり、振り返る。やはり誰もいない。恐怖で腰砕けしながら両親を呼びに行くが、気のせいだという反応だけが返ってくる。仕舞いには勉強疲れだと、早く寝るように促された。誠也さんは納得出来ぬまま布団に入り、眠ることにした。


翌朝、遠く離れた父方の祖父の訃報を伝えられた。どうやら祖父は昨晩倒れ、そのまま帰らぬ人になったそうだ。誠也さんは突然のことに驚き涙を流す。すぐ葬式へ参加しに向かい、祖母にあの夜あった出来事を伝える。祖母は「お爺ちゃんは誠也を本当に可愛がっていたから。きっと会いに行ったのね」と涙ながらに話した。


そう言われても嬉しさより、気味の悪さが出たそうだ。(何故襟足を引っ張っられたのだろう)祖父は気づいて欲しかったのだろうか?せっかくなら目の前に現れてくれたら良いのに。

そんな気持ちにもなる。

それからしばらく経過した祖父の四九日。法要中に突然、襟足を強く引っ張られた。しかも今度は頭がもげそうになる程の強さ。身体は後ろへ倒れ込み、引きづられる程の勢いだった。周囲も目を見開き驚く。床には誠也さんの襟足から抜けた髪の毛が痛々しく落ちている。


動揺しながら身体を起こすと、笑っている祖父の遺影が目に入った。もしや引っ張られたあの行為。祖父が自分に会うためではない、実は連れ去るための行為だったのではという考えが浮かぶ。それからも時折、襟足を引っ張られる時があった。それは必ず誰かの訃報が届く前と、その人物の四九日だ。毎回二度目は引きづり込もうという、恐ろしい程の執念深さを感じる。

それに悩んだ誠也さんは襟足を切り落とし、刈り上げることにした。幸いにも襟足を切ってから、あのような出来事はない。もう二度と襟足を伸ばすことはない、そう誠也さんは話す

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