夕暮百物語・第20話 占い師の祖父

博臣さんの祖父は高名な占い師で弟子を何人も抱えていた。住んでいる地域でも一目置かれた存在だ。親戚や家族、はたまた近所の人間も祖父の言うことは「絶対」だった。何故ならそのお陰で皆、全てが上手くいっていたからだ。そんな祖父は可愛がっていた博臣さんに対しても、日常的に占いを行った。


通う学校や通学路、靴を履く左右の順番など、事細かに全て祖父が決めた。幼い頃は気にはならなかった。実際、占いに従うことで全て上手くいっていた。


しかし歳を重ねて大人になると、その異常さを理解した。きっかけは博臣さんが、結婚相手を家族に紹介した時だ。祖父は彼女を占い、名前を変えることを勧めた。それが結婚の条件だった。家族も大きく頷く。


博臣さんは憤怒するが、彼女は「結婚を許してくれるなら」と名を変えることを快諾した。それから彼は占いを厭うことになり、「占いなど嘘っぱち」それが口癖になったそうだ。結婚後しばらくしてから、彼女に子供が出来たことが分かった。博臣さんはあれ以来距離を置いた家族に、渋々報告へ行った。それを聞いた祖父は、その場ですぐに占い、封筒を一通彼に渡した。帰宅し、封筒を開けると中身は一枚の紙が入っていた。内容は占いによって決められた、生まれてくる子の名前だ。


しかし書かれた名前は到底受け入れられない内容だった。祖父は痴呆が進み始め、既に正常な判断が出来ていなかったのだ。博臣さんは「呆けた老人が、占いで適当に決めた名前などつけられるか」と拒絶し、夫婦で考えた名前を子供につけた。するとそれを知った家族や親戚は激昂したそうだ。「祖父の占いは絶対」だからだ。それでも博臣さんは首を縦に振らず、自らの意思を押し通した。心の中で「占いは嘘っぱち」と思うようにして、問題なく平穏な日々を過ごしていた。


そんな中、祖父の占いを鵜呑みにしていた周囲の人間達の生活が、徐々に変化していることに気づいた。両親共に大病を患い、親戚の多くは仕事を失敗をし、中には首を吊った者もいた。それでも皆、痴呆により正常な判断が出来ない老人の占いを妄信している。


祖父はまだ存命で、周囲に対して占いを行なっている。妄信している者達は未だ「占い通りにすれば全て上手くいく」と明るく話している。博臣さんには、彼らが徐々に破滅へ向かっていくようにしか見えないそうだ。

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