夕暮百物語・第19話 デイゴの花が咲くと


 沖縄の三大名花の一つにデイゴの花がある。

デイゴの木は公園など至る所に植栽され、暖かくなると鮮やかな真紅の花をいくつも咲かせる。花を咲かせる数は一定しておらず、気まぐれな木でもある。個体によってはかなり成長するものもあり、自宅の庭に植えている家は珍しかった。そんな中、由実さん宅の隣の庭に、大きなデイゴの木が植えられていた。花を咲かせたところを見たことはない。何故残しているのか不思議だった。


彼女が中学三年の春、そのデイゴに鮮やかで真っ赤な花が咲いた。由実さんは初めて見るこの光景に興奮した。けれどそれと同時に、その庭の家に住んでいた娘が、身体の不調を訴えた。由実さんとは小さな頃から年も近く仲が良かった。とても心配したが、その思いも虚しく娘は亡くなった。原因不明だった。


それから数年間、花は一つも咲かなかった。

けれど由実さんが二十歳の時、隣の家のデイゴの花がまた突然咲いた。前回以上に咲き誇り、視界から溢れる程だった。するとまた家の者が亡くなった。亡くなった娘の両親だ。2人とも持病持ちではあったが、急に亡くなる程、酷い状態ではなかった。


由実さんが気になり両親に尋ねると、「あの家に住む人間は、庭のデイゴの花が咲く年に、誰かしら必ず亡くなる」と気の毒そうに答えたそうだ。由実さんは「偶然ではないのか」その話を信じることが出来なかった。結局その家には成人していた長男だけが残された。不憫に感じた由実さんはその長男と交流を深め、やがて恋に落ち、結婚することになった。

家族は当然猛反対したが、2人で話を押し切った。「この土地から離れる」のが結婚の条件だったそうだ。


なるべくあのデイゴから遠く離れた場所で生活したかった。そして本土に移住することにした。やがて2人の子供にも恵まれ、幸せな生活を送る。けれどある年の初夏、夫の帰りが遅く心配していると、彼から連絡があった。「何処にいるの?」と由実さんは尋ねる。夫は「デイゴの花が咲いてるよ」そう一言だけ呟き、電話を切った。


その後すぐ、沖縄の両親から連絡が来た。夫が以前住んでいた家の庭で、亡くなっているという報告だった。真っ赤な花を咲かせたデイゴの木に首を吊るしていたそうだ。遺書は見つかっていない。現在、由実さんは子供を連れ、沖縄に戻っている。彼女は毎年デイゴの花が咲く季節になると、自分や子供の今後を憂いあの木を眺める。

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