夕暮百物語・第6話 明日天気になぁれ

美央さんは幼少期、いじめを受けていた。父に先立たれ、生活が苦しかったのも理由だ。靴もろくに買って貰えない。美央さんはつま先が空いた靴を履き、いつも馬鹿にされたそうだ。ずっと家にいると母が心配する。いじめを受けていたことを隠し、外で一人遊んでいた。そんな彼女に友達が出来た。


公園で遊んでいると「一緒に遊ぼう」と女の子に声をかけられた。名前は雛と名乗った。古びた洋服を着ていたが、足元は真新しい赤い靴で目立っていた。ひとしきり遊び、帰宅の時間になる。美央さんは「明日も晴れたら会おうね」と雛に声をかけた。晴れの日しか公園では遊べない。母が心配するからだ。


すると雛はブランコを漕ぎ始めた。そして「あーした天気になぁーれ」と掛け声をあげ、靴を片方投げ出した。有名なお天気占いだ。靴は表のまま落ち、晴れを示した。それから毎日、雛と公園で遊んだ。帰り際、必ず雛はブランコに乗り、お天気占いをした。靴はいつも表。梅雨にも関わらず雨は一滴も降らない。美央さんは子供ながら不思議に感じたが、雛と遊ぶことが楽しかった。


そんなある日、突然引っ越すことになった。母が転職し、離れた場所へ住むことになったからだ。本音はホッとした。これでいじめはなくなる。母の仕事も安定し、苦しい生活からも抜け出せる。けれど雛のことだけが気がかりだった。「もう会えない」


美央さんは寂しさに心が締め付けられた。公園にむかうと、雛はブランコに腰をかけていた。足元を見ると真新しい靴は履いておらず、裸足だ。美央さんが「靴はどうしたの?」と雛に問いかけると「もう美央ちゃんと遊べないから、履いて来なかったの」と元気なく答えた。そして最後の時間を過ごした。


帰り際、美央さんは「明日晴れるかな?今日は私が占うね」と伝えた。「あーした天気になぁーれ!」穴の空いた靴は表を示した。二人で笑い「明日も晴れだね」と話し、名残惜しそうに別れた。翌日、母と転居先へ向かうため駅へ向かうと、大粒の雨が降りそそいだ。初めてお天気占いが外れた。電車待ち、駅の掲示板を見ると色褪せた行方不明者の貼り紙を見かけた。顔は薄れ見えないが、鮮やかな赤い靴が写っている。何故か雛が頭に浮かんだ。


引っ越してから友達も出来た。時折、友人とお天気占いをする。穴の空いていない、お気に入りの赤い靴で。けれど当たった試しはなかった。そう美央さんは笑って話した。

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