7.テンプレアンチに贈る、たった一つの処方箋

 最近とある方のカクヨム上のエッセイで、「なろう系小説」に対する批評を試みていて、作者さんがなんというか大変そうだし辛そうだし、自分もいろいろ考えさせられてしまった。


 しかし、迂闊ななろう系批判は創作論エッセイ界隈において、非常な筋悪である。炎上させず、というか、誰の心も名誉も不要に傷つけずに、なろう系小説を書いていない人間がなろう系小説の批評ができるのか。

 それは正直難しいし、狭義のなろう系小説について知った風な口が聞けるほどには正直自分は造詣も深くないのだが、これは藪を突いて蛇を出さなければならないエッセイである。ということで、何らかの議論を試みたい。


 テーマは、「なぜ(広義の)なろう系小説は、ある種の人々の反感を強烈に引き起こすのか」だ。なろう系小説と言っても今は小説家になろうは異世界恋愛の方が強くてむしろカクヨム系では、という説も出てきているが、とにかく強い形式を持つweb小説テンプレの話だ。

 仮に、前世でパッとしなかったオタク野郎が、チート能力を手に入れ無双し、複数の女性から愛されるハーレムもののテンプレ小説としよう。


 これはなぜ一定層からウケるのか。

 これはなぜ一定層から反感を買うのか。


 これは、「エゴ」という概念で統一的に説明できる現象だ。

 このテンプレ小説は、ある種のエゴを肯定するための強い形式を持った物語だ。

 現実を生きていたら実現不可能であろうエゴを、一定の物語の形式によって、非常に単純で強い形で肯定する。天然人たらしかエロゲスか、主人公の性格描写によって肯定されるエゴのタイプは変わるが、とにかく根底にあるのはエゴの肯定だ。

 このエゴの肯定というのは、人間が物語に求める本質に非常に近いところにある。だからテンプレ小説は根強い人気があるし、テンプレではない小説も何かしらのエゴの肯定を求めている。

 純文学だってエゴの肯定が目的と言ってもいい。たとえそれが醜く邪悪な人間の有り様を描いていても、その目的はその人間性の悪を断罪し排除するためではない。

 人間とは何か、とりわけ、自分とは何かを知りたがるのが人間で、広い意味でのエゴに深く共鳴し共感するからこそ、物語には意義がある。


 しかし、だ。

 共鳴し共感できるエゴの肯定を創作に求めるのが人間であると同時に、受容できないエゴの表出の影響を受けることは、その人にとってある種の侵襲を意味する。ある意味そのエゴに共鳴してしまっても、それが心の底でその人の望む自分自身の姿に相応しくなければ、それは人格を侵食されるような苦痛を伴う場合すらある。

 そこにある概念に一切共鳴しない、相容れない、影響を受けようはずもない人間はアンチにもならない。その人のエゴの琴線に触れているからこそ、それは傍目から見ると異様とも思えるほどの反発を引き起こす。


 なろうテンプレか、悪役令嬢か、溺愛BLか、あるいは別の何々か、とにかく他者の創作物に対して強烈な反発を覚えた時、そこに存在しているのはエゴの衝突だ。提示されたエゴの理想形に対する同化、合流を拒んでいると言ってもいい。

 そこでこの処方箋だ。あなたは、一言呪文を唱えるだけでいい。


「それは、私が自分自身に望む在り方とは違う」 


 それだけだ。

 それ以上の否定をする必要はとりあえずない。


 じゃあどんな在り方を望むのか。

 それは、あなたが時間をかけて見つける話になるだろう。場合によっては、最初に覚えた反発がそれを見つける助けになることすらあるかもしれない。

 ただし大事なことがある。自らの作品で追求している理想のエゴが、誰の目から見ても明らかな形で、他作品のエゴより優れていることを論理的に、そして直ちに証明しようとするのは筋が非常に悪い。それは、自分自身のエゴによって他者のエゴを侵襲しようとする行為に他ならない。

 相反するエゴの間に完全な融和はありえず、また自身のエゴを他者の存在領域へと伸長させることは創作の目的の分かちがたい一部でもあるかもしれないが、相手の正直な在り方に興味がないのにエゴによって雑に勝利することを試みるのは、激しい反発か、あるいは冷たい侮蔑の笑いを投げかけられても無理はないのだ。


 自分の責任でアンチを呼び込むのは精神に非常な悪影響を及ぼすので、誰にもお勧めはできない。自分だったら絶対に嫌だ。

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