2.創作論は悪なのか
インターネットでは、創作論とともに、創作論を語るものへの嫌悪も語られている。
「創作論なんて語っているやつがまともに読める小説を書けた試しはない、小説を書くのが本当に好きな人間は創作論なんて語ってないでその分一話でも書き溜めるはずだ」
などなど。
しかし、これ自体がインターネット上に数多存在する不愉快な創作論の一つと言って差し支えはない。発言者が揶揄の対象に自分自身を含めていたのでもない限り、なんとも自己矛盾を感じる主張である。なおこの主張自体には一片の理があるかもしれないが、それについて詳細に考えるのは次のページに回したい。
とにかく、ある立場から語られた創作論が、異なる立場の人間の反感を買いやすいことは事実である。
創作論はなぜ反感を買うのか?
反感を買いやすい・買いにくい創作論というものが存在するのだろうか?
余計な反感を買う可能性にも関わらず、どうして我々は創作論を語ってしまうのか?
疑問は尽きないが、まずは、創作論で特に反感を買いやすい形式を分析してみたい。
まずは、Xの字数制限の中で語られる創作論である。
ツイッターが普及してからの十余年、我々は百四十字の中に、いかに余計な情報を削ぎ落として、本質情報を込めるかという技術を磨いてきた。今更ツイッターを捨てて別の場所に移住せよと言われても難しい原因もここにあるが、まあそれは今の場合余談だ。
人間は、自分の視点、思想、思考形態に立脚して、必要な情報と不必要な情報を半ば無意識、半ば有意識に見極めている。百四十字の主張を完全に理解するためには、視点、思想、思考形態を共有しているという前提が必要である。
しかし創作論とは、ある程度一般論である。それらを共有しない他者にそれが巡り合った時、認識の齟齬が不可避に生じる。曖昧さのある百四十字の主張の行間に反対者が噛みつき、噛みついた反対者の行間に当初の主張者、あるいは賛同者が噛みつき、またその行間に反対者が噛みつくという構図である。もはや敵は論争相手ではなく互いの行間である。
そんな悲劇が今日もXでは繰り返されているが、だからと言って他人の創作論語りを止められるわけでもなければ、そういう自分や他の人々が自身でも止められない創作論の闇に半ば落ち込んでいるのもよくある話だ。
そんな不幸な衝突が起きた時にどう対処すべきかは場合によりけり、相手によりけりだが、インシデントが発生した場合、そこにはある程度この行間の作用が働いていることを意識しておくと、多少は気分がマシになるかもしれない。
また、敵対者を想定した創作論が炎上しやすいのはもう、言うまでもないだろう。わざわざ語ることでもないと思うが、縁もゆかりもない他人に馬鹿にされたら文句の一つも言いたくなるのが人間だ。
ただし、これにはもう一つこつがある。敵対者から敵視されるのと同時に、同じタイプの人間を否が応でも惹きつけるような、そういうメッセージを込めることだ。
「ネット小説はみんなクソ! 読む価値なし!」
だけでは炎上しないのである。
まあ、ある意味ではね。とか、人間は所詮糞袋だからね。とか、宇宙スケールでは人間はみんな塵だよね、とか、そういう大きな分かったようなことを言ってスルーするのが妥当だろう。
では、分断を煽るようなメッセージとは、どんなものなのか。
「AはBより下に見られているが、その価値基準は今後逆転し、Bは忘れ去られAだけが残るだろう」
などと言うと、A寄りの人間にとっては真実であるように思えるが、それが確実に正しいと言えるのは主張者が時間旅行者である場合だけだ。
ただこれだけでは炎上させるには弱く、自説を支持し敵対派閥を貶めるための様々な論拠をそこに付加する必要がある。この論拠とは、木を見て森を見ない十把一絡げな決めつけを施した上での大雑把な理論を展開するか、あるいは対象作品を一つに限定しその瑕疵を徹底的に論った上で、それを敵対派閥全体の落ち度であるかのようにこじつけて揶揄し嘲笑してのけると効果覿面である。
いつのまにか炎上させる方法について語っている気がするが、たとえ自分がその方法論に従って何かの主張をしたからと言って、インプレッション稼ぎで収入に繋げることなどできそうにない気もする。創作論を語って大炎上するのもまた才能だ。それを引き起こせるのは、人々の心にシンパシーあるいはアンティパシーを呼び起こすための超絶技巧を必要とする、ある意味での天才の所業と言えるだろう。
話が逸れたが、炎上しやすい創作論とは、「Xのような短文SNSで、行間の曖昧さが不可避な情報発信に依拠した創作論」であり、また、「敵対者を想定し、それに対して結束しようというメッセージを含んだ、分断を煽る創作論」であると言えるのではないだろうか。しかしそれは創作論の本質とは言えず、別のなに論でも同じことだ。
もしインターネットで創作論を呟きそうになったら、上記のことを意識さえしていれば、別に呟いても差し支えないのではないかと個人的には思う。
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