勇者のチュートリアル

「あ!?あれじゃないですか、フォルテ様!」


 街から離れた街道沿い、建物という建物が鳴りを潜め閑散とした景色を映し出した頃、フォルテとモニカの前方に大きな小屋が見え始めた。


「あぁ、やっと着きましたか?それにしても実際聞いていたよりも遠かった,,,徒歩で1時間って言ってたのにもう半日は歩いてますよ?」


「ピノアくん、体力お化けですもんね。彼の基準で物事を考えると痛い目みますね」


 疲れ果てたフォルテにモニカが笑いながら相槌を打つ。二人は先日出会った勇者ピノアに紹介されたある施設に向かっていたのだ。


「それにしてもほんとにあるんですね。チュートリアルを実施してる施設なんて」


「えぇ、そんな研修やって勇者を量産されたら敵いませんよ!これは是非ともその全貌を暴かないと枕を高くして眠れません!」


 モニカの言葉にフォルテは語気を強めて返事をする。先日二人が立ち寄った勇者の仲間を育成する施設、その存在に驚きフォルテはふとピノアに尋ねていたのだ。もしや、仲間を育成する施設の他に勇者を育成する施設があったりしないかを。


「まぁ、私としては勇者が定期的に来てくれないとつまらないから別に放置しておいてもいいんですけどね」


 その施設の存在に憤りを感じるフォルテとは対照的に、好戦的な性格で勇者の存在を楽観視するモニカ。かくして二人はピノアの言う勇者の育成施設、通称チュートリアルの場へと向かっていたのだ。


「そこの二人!止まれ!!」


 建物の前まで近づくと見張りの門番に呼び止められるフォルテとモニカ。


「お前たち、チュートリアル志望の勇者じゃないな?いったい何者だ!?」


 実際に潜り込む算段をつけていなかったフォルテとモニカは顔を見合わせて考えを巡らせる。


「えっと、そのー」


「ん?なんだ?おどおどして、怪しいやつ・・・?まてよ?お前の顔どこかで見た覚えが、」


 門番はフォルテの顔をまじまじと覗き込む。魔王討伐を掲げる勇者の養成所、そこは敵となる魔王の素性を知っている者がいてもおかしい話ではなかった。フォルテはハッとして急いで顔を隠す。


「いや、僕は怪しい者ではないて、その決して魔王とかではなく他人の空似といいますか」


「分かった!お前が特別講師として招かれた魔王役の教員だな?いやぁ、それにしても聞いていた魔王の特徴とよく似ている」


 必死に正体を悟らせまいとするフォルテに対し、門番は感心したように笑いかける。


「実は、そうなんです!私、こちらの魔王役であるフォルテさんをサポートしていますモニカと申します」


 モニカが咄嗟に話を合わせて門番との間に割り込んでいく。


「そうか、到着予定は2,3日後と聞いていたが、まぁいい!ささ、どうぞこちらから中へ」


 細かいことは気にしないたちなのか、門番はそのままフォルテとモニカを施設内へと招き入れる。


「良かったですね。都合よく特別講師が招かれていて」


「まぁ、一日くらいでしたらこれで騙せるでしょう」


 モニカの楽しそうな声にフォルテは疲れた表情で答えた。二人が案内された敷地内は表から見た以上に広く、幾つもの棟が並んでいた。そこを行きかう多くの人々。あまりの人の多さに二人はしばらく立ち止まっていた。


「はは、驚かれたでしょう?初めてここに来る人はたいてい同じ反応をするんですよ。これ全部勇者候補生の方々なんですよ」


 立ち尽くす二人に向けて眼鏡をかけた初老の男性が声を掛ける。顔に刻まれた皺の割には体格もよく、声も若々しい。


「初めまして。私はここの施設長をしておりますリュー・タイオと申します。気軽にリューとお呼び下さい。門番に聞きましたが、あなたが特別講師の方で良かったですか?」


「ご丁寧にありがとうございます。この度招待を受けましたフォルテと申します。こちらは助手をしておりますモニカです」


 リュー・タイオの挨拶を受けてフォルテが答え、それに合わせてモニカが頭を下げた。


「やはりそうでしたか。いやぁ、希望通りの方が来てくれて良かった。これで生徒にもより実践に近い形で訓練が行えます。ささ、詳しい話は私の部屋で」


 リューはそう言ってひとしきり喜ぶと、フォルテとモニカを自室へと招待した。こうして本職の魔王は勇者のひしめく謎の施設へと潜入したのだった。

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