チューナーの育成所 その2

 フォルテとモニカがピノアたち勇者一向は目的地は別でも目指す方向は一緒であった。そのため見知った中である5人は合流し、森の奥へと進んで行く事となった。

 そこでモニカが古い看板を見つけ、程なくして一軒の小屋が目の前に現れた。外装はイチゴの形を模した作りでメルヘンな建物であったが、そこに掲げられていた看板には外見に似合わぬ厳つい文字で【チューナーの育成所】と書かれていた。


「これは、外見は記憶の通りのケーキ屋さんなんですが、どうやら中身は別の物になってますね・・・」


 ケーキ屋を期待してきたモニカであったが、すでにそこは別のお店となっていることを知り肩を落とす。


「モニカさんがそのケーキ屋に来たのは何時の事なんですか?」


 ピノアが肩を落とすモニカに向けて声を掛ける。


「いやぁ、ほんの5,60年前なんですけどね。モニカさんの記憶違いだったんですよ、きっと」


 モニカの代わりにフォルテが笑って答える。


「60年前って!?そんな昔なら変わってて当然ですよ?祖父母からでも噂話を聞いたんですか?」


 フォルテたちのことを魔族とも、ましてや魔王とも夢にも思っていないピノアが驚きの声を上げる。


「えっ!?そ、そうなんだよ!!先祖代々口伝されてきたので、どこかで間違って伝わったんだなぁ!きっと」


「口伝で代々伝えられるケーキ屋ってなんなんですの?」


 ソステートの冷静な意見に愛想笑いを浮かべるフォルテ。不要な争うを避けるためピノアに真実を知られる訳にはいかなかったのだ。


「でもまぁ、ダンバー様なんて自身の記憶すら定かではないんですから、人一人でこれなら、口伝えで継承されたら事実が歪曲されてても不思議じゃないわよね」


 フォルテの意見にソステートが同意する。


「何を言っておる!!ワシの記憶だってまだまだ捨てたもんじゃないぞい!」


 ソステートの言葉にダンバーは声を荒げる。


「なんとか上手く誤魔化せましたね」


 モニカがフォルテに耳打ちをする。


「えぇ、今更ピノアくんたちと戦うなんてごめんですからね」


「見たところ、もうすでにフォルテ様を楽々倒せるレベルにまで成長してますからね。あーあ、やっぱりもっと早くに手にかけとくべきでしたね」


「そ、そういう意味じゃありませんって!」


 フォルテはモニカの冗談にムキになって答える。実際にフォルテは、ピノアに対しては何度も接している内に情が芽生え、敵として見れなくなっていた。


「どうかしましたか、フォルテさん?」


 急に大きな声を出したフォルテを気付いピノアが声をかける。


「い、いや、何でもないですよ」


 フォルテは咄嗟に取り繕う。


「これピノアよ!男女の間に他所様が土足で踏み込むもんじゃないぞい」


 何を勘違いしているのかダンバーがピノアに注意を促す。


「まったく、そうやって口に出すダンバー様も男女の仲を分かってませわ!そんなんだからその歳になっても独り身なのですわ?」


「な、何を言うか!!ワシだって結婚くらいしていたぞい!!」


「そうでしたか。それで今は奥様に逃げられて独り身なんですわね?」


「ぐぬぬ、神官のくせになんと罰当たりな小娘じゃ」


 ダンバーとソステートが二人で賑やかに言い合っている。


「なんとも微笑ましいパーティですね」


 二人を見て笑顔を浮かべるモニカ。


「ほんとにそうですね」


 同じく同意を返すフォルテ。


「そう言えば、ピノアくんたちは何しにこんな山の奥へ?」


 フォルテは改めてピノアたちの旅の目的を尋ねる。恐らく目的地はここ、チューナーの育成所であろうが、そもそもこの施設は何なのかフォルテには想像がつかなかった。


「実は段々激しくなる魔族との戦いに備えて僕たちもレベルアップしようという話になりまして」


「その為の施設がこの育成所って訳ね?」


 ピノアの説明にモニカが答える。


「はい、ダンバーさんの記憶をもとに冒険者を育ててくれる施設があるというのでこの場所まで来ました」


「うむ、ワシも噂でしか知らんかったが本当にこんな場所があったとは、驚きじゃ」


 ピノアの説明にダンバーが相槌を打つ。


「そんなあやふやな噂でこんな山奥まで連れ出されたんですもの、無駄足だったら承知しませんわ!」


 ソステートは余程山道がこたえたのかダンバーに愚痴を零す。


「それで、フォルテさんたちはこれからどうしますか?もう日も暮れて来ましたし、このままお二人だけで山道を返すのは忍びないのですが・・・」


 ピノアは二人を心配して声を掛ける。目的のケーキ屋がないと分かればここには用はないが、勇者の育成を手助けする重要拠点と分かれば魔王として興味が湧かない訳はなかった。


「そうですね、ここまで時間がかかるとは思っていませんでしたし、日が暮れると山道はより危険ですから。しばらく、ピノアくんたちに同行してもいいですか?」


 フォルテは自然な会話でピノアへの同行を申しでる。


「もちろん構いませんとも!僕としてもこのままフォルテさんたちを行かせるのは心配でしたから」


 ピノアは嬉しさを体中から滲ませながら承諾する。


「せっかくですから、これを機にフォルテ様も鍛えて貰っては如何ですか?」


 モニカが楽しそうにフォルテに問いかける。


「これでも魔王の端くれ、敵の恩情は受けません!!」


 フォルテはモニカの言葉に頑なな意思を示した。そうして、勇者一向と魔王一行は揃って謎の施設、育成所へと足を踏み入れるのだった。

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