最強血統種 ベル その2
城門を潜り、最初に入ってきた煌びやかな廊下から一変して、ベルたち三人は薄暗く所々薄汚れた廊下を歩いていた。
すれ違う人々も先ほどまでいたにこやかな事務員とは違い、顔中に傷を刻んだ歴戦の戦士たちが多く行き交っていた。
「おお!すげぇ傷!まさに戦士の中の戦士って感じだな」
周りの光景に感動して声を上げるティンパニ。
「あの装備は搭乗式高性能機、御堕例無マーク12.8じゃないですか!!そんな、もう実装されていたなんて!?」
タンバルがすぐ横を過ぎ去った機械人形を見つめながら声を上げる。そんな目を輝かせた二人の後ろでベルは興味なさげに歩いていた。
「あぁ、どうせなら魔王様の執務室を見たかったわ。軍内部の光景なんてパパに連れられて何度も見たもの」
「そう言うなよ。俺たちにとっては初めての体験なんだ。もう少しくらい付き合えよ」
ふてくされるベルに向けてティンパニはウキウキした笑顔を向けて言う。そんな嬉しそうな二人を見ていると、ベルはそれ以上何も言えずに黙って付いていくことにした。
『緊急警報!緊急警報!勇者の来城を確認しました。一般事務員は早急に避難して下さい。間もなく一般エリアの隔離が始まります!』
けたたましい警報と共に、事務員の働く部署にはシャッターが下ろされ瞬く間に隔離されて行く。足早に非難する一般職職員や観光客、それに招かれた児童たち。辺りには屈強な軍人と、場違いな三人の子供だけが取り残されていた。
「や、やばいよ!僕たちも早く避難しないと!!」
空中に羽ばたいてせわしなく周囲を見て回るタンバル。彼は必死に避難口を探したが、すでに周りの通路は全て封鎖されていた。
「だ、大丈夫だってダンバル。ここは未だ無敗の魔王様のいる城だぜ!勇者なんて、ぎゃ、逆に返り討ちさ」
強気な言葉を吐くティンパニだったが、その表情は言葉とは裏腹に不安を隠せずにいた。唯一魔王の存在を知るベルはその温厚なフォルテが勇者を退けるほどの力を有してるとは到底思えなかった。
「人は見かけによらないって言うし、きっと戦いになると力を発揮するのよね。信じてるわ魔王様」
ベルは強い魔王を思い描き必死に自分を落ち着かせる。
「おい、ヤバいぞ今回の勇者。もう先発隊は壊滅だ、いま大将が前線に出て食い止めてるってさ!」
「ボンゴの兄貴ならひとまず安心だな!よし!!結果を見て勇者の強さを判断する。一般兵は無理に兄貴を助けようと前に出るなよ!!」
勇者の強さを表すパロメーターとして、最近魔王軍ではボンゴのやられ具合によってその脅威度を判断していた。不死身とも取れるボンゴの生命力がどれだけ削れたかによって、その勇者の危険度を察しようという狙いであった。
「おい、結果が出たぞ!!今回は13ボンゴだ!これはヤバい10を超えたぞ、一般兵はすぐ退け!精鋭部隊で魔王の間まで誘導する、いいか?10ボンゴ以上の勇者だ!!決して近づくなよ!」
慌ただしく飛び交う情報にベルたち三人は見つからないように隅で隠れていた。兵士たちも緊急事態に追われ子供の存在など目に入っていなかった。
「なぁ、さっきからベルの親父さん、名前呼ばれまくってて、これって大活躍じゃねぇか?やっぱり四天王ってやつはすげぇよな」
ティンパニは目を輝かせながらベルに話しかける。
「え、えぇ、ありがとう」
ベルは活躍とは少し違うように聞こえる会話の内容に、ティンパにの羨望も素直に喜べずにいた。
「なんだか兵も退いてますし、もしかしたらそこまで強い勇者ではないのかもしれませんね」
状況を楽観視したタンバルが空から二人に話しかける。その言葉に自然と緊張感も緩み、三人は好奇心から勇者の様子を見に行くこととなった。
「勇者か、やっぱり男としては、いつかは対峙したい相手だよなタンバル?」
すでに当初の緊張感は消え失せティンパニは呑気に話しかける。
「ぼ、僕は嫌ですよ!!戦いなんて向いてないですもん!出来れば平和に本でも読んでいたいです」
タンバルは自身の羽を大事そうに撫でながらティンパニに答える。
「経験に勝る知識なんて無いんだぜ!さぁ、何事も経験だ、たいしたことない勇者だったら俺たちで倒してやろうぜ!!」
ティンパニは強引に言って聞かせ、一人勇者の進んだであろう方角へと歩いて行く。そんなティンパニを放っては置けず、タンバルとベルは彼の後を追って通路を駆けだした。
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