最強血統種 ベル

「さぁ皆さん着きましたよ!ここが魔族全体を治める中心地、魔王城!現魔王、フォルテ様が居られる居城になります!!くれぐれも粗相のないようにしましょうね」


 魔王城城門前、山羊ような顔をした魔族がズレた眼鏡を整えながら目の前の子供たちに大声で告げる。


「わかりましたー」


 子供たちは元気に返事をし、その声を聞いて山羊の魔族は満足そうに微笑む。そしてそのまま門番に話しかけた。


「こんにちは、私は私立摩豪第二学園の教師、パウケンと申します。本日は生徒たちの社会科見学のために伺いました」


 山羊の魔族パウケンは門番に要件を告げる。門番は日程表を確認し、本日の予定と照らし合わせた。


「確かに、伺っています。では、こちらが通行証になります、帰りに回収しますので落とされないようにお願いします」


 門番はそう言ってパウケンに通行証を渡す。


「ありがとうございます。本日は一日、宜しくお願いします」


「「よろしくお願いします!」」


 教師パウケンに続いて子供たちが元気な声で頭を下げる。門番は笑顔で子供たちを出迎え、門を開け放った。


「なぁベル?お前の父ちゃん魔王軍にいるんだろ?何処にいるんだ?」


 皆がワクワクした気持ちで魔王城の門を潜る中、大きな角を生やした鬼族の子供が、見た目はか弱そうな少女に話しかける。


「んー、分からないわよ。勇者が攻めてきたときは前線に出て戦うみたいだけど、いつもは何処かで訓練でもしてるのかも?」


 声を掛けられた少女ベルは、父親である魔王軍四天王、爆音のボンゴについて答える。


「ベルちゃん!ティンパニくん!ちょっと待って下さいよー」


 先を歩くベルと、先ほど話しかけてきた鬼の子供ティンパニに対して後ろから声がかかる。二人がそちらに振り向くと羽を振りながらヨタヨタ歩くハーピーの男の子が追いかけてきた。


「おいタンバル遅いぞ!もたもたすると置いてくからな!」


 ティンパニは拙く歩くハーピーの少年タンバルに声を掛ける。


「もう、ティンパニくん。そんな意地悪言わないで、少し待ってあげましょうよ」


 ベルは一生懸命二人に追いつこうとするタンバルを待つため足を止める。


「はぁはぁ、ありがとうベルちゃん。飛んでいければ楽なんだけど、魔王城は飛行禁止エリアだから。もう歩くのって大変で」


 タンバルはベルに追いつき息を整える。


「ふん、普段から楽して飛んでばかりいるからだ。少しは歩かないと足腰強くならないぜ」


 そんなタンバルの様子をみてティンパニは悪態をつく。


「ハーピー族はもともと空の主と言われた種族です。空中こそが僕らの本域なんです!」


 タンバルは負けじとティンパニに言い返す。


「もう二人とも喧嘩しないの!ほら、みんな行っちゃうわよ」


 ベルは言い争う二人を宥め、先を急ぐように言う。既に魔王城入り口のエントランスには多くの生徒が集まっていた。


「みなさーん!集まりましたか?」


 エントランスにパウケン先生の声が響く、ベルたち三人は急ぎ声のする方へと急いだ。


「今回魔王城を案内してくださる観光案内課のライアさんです。みなさんご挨拶しましょう」


「「こんにちわーーーー」」


 大きな子供たちの声に驚き、先ほど紹介された女性職員は目を丸くする。


「こ、こんにちわ。みなさんとってもお元気ですねー、今日は一日よろしくお願いします」


 ライアは丁寧に頭を下げる。


「それでは、普段みなさんのお父さんとお母さんが納めている税金がどのように使われているのか、一緒に見ていきましょうね」


 ライアはそのまま子供たちを通路の先へと案内する。その指し示す方向に向かって子供たちはぞろぞろと行進を始めた。


「あーあ、せっかく魔王城に来たのに見学するのはお役所仕事なんてつまんねーな」


 ティンパニはつまらなそうに呟く。


「何言ってるんですか!魔族領がこうして平和に国として運営されている、その裏側を直に見れる機会なんでそうそうないんですよ?」


 ティンパニの言葉にタンバルは返答する。


「そんなこと言って、タンバルも本当は事務仕事より軍隊の方が気になるんだろ?わざわざ実践演習を観に行くくらい軍事マニアなくせに」


「ぐぬぬぬぬ」


 タンバルは何も言い返せないのか、うめき声をあげていた。


「ベルも別のとこ見たいだろ?パパに軍の内部まで連れてってもらえないって嘆いていたもんな」 


「うん、でも,,,」


 ベルはティンパニの誘惑に心が揺さぶられていた。


「将来魔王城で働きたいと思うなら、少しでも実態を知っておくことは大事だと思うぜ」


 ティンパニは最後の一押しをベルに告げる。彼女は父親の仕事に憧れ、魔王城で働くことを切に願っていたのだ。


「じゃあ、ちょっとだけ」


「よし!決まりだ!行くぞ、タンバル!!」


「えぇ、僕はまだ行くとは言っていないのにー」


 ベルの決断に否応なく巻き込まれるタンバル。彼の言葉を聞かずにティンパニに手を引かれて列とは違う方向に向かって行った。


「あなたたち、何処行くの?」


 そんな三人に声がかかる。先ほどまで案内役として話していたライアだ。


「え、えっと、ちょっとトイレに」


 ベルはしどろもどろに応える。


「そう、それならここを真っすぐ行って左にあるわ」


「あ、ありがとうございます!」


 ティンパニは早くその場を後にしたく、世話しなく返事を返した。


「あ、それと気を付けてね。魔王城には出るから」


 急ぐ三人にライアは真剣な声で告げる。


「で、出るって?」


 その迫力に押され、タンバルが震えた声で聞き返す。


「魔王城七不思議の一つ、不死身の不死者よ」


「何言ってんだよ?不死者なんだから不死身なのは当たり前だろ!」


 ライアの言葉にも臆することなくティンパニは言い返す。


「いえティンパニくん。不死者、いわゆるアンデットと言えども不死身ではありません。例えば陽の光に弱かったり、浄化呪文で消え去ったりもします」


 ティンパニの言葉にタンバルが代わりに答える。


「そうなの、噂の不死者はそのどちらも効果がないのよ。出会ったら最後、相手を倒すことも出来ずに無残に呪い殺されるだけ」


 ライアは不気味に笑いかけながら子供たちに語り掛ける。


「わ、わかりました!気を付けます!!そ、それではー」


 いるかいないかわからない不死者より、ライアの方が怖くなってきたベルは急いでこの場を去るべく別れを告げて立ち去った。

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