転職勇者 ピノア その2
「タブラ教は世にも珍しい多神教でして、多くの神々が祀られています。その全ての神が何かしらの職業を司っているため、別名転職の神殿とも呼ばれています。ここで自分にあった職を得ることがでますし、今の職も確認することができます」
見事な彫刻が神殿の内部を飾り、見るものを惹きつける。観光名所でもあるタブラ教の神殿は多くの人で賑わっていた。
神官らしき人が観光客に向けて神殿の説明を繰り返している。それを聴きながらピノアたち勇者一行も豪華な内装に目を奪われていた。
「おぉ、懐かしいのぉ。昔魔法使いから賢者へ転職した時以来じゃわい。いつ来ても賑やかなとこじゃのぉ」
「ダンバー様?宜しければついでに賢者を返上されて、無職になっても宜しいのですよ?」
昔を懐かしむダンバーにソステートは厳しく突っ込みを入れる。
「何を言っておるソステート!!わしはまだまだ現役じゃぞ!」
「いえ、そろそろ物忘れもひどくなってきておりますので、これを機に賢き者は卒業される時期かと」
ソステートの指摘に反論の余地がないのか、悔しそうに言い淀むダンバー。
「まぁまぁ、ソステートさん。ダンバーさんも歳なんですから多少はそんな時もありますよ。でも、それ以上にその知識には助けられてますし、やっぱりここで離脱されると困りますよ」
ピノアの助け舟に涙を流して喜ぶダンバー。
「もぅ、ピノア様は優しすぎますぅ、でもそんなピノア様をお慕い申し上げてます」
怒りながらも、そんなピノアの優しさに頬を染めるソステート。
「しかし、ほんとにたくさんの偶像が祀られていますね。これが全部職業神なんですか?」
ピノアは神殿内に立ち並ぶ神々の像を前にして圧倒される。
「えぇ、そうですよ。ですので全ての人々に適した神のご加護が受けられます」
三人の後ろから不意に声がかかる。ピノアたちが後ろを振り向くと、神官服に身を包んだ男性がにこやかに笑いかけてきた。
「こんにちは。今日は皆さま転職をご希望ですか?」
神官服の男性はピノアたち三人の顔をそれぞれ見て言う。
「えっと、転職希望は僕だけでして、こちらのダンバーさんとソステートさんは付き添いです」
ピノアが代表して男性に答えを返す。
「そうでしたか。確かにそちらのご老人は転職するにはちょっとお年が、それにそちらの神官様は」
男性がソステートの服装を見て顔を曇らせる。
「リズム教の方でしたか。お噂はかねがねと」
男性は何処か含みのある言い方でソステートの方を一瞥する。
「かの有名なタブラ教の方に知って頂けて光栄ですわ」
ソステートは男性を睨みながら告げる。
「ダンバーさん。ソステートさんの教派もやっぱり有名なんですか?」
ピノアはダンバーに耳打ちする。
「なんじゃ、ピノア!?そんなことも知らずに今まで一緒に旅してきたのか?」
ダンバーは今更といった感じでため息を交えながらピノアに説明する。
「リズム教はこの世界を作った、創造神の一柱とされる神じゃ」
「へぇ、創造神様ですか。それは偉大な神様なんですね」
ピノアは話を聞いてソステートに羨望の眼差しを送る。
「うむ、確かに偉大な神ではあるが、神話によると遊び好きでいい加減、なので他の神様に比べるとちと見劣りするところがあるがのぉ。その影響でリズム教の経典も面白い事や遊びを重視する考えで、他の教団から白い目で見られることも多いのじゃ」
ダンバーは困ったように頬をかきながらピノアに説明する。
「それは、ソステートさんにぴったりの教派ですね」
ピノアはダンバーの想いを察することなく、改めてソステートを尊敬していた。
「さすがピノア様。私の見込んだ勇者様ですわ」
ソステートはそんなピノアを見て頬を染める。
「さて、それでは転職される方はこちらへ。まずは、現在の職業を確認しますので」
男性はそんなやり取りを軽く流し、普段通りの職務を続ける。ピノアたちは案内された方へと神殿内を進んで行った。
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