ギャンブル勇者 ハーディ・ガーディ その3
「もう!そうやっていつもボロボロになるからママに怒られるのよ!少しは考えてよね!!」
両手をもがれボロボロに傷ついたボンゴがベルに叱られている。
見た目は重症であるが、ボンゴはトロールの血が混ざっており、その回復能力は一級品であった。
例え手や足を切り落とされても翌日には元通りになっており、首を落とされても、全身丸焦げにされても死ぬことはなかった。その為、仲間からは不死身のボンゴという愛称が知れ渡っている。
「でもベル。パパはこうやって勇者を止めるしか方法が,,,」
「いや、実際止められてないでしょ?素通りよ!改札の方がまだ立ち止まってくれるわ」
「それはちょっと言いすぎなんじゃあ」
ボンゴは娘に怒られ、少ししょぼくれた表情で答える。
「ってことで!ここは私に任せてパパ!!」
ベルは自信満々にボンゴの前に出て、勇者ハーディと向かい合う。
「おぉ、真打登場ですね。今度はお嬢さんがお相手してくれるのかな?」
ハーディは先ほどまでと違い面白そうな表情を浮かべてベルに話しかける。
「えぇ、今度は私が相手よ。これでも腕相撲でパパに勝ったこともあるんだから」
「ははは、それは恐ろしいお嬢さんだ」
ハーディはベルの自慢を子供の戯言と思って聞き流す。
「さぁ、どうする?パパと同じように力で勝負しましょうか?」
先ほど父親が手も足も出ずに圧倒された場面を見ながらも、ベルは臆することなくハーディに勝負を仕掛ける。
「いえいえ。明らかに力自慢のそちらの魔物ならいざ知らず、こんなか弱いお嬢さんを倒したとあっては称賛よりも非難の方が多く浴びせられてしまいます」
ハーディはベルどうやって楽しく遊ぼうか考えながら応える。
「なら、どうするの?えっと、それならこのまま帰って頂けると嬉しいんだけど」
会話の主導権はベルに移っていた。それを認識しつつもハーディは慌てることなくそれすらも楽しむ。
「いやいや、可憐な少女に臆して帰ったとあってはそれこそ故郷の土は二度と踏めませんね」
「それなら、まがりなりにも貴方には敗北をプレゼントしなくちゃね」
ベルはそう言うとポケットからコインを取り出した。
「そうだ!賭けをしましょ!私が勝ったら勇者様にはお帰り頂く、勇者様が勝ったら私たちは黙ってここを通すこれでどうかしら?」
ベルの提案にハーディは少し考える素振りを示す。
「んー、私が勝ったらあなた方の命も頂く、これでしたら提案に乗りましょう」
「ダメだベル!!お前はまだ子供だ、こんな事に命を懸けるべきじゃない!!」
ハーディの言葉にベルよりもまずボンゴが反応する。
そんな慌てるボンゴに対して、ベルは微笑みながら答える。
「大丈夫よパパ。私は負けないもん」
強い意志の籠った言葉にボンゴは圧倒されそれ以上口を挟むのを止めた。
「ブラボー!!いい覚悟です。それで賭けとは何をするんです?あまり時間のかかる勝負はご遠慮願いたいですが」
「大丈夫、勝負は一瞬よ」
ベルはそう言って一枚のコインを取り出す。ハーディは輝くコインを見ながらベルの言葉を待つ。
「今からこのコインを投げて裏が出るか表が出るか賭けるの、どうかしら?」
ベルの提案にハーディは笑顔で答える。
「いいでしょう。ですが、一応そのコイン調べさせて貰っても?」
「えぇどうぞ」
ハーディの差し出した手のひらにベルは自分の持つコインを乗せた。
「これは見事な彫刻ですね。素材もいい!これは、世界最硬と言われたミスリルですか?」
「よくご存じで。それは私の宝物なの」
「決して傷つかないとされるミスリルのコイン。美しい」
ハーディは手渡されたコインをまじまじと見つめて述べる。手にあるコインには表面に美しい羽根の生えた天使、裏面には恐ろしい角を生やした悪魔が彫刻されていた。
「わかりました、どうやら普通のコインのようですね。相談なんですが、私が勝ったらこのコインも頂けませんか?」
ハーディは余程気に入ったのかコインをベルに返しながら提案する。
「えぇどうぞ、どうせ死人には必要のないものですから。さぁ、始めましょう!」
ベルは嫌味を言うように少し笑いながら答えた。そして手に持ったコインを握りしめると勢いよく上空へと弾いた。
「さぁ勇者様?どちらを選びますか?」
上空を舞うコインを一瞬見てハーディは視線をすぐにベルに向ける。
「レディーファースト」
楽しそうに笑うハーディに対してベルは一礼する。
「ありがとうございます。では、遠慮なく。私はやっぱり裏、悪魔の絵柄にしますわ」
ベルはコインの裏に描かれた悪魔を選択する。
「はからずしもお互いの立場と言うわけですね。では、私は天使、表ということになりますね」
ハーディは落下し始めたコインを見上げて告げる。ベルもコインを見つめて辺りは静寂が訪れた。
「頼む!裏、裏よ出てくれ!」
何に願うのかボンゴが手を合わせながら一心不乱にベルの勝利を願う。そんな望みを知ってか知らずか、運命のコインは綺麗な金属音を響かせて地面へと落ちる。未だ勢いよく回るコインに皆の目が注がれる。
そんな中ハーディだけは余裕の笑みを崩さずにいた。
(どんなに願っても無駄だ、さっき調べた時にあのコインには細工してある。裏に重りを付けて表が出るようにしたからな、そうとも知らずに馬鹿な奴らだ)
自らの策に絶対の自信を持つハーディは笑いを抑えるのに必死であった。
「なっに!!!」
しかし、いち早く異変に気づいたのはハーディであった。不規則に揺れるコインを不審に思い、目を凝らしていた彼は近寄って現実を確かめる。
「えっ!なんだこれは!?」
回転力の落ちてきた事によりボンゴの目にも異変はしっかりと見てとれた。皆が呆気に取られる中、コインはついにその動きを止め地面へと倒れ結果を晒す。
「見ての通り裏、私の勝ちですよね?」
地面に転がるコインは悪魔の顔を表に覗かせていた。それを見たベルが勝ち誇ったように告げる。
「な、何を言っている!こんなの無効だ!!」
結果を前にしてハーディは声を荒立て、ベルへと詰め寄る。彼の足元には半分だけ顔を覗かせた悪魔がいた。コインは裏面を表に半分に折られ、表の天使は内側に畳まれどう転んでも裏しか出ないようになっていたのだ。
「あら?確かに裏面が出てるように思われますが?ちゃんと言いましたよね、裏が出れば私の勝ちと」
ベルは、なおもとぼけたように告げる。
「何を言っている!こんなの裏しか出ない、詐欺じゃないか!?」
顔を赤くして捲し立てるハーディに対して、ベルは落ち着いた動作で地面に落ちたコインを拾い上げ掌で弄ぶ。
「結果が全て、これで満足頂けないかしら?」
ベルは笑いながら手の中にあるコイルを握り、二つ折りにされているコイルをさらに握りつぶした。ベルの華奢な手の中で四つ折りにされるコイル。世界最硬度の鉱石とされたミスリルが粘土のように潰れていく。
「あ、あっ…」
見た目からは想像できぬ力技にハーディは臆して言葉に詰まる。
「私の勝ち、ですわよね?」
静かな殺意を放つベルにハーディは震えて答える。
「はっ、はい!!すいませんでした!!」
姿勢を正して敬礼したハーディは命の危険を感じ逃げるようにその場を後にした。
「ベル、だんだんママに似てきたな」
娘の成長に感慨深さと共に恐怖を感じるボンゴであった。
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