ギャンブル勇者 ハーディ・ガーディ その2

 城主の負のオーラが渦巻く城内、それを打ち破るようにけたたましく警報が鳴り響く。


『緊急警報、緊急警報。勇者の襲来です!各員は至急持ち場にて待機お願いします。繰り返します』


 職員たちが慌ただしく動き出した城内で、一人の大柄な魔族が広い玄関ホールの中央に立ち尽くしている。


「さぁ、勇者でも賢者でもなんでも来い!この四天王、爆音のボンゴ様が引導を渡してくれるわ!!」


 大声を上げるボンゴの足元で少女がため息をつきながら声をあげる。


「もうパパ!そんな馬鹿正直に正面にたってたら勇者さんのいい的よ!それにまだみんなの避難がすんでないんだから、まずは避難誘導が先でしょ?少しは考えて行動してよね」


 声をかけたのはボンゴとは似ても似つかぬ娘のベルであった。母親譲りの気の強さからか、見た目は恐ろしいボンゴにもズバズバと意見を言っていた。


「ベル!?何でここに?」


「何故って、パパがお弁当忘れたから届けにきたんでしょ!」


 ベルの登場に驚くボンゴ、そんな父親にベルはお弁当を差し出す。どこから取り出したのかベルの上半身はゆうに隠れてしまうほどの量であった。


「今朝急いでたから忘れてたよ」


 ボンゴはそう言ってベルから大きなお弁当を受け取る。


「もう、しっかりしてよね!この前だってママがせっかく作ったお弁当ほとんど残してきたでしょ?」


「あれは勇者との闘いで内臓がごっそり削られて、食べても消化されなかったから,,,」


「言い訳しないの!」


 ボンゴは幼い娘に叱られて口を紡ぐ。そうしている間に城内には人影はなくなり、代わりに一人の青年がボンゴたちの前に現れた。


「おやおや?こちらに魔王軍の四天王様がいらっしゃると聞きましたが、まさかの子連れとは。それともそちらのお嬢ちゃんは見かけによらない強者なんですかね?」


 娘と押し問答を進めるボンゴの前にピシッとスーツを着込んだ男が現れる。


「なんだお前は?営業なら間に合ってる、とっとと帰ってくれ!」


 どこからかの営業だと思ったボンゴは目の前にいる男を適当にあしらう。


「えぇ直ぐ帰りますとも。城主の首を頂いたらね!」


 男は余裕の笑みを浮かべてボンゴとベルに向けて啖呵を切る。その言葉に反応してボンゴは素早く相棒の戦斧を取り出して構えた。


「お前が勇者か?」


 ボンゴの問いかけに男は深々と一礼して答える。


「私はハーディ・ガーディと申します。ご推察の通り、一応勇者で御座います。どうぞお気軽にハーディとお呼びくださいませ。して、どちらが四天王様ですかね?」


 ハーディの挑発との取れる言動にボンゴは激昂する。


「お前の目は節穴か!?俺が魔王軍が四天王、爆音のボンゴ様だ!!」


「スマートな勇者様に比べて。パパ、品がないわ」


 ボンゴは戦斧を振り回してアピールする。そんな父の姿にベルは顔を覆った。


「それは意外でした、てっきりそちらのお嬢さんが四天王かと思いましたよ?」


 ハーディは見透かしたような目線をベルに送る。その視線を感じてベルは背筋の凍る思いを感じた。


「人をおちょくりやがって!覚悟しろ!!」


 ボンゴは力任せに戦斧を振るいハーディに向けて振り下ろす。見た目通りの力技でボンゴの一撃は床すら両断する。

 しかし、ハーディはそんな大ぶりの攻撃を華麗にかわしボンゴと距離を取って佇んでいた。


「見た目通りさすがの腕力ですね。これは、当たっていたら危なかった」


 まるで他人事のように話すハーディ。未だ余裕を持って話す姿に苛立つボンゴ。


「どうした?お前もかかって来い!!」


 安い挑発を繰り出すボンゴ。その一瞬後には彼の首筋に白銀の刃が向けられていた。


「な、いつの間に,,,」


「パパ!?」


 あまりの早業に声すら上げることが出来なかったボンゴ。そして、父の危機を心配するベル。ハーディの動きに息をのむ二人であったが、不意にその刃が下ろされた。


「な、なぜ剣を下ろす!?」


 予想外の展開に動揺するボンゴ。


「つまらないですねぇ」


 まるで興味が失せたかのように剣を鞘へと収めるハーディ。


「つまらないだと?」


「えぇ、こんな一方的な戦いなんて退屈でしかありません。本来戦いとは対等な者同士が行うものでしょ。今のこれはまるで虐めだ」


 すでにボンゴとの実力差を計り終わったのか、ハーディは格下と認識したボンゴに向けて吐き捨てる。


「ぐ、ぐぬぬぬ。それでも、このまま見過ごされるのは戦士の恥!そして父の恥だ!!」


 これでも四天王の一角を預かる身、そして娘の前で無様な姿を晒すことが耐えられなかった。ボンゴは顔を赤くしてた戦うようにハーディに詰め寄る。


「パパ!落ち着いて」


 今にも襲い掛かりそうなボンゴを娘のベルが宥める。


「やはりそちらのお嬢さんの方が優秀だ。状況をよく理解されている」


 ハーディはベルの洞察力を察知し、彼女の能力を称賛する。


「ぐぉぉぉ!!こうなれば、玉砕覚悟で突撃するのみ」


 ボンゴは大きな体を生かして、自らの体で相手の侵攻を止めるべく両手を広げて突進する。


「それはもはや自殺願望と変わりありませんよ?」


 ハーディは呆れながらも剣を抜き、鬼の形相で向かってくるボンゴに向けて振り下ろした。


「パパー」


 唯一の目撃者となったベルの、呆れた声が寂しく響いた。

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