狩猟勇者 ボーンズ その2

「えっ!?ゆ、勇者、様ですか?」


 フォルテは聞き間違いであることを期待して再度聞き返す。


「んだ。オレは勇者だ、こうして狩りをしながら魔王を倒す旅をしてるだよ」


 残念ながら聞き間違いではなくボーンズは正真正銘の勇者であった。

 ボーンズはフォルテと話しながらも魔物を解体する手を止めない、その慣れた手つきにフォルテは目を奪われる。


「あっ!?これは倒した魔物から素材を剥いでただ。良かったら一緒に食べるか?」


 ボーンズはフォルテの視線を察し、剥ぎ取った魔物の肉をフォルテに差し出す。フォルテは腐臭の漂う肉を目の前にしながら笑顔を引き攣らせて丁寧に断りを入れた。

 ボーンズはその返事を受け残念そうに肉を懐に入れる。食い意地のはったモニカでさえ顔をしかめていた。


「いつも倒した魔物を解体してるんですか?」


 フォルテは手際よく作業を進めるボーンズに質問する。


「んだ。魔物は捨てるとこがないだよ。肉はもちろん食べるだ、骨は加工して武器にして、革もちゃんと処理すれば衣服に早変わりだ」


 フォルテはボーンズの服装を見て納得する。


「しかし、魔物の多くは人体には毒なのでは?」


 フォルテがボーンズに話しかける。人が魔物を食べない理由はこの毒素のせいである。しかし、あくまで食用として適さないだけで、死体として土に帰ると有益な養分となることは知られていた。


「もしや?多少毒はあっても、その味は格別とかですか!?」


 先ほどまで嫌煙していてモニカが目を輝かせて前にでる。


「ん?気になるなら食ってみっか?」


 ボーンズは食い意地の張ったモニカに剥ぎ取ったばかりの魔物の肉を差し出す。その腐臭は後ろで見ていたフォルテにすら届いていた。


「モニカさん、モニカさん?やめておいた方がいいですよ?明らかにヤバい色してますもんあの肉」


 欲望と理性の狭間で揺れえ動くモニカに対してフォルテは引き留まるように説得を続ける。


「で、でもですよフォルテ様。毒も用法容量を守れば薬になるといいますし、あの鮮やかな紫色のお肉が私を呼んでいる気がしますぅ」


「あぁ、これはダメなやつだ」


 すでに壊れているモニカを強引に肉から引きはがし、フォルテは改めてボーンズへと向き直る。


「すいません、せっかくのご厚意でしたが、今回は遠慮しておきます」


「そっかぁ、そりゃ残念だなぁ。この子も食べてもらえずに悲しんでるだなぁ」


「えっと?その肉がですか?」


 フォルテはボーンズの感情が分からずに聞き返す。モニカも不思議に思い確認するが、もちろん魔物はもう生きてはいない。


「んだ。この子が可哀想だ」


「か、可哀想ですか?」


 意外な答えに思わず聞き返すフォルテ。


「んだ、おでの都合で命を奪っておいてそのまま放置は可哀想だ。だから、せめてその全てを有効利用してるだよ」


 思わぬ意見に言葉を失うフォルテ。自身の立場も忘れて自愛溢れるボーンズに応援の言葉をかけたくなっていた。


「えっと、それなら勇者をやめたらどうなの?そうすれば魔物と戦う意味もなくなるでしょ?」


 離れて聞いていたモニカが雰囲気も考えずに意見を述べる。


「ちょっとモニカさん!そんなことできるわけないじゃないですか!?」


 あまりの不謹慎な意見に声を上げるフォルテ。


「だってここですっぱり諦めてくれた方がフォルテ様的にもありがたいじゃないですか!?それにこのままいったら、この勇者に負けたフォルテ様は剥製にでもされちゃいますよ?」


 モニカは悪い笑みを浮かべながらフォルテに耳打ちして抗議した。フォルテは剥製となって未来永劫見世物にされる未来を予見し背筋が凍る。


「それはそうですが、でも簡単に辞めるなんて出来ないですよ。ボーンズさんにも勇者として譲れない信念があるんですから」


 二人でコソコソと言い争う間もボーンズは考え込むように黙っていた。しばらくするとハッとするように顔を上げボーンズは話し出した。


「うん、お嬢ちゃんの言う通りだ。嫌な仕事を無理に続けてることはないべ!オラ、勇者辞める!」


 あまりに素っ気ない物言いにフォルテは呆気に取られた。


「ちょっ、ちょっと待って下さいボーンズさん!?そんな簡単に決めちゃっていいんですか?仮にも勇者ですよ、魔王を倒す宿命を背負った勇者ですよ!?」


 フォルテは自分の立場も忘れて何故かボーンズに思い留まるように促す。


「フォルテ様そんな自分から首を差し出すようなことされて、自作願望でもあるんですか?」


 フォルテの行動に困惑したモニカがため息をつく。


「大丈夫だ。ちゃんと辞める一週間前に申し出れば契約違反にならないべ」


「勇者ってバイト感覚でしてるんですか?」


 あまりに軽い勇者の扱いに、自らの魔王と言う職すら軽く思えてくるフォルテ。


「そうだ!フォルテ、お前勇者になれ!!真面目で責任感強そうだからきっと向いてるべ!!」


 事情を知らないボーンズは、勇者の職をフォルテに勧めてきた。


「えっ、いや、それはちょっと無理かなー」


 フォルテは苦笑いを浮かべながらやんわりと否定する。後ろではモニカがニヤニヤと楽しそうに笑っていた。


「大丈夫だ、オラが教えてやる。フォルテでもきっと出来る」


 妙な自信を確信しながら強く勧めてくるボーンズ。その圧力に耐えかねてモニカに助けを求めるフォルテ。


「いいじゃないですかフォルテ様。自作自演、自らを殺すなんて面白そう」


「そんな自殺願望はありませんよ!」


 すっかり楽しんでいるモニカに強く否定を返すフォルテ。


「それよりも、ボーンズさんは勇者を辞めた後はどうするんですか?」


 なんとか話題をすり替えようとするボーンズに問いかけるフォルテ。


「オラ、ほんとは魔物が大好きだ。魔物と仲良くなりたいだよ」


 ボーンズは目を輝かせながら自らが纏う魔物の骨を撫でる。


「それはいいかもしれませんね。人と魔物、本当は分かり合えるのかもしれません」


 フォルテは人との新たな関わりを期待しながら嬉しそうにボーンズに同意した。フォルテの反応にウキウキと楽しそうなボーンズ。


「お見事ですフォルテ様!意図せず勇者の討伐に成功しましたね」


「毎回こうだと安泰なんですが」


 こうして新たな脅威の目を摘んだフォルテであった。

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