狩猟勇者 ボーンズ

「すっかり遅くなっちゃいましたね」


 日の落ち掛けた街道、行き交う人の数もまばらで皆が早足で宿へと急ぐ。そんな道を行くフォルテとモニカも自然と早足になっていた。


「まったく、モニカさんが寄り道なんてするからこんな時間になっちゃったんですよ」


 モニカより数歩先を歩くフォルテが振り返らずに告げる。


「だって、せっかく城外に出たんですもの。少しはその土地の物を満喫したいじゃないですか。それにフォルテ様もちゃっかり楽しんでましたよね?」


 モニカの問い詰める声にフォルテは返す言葉も見つからずに黙って歩く。いつもの魔王城とは違い、誰も知らぬ外で二人きりと言う事でフォルテも舞い上がっていたのは確かであった。


「とりあえず急ぎましょう。おそらくシンバさんが抱えきれぬほどの仕事を用意してくれているでしょうから」


 これから待ち受けている職務を考えると逃げ出したくなるフォルテであったが、そうも言っていられず、少しでも被害が小さいうちに帰路を急ぐのであった。


「フォルテ様!フォルテ様!あれはなんでしょうか?」


 先を急ぐフォルテに対して何かを見つけたのか、モニカの呼び止める声が聞こえる。


「まったく、今度は何ですかモニカさん?お土産は充分買いましたよ!?」


 フォルテは呆れた顔でモニカに振り向く。モニカは街道脇を指さしたまま不思議そうな顔をしていた。フォルテもモニカの指先へと視線を移す。

 フォルテの目線の先には争う二匹の獣が見えた。どうやら決着はついたらしく、戦闘を終え勝者が敗者を捕食するシーンへと場面は移っていた。

 あまりの残酷な光景にフォルテはすぐさま視線を逸らす。


「弱肉強食が自然の性とはいえ、可哀想で直視できません」


 フォルテは顔をしかめながらモニカに話しかける。


「よく見てくださいよ、フォルテ様。あれ、片方人間ですよ?」


 モニカに指摘され再度対象に目をやるフォルテ。


「え?ほ、本当だ。よく見たら人間ですね」


 再度フォルテが現場に目を向けると、そこには獲物を狩った人間と、綺麗に素材を剥がれた獲物があった。人間は全身に毛皮を着込み、頭には動物の頭蓋骨らしき兜を着けていた。なので遠目には動物同士が争っているように見えたのだ。


「しかし、解体してるのは魔物ですよ。たいして取る素材もないのに何をしてるんですかね?」


 モニカは不思議そうに答える。魔物は普通の動物と違って体内に毒素を有したものが多い。そのため素材を剥いでも売ることも食べることも出来ない。わざわざ解体してまで持ち帰るほどの旨味はなかったのだ。


「わかりません。もしかして学者さんで、何かの研究でしょうか?」


 フォルテはそう答えながらも対象者の格好がそれとはかけ離れているのが気になっていた。いつまで経っても答えの出ない問に業を煮やし、二人は恐る恐る解体作業を進める男に近づいて行くのだった。


「ふんふふーん♪」


 陽気に鼻歌を唄いながら魔物の解体作業を進める男。その背後に向けフォルテは声をかける。


「こ、こんにちは」


 不意に声をかけられた男は作業する手を止めて振り返る。まるで不思議な物でも見るように目を丸くしてフォルテの顔を見つめた。


「えっと、僕はフォルテと申しまして。あぁ、彼女は連れのモニカさん。旅の途中なんですが、何をされているのかと不思議に思ったので声をかけさせて頂きました」


 フォルテはしどろもどろに説明しながら話を続ける。その様子を見て警戒心を解いたのか男が表情を和らげながら話しかけてきた。


「オレはボーンズ。ゆ、勇者ボーンズ」


 男は緊張しているのか拙い言葉で話しかけてくる。まさかのカミングアウトにフォルテてモニカは顔を見合わせて固まった。

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