不協和音のグラビネ その3

「この木偶の坊が!このこの!死んで詫びな!」


「あぁ、なんて容赦のない一撃!一発一発が確実に急所を突いてくる、もっとお願いします!!」


 自分の数倍もある巨漢のボンゴを執拗に蹴り飛ばす年老いたグラビネ。そんな不思議な光景を静観するコト、三人の四天王は勇者を目の前に共闘という言葉を知らなかった。


「なんだこの図体だけのハリボテ兵士は!?こんなのが我が魔王軍に所属しているなんて、なんと嘆かわしい」


 まるで新兵へのしごきのように容赦ない言葉を投げかけるグラビネ。それを見て自らに災いが降り注がないように遠くに離れるコト。


「これは一体、何があったんですか?」


「あっ?アコール様、私も何がなんだか。警報が鳴った途端、グラ婆がいきなり覚醒して飛び出しちゃったんですぅ」


 コトは隣に現れたアコールに事の次第を話す。


「なるほど、さすが老いても四天王。勇者との邂逅で昔を取り戻したという事でしょうか」


「そんな呑気に考察してないで止めてくださいよー、このままじゃボンゴ様が死んじゃう事はぁ…あり得ませんね」


 コトは自分で言いかけた言葉を自らで訂正する。


「それにしてもすごいですね。見た目はヨボヨボの老婆なのに、なんですかあの動き?ほら、ボンゴ様の間接をあんなに簡単に捻じ切ってる」


「彼女の戦いを見るのは数百年ぶりですが、未だ衰えを知らずですね。ほらボンゴさんの四肢が雑草のように削られていきますよ」


 アコールとコトは圧倒的なグラビネの動きを見て感嘆の声を漏らす。


「あぁぁぁ、なんなんだこれは!?」


 一方で目の前で行われる残虐なしごきを見た勇者は、恐れおののき腰を抜かしこの場を去ろうと張って逃げ出す。


「まぁ、あんたのしごきはまた後でするとして、そこで黙ってあたしの戦いを見てるんだよ!」


 グラビネは動かなくなったボンゴに自らの戦いを観戦するように指示を出す。


「さぁて、待たせたねぇ勇者!ここからが本番だ、あたしを楽しませておくれ。あれ?どこにいったんだい?」


 グラビネは先ほどまでいた勇者を探して室内を見回す。


「さすがです、グラビネ様。戦わずして自らの力を見せつけ、勇者を追い返すとは。城の被害も、軍への被害も最小限で抑えるその手腕、このアコール感服いたしました!!」


「アコール様?訳一名被害者がここにおりますが?」


 グラビネの活躍を褒め称えるアコールに対して、コトは虫の息で倒れるボンゴを指さして意見する。


「あれ?ここは何処だい?」


「グラビネ様?」


 戦う目標を失ったグラビネが気の抜けた声を出す。その変貌を見てアコールが声をかけた。


「あんたは確か、いつもあたしに愛の俳句を送り続けて「それ、違います」」


 グラビネの間違った記憶をすぐさま訂正するアコール。どうやら彼女は勇者が現れた時だけ昔を思い出すようであった。


「どうやらグラ婆、元に戻ちゃったみたいですね?」


「私の記憶では、先ほどまでの姿が本物という認識なんですがね」


 アコールはコトの言葉にどこか悲しそうに返事をする。


「しかし、パワフルな老人でしたね。まさに我が道を行くって感じです、誰とも相いれない二つ名にぴったりの人でしたね」

 

 コトはグラビネの二つ名、不協和音を揶揄して言う。


「グラビネ様は群れを嫌い軍を持たない遊撃部隊、単騎でも他の部隊に引けを取らない圧倒的戦力を有します。しかし彼女の二つ名の本当の意味は唯一の部下にあります」


「え?それってどういう意味ですか?」


 コトの質問に関して、アコールはそれ以上語ることを拒んだのか黙ってその場を去っていく。


「さぁ、お猿ちゃん。ご飯食べに行きましょうね」


「グラ婆、また食べるのぉ!?」


 取り残されたコトは、グラビネに捕まって再び食堂へと舞い戻るのであった。

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