迷走勇者 ヴェノーバ
『続いて紹介するのは魔王城七不思議の一つ、彷徨える勇者の亡霊です!』
日が陰り始めた魔王城の中庭、一人ベンチに腰掛けた少女が食い入るように小さな映像端末を見つめていた。
その姿を遠くから見つけたフォルテは、気になって少女に近づいて行く。
「ベルちゃん。こんな所で何してるの?」
フォルテは動画を見つめる少女ベルに話しかける。彼女の父親は魔王軍四天王の一人、爆音のボンゴその人であった。
「あっ、フォルテ様!今日はお父さんと一緒に帰ろうと思ってここで待ってたの」
フォルテは、天使のようなベルの笑顔に癒されながら会話を続ける。
父親とは似ても似つかず可愛らしい容姿でありながら、2歳とは思えぬしっかりとした物腰は規格外の何かをフォルテに感じさせた。
「ボンゴさんならさっきエントランスに居たからすぐに来ると思うよ。それにしても、そんなに一生懸命になって何を見てたの?」
フォルテはベルの手元に映し出された映像に目を向けながら質問する。
「これは今話題の動画で、『隣の魔王城訪問記』です。すっんごく、面白いんですよ!!」
ベルは目を輝かせながら動画を勧める。フォルテはその聞き慣れない単語に首を傾げた。
「えぇ!?フォルテ様知らないんですか!?訳して魔訪記ですよ!投稿者が魔王城のあちこちを案内する、お宅訪問動画じゃないですか。普段観ることが出来ない魔王城の裏側や、隠し通路、仕掛けられた罠の数々まで紹介してくれる大人気動画ですよ!」
ベルの言葉にフォルテは絶句する。我が家とも言える魔王城が自分の知らぬことらで全世界に対して晒されていたとは、しかも城の構造を知られると簡単に勇者に侵入されてしましご丁寧に設置された罠まで紹介する始末。
いったい誰がこんな動画を上げたのか、フォルテは怒りを抑えて再度動画を見返した。
『夜な夜な城を彷徨う、朽ち果てた勇者の亡霊。今回は、その真相に迫っていきます。まずは目撃者に話を聞いてみましょう!』
動画では明るい女性の投稿者が城の門番に対して話を聞いているところだった。その声フォルテのよく知る声であった。
「これは、チャイムさん?」
「そうなんですよ。以前投稿したテルミンチャンネルで、チャイムさんの存在が可愛い可愛いって視聴者に爆受けしちゃって、それでチャイムさん本人もノリノリで動画上げたらこれも大ヒット。今では登録者数も鰻登りなんですよ!あぁ、私もチャイムさんみたいな綺麗でカッコいい有名配信者になりたいなぁ」
「いや、ベルちゃん。それはやめといた方がいいよ」
ベルは楽しそうに語るが、チャイムの本性を知るフォルテにとってはお勧めできない夢であった。テンションが上がるベルとは対照的にフォルテは頭を抱えてる。
「あっ、ほら、見てくださいフォルテ様!お父さんが写ってます!」
ベルに言われて動画に目をやると、そこにはチャイムにインタビューされているボンゴの姿があった。
巨人の血も引くハーフトロールであるボンゴは、緊張した面持ちでカメラに向かって話している。いつも以上に緊張して表情はこわばり、とても動画を見つめるベルとは親子には見えなかった。
「ベル!待たせて悪かった」
二人で動画に見入っていると、不意に声がかけられる。ベルは声の主を瞬時に察してそちらへと駆け寄っていく。
「お父さん!もう、遅いんだからぁ!」
ベルは精一杯の愛情表現でボンゴに抱きついた。あまりの勢いに追突されたボンゴは一瞬顔を歪めるが、すぐさま笑顔を取り戻して笑いかける。
「悪い、悪い。さぁ、帰ろうお母さんも待ってるからな。あっ、フォルテ様。いらしたんですか」
ボンゴは痛む胸を押さえながら言葉を返す。
「先程ベルちゃんを見かけて、ちょっと話してたんです。じゃあ、ベルちゃんまたね」
「はい、フォルテ様。さようなら」
ベルは丁寧に頭を下げると、ボンゴと手を繋ぎ家路を急いだ。フォルテは先ほど見た動画の真偽を確認するためにトラブルメーカーの元へと歩みを進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます