実況勇者 テルミン その7

「さぁ来い!お前たちが如何に矮小なる存在かわからせてやろう!そして、我の力を記憶と記録に留め、全世界に知らしめるがよい」


 フォルテとテルミンの会話シナリオは進み、二人の衝突の時は近づいていく。


「さぁ、カメラさん、ちゃんと撮っといて下さいよ。このテルミンチャンネルが人類の歴史、塗り替えちゃいますから!」


 テルミンは攻撃のために腰に差した剣を鞘から抜いて、カメラに話しかけながら構える。

 抜き身となった刀身が怪しく光り、それを模造刀と知りつつも発せられる不気味な緊張感にフォルテの表情は固まる。


「あれ本物じゃないよね?大丈夫だよね?なんかリアルすぎない?」


 カメラに映らない位置にいるチャイムにフォルテは小声で話しかける。チャイムはそんなフォルテの反応を見て素早くカンペに文字を書いて伝える。


「心配ないって?チャイムさん信じますからね!」


 フォルテは誰にともなく呟くと、目の前に迫るテルミンへと視線を合わせた。テルミンの表情は演技とは思えぬ程に真剣そのもので、その鬼気迫る表情からは彼のプロ意識が感じ取れた。


「えっと、まずは相手の剣を軽く受け止めるんだよな」


 フォルテは、シナリオを頭の中で確認しながらテルミンの構える剣に合わせて近くにあった模擬刀を握る。


(そんな悠長に構えてていいのかい魔王さん?この登録者数100万人突破記念で貰った金の剣で、その余裕面ごと真っ二つにしてやるよ)


 テルミンはフォルテの裏をかけたことに対する満足感から自然と笑みが零れていく。彼の振りかざした本物の剣は、今だに構えすら取れていないフォルテに届こうとしていた。


「「えっ!?」」


 テルミンの振り下ろした剣はフォルテに触れることなく根元から半分に折れる。

 想定外の出来事に衝突した双方から間抜けな声が漏れた。


(な、なんだ!?もしかして俺たちの作戦がバレていたのか!?)


 自らの身の危険を感じて急いで後ろへと下がるテルミン。


(え!?えぇ!!いくらなんでもこの小道具脆すぎでしょ!!ちょっと触ったくらいで壊れちゃったし。でも、カメラ止まってないからこのまま演技した方がいいのかな?)


 あくまでテルミンの剣は偽物だと信じて疑わないフォルテ。その間にもテルミンは、予想外の出来事に対し必要以上に距離を取って警戒する。そしてそのままカメラからフレームアウトした。


「とりあえず距離を取って出直し、ガハッァ!!」


 これからの策を考える間もなく、何者かがテルミンを背後から一撃のもとに昏倒させる。急ぎカメラがテルミンを映した時にはすでに彼の意識は遠くへと飛ばされた後であった。


「えっ!?」


 状況についていけずに呆気にとられるフォルテ、周りも何が起こったのか把握できずにいる中、いち早く行動を起こしたのはチャイムであった。彼は素早くカンペに指示を書くと、急ぎフォルテに向けて差し出した。


「えっと。ふふははははは、口ほどにもない奴よ。この程度で倒れるとは、今回だけは見逃してやるからさっさと我が前から消え失せろ!」


 フォルテは咄嗟に出されたシナリオ横目で確認し、今起きた出来事は自分がやったかのように振舞い、この場を収める。


「どう?私の動き。カメラにも映ってなかった?」


「ナイスだよ、コトちゃん!!大丈夫、目でも負えない速さだったから誰も気づいてないよ」


 隠れて様子を伺っていたシンバの下にコトが現れ言葉を発する。コトの手には折られたテルミンの剣が握られていた。彼女がフォルテに剣が届く寸前に二人の間に分け入ってテルミンの剣を叩き折ったのだ。そのあまりの早業に、周りの目はおろか、カメラさえもその瞬間を捉えることが出来ていなかった。


「もう、私の活躍も少しは褒めてよね?」


 文句を言いながらモニカが二人の下に現れる。


「最高の一撃でしたわ、お姉さま!コト感動いたしました!!」


 モニカはフォルテから距離を取ったテルミンの背後に忍び寄り、彼を一撃のもとに葬っていた。


「まぁ、相手の首を飛ばさなかった手加減はさすがでしたね。そんなグロテスクな姿映されたらさすがに動画投稿できませんからね」


 シンバは皮肉交じりにモニカに言葉を投げかける。モニカはそんなシンバを無視しながらコトとお互いの功績を称えあった。


「はい、オッケーでーーーす!」


 影で三人が話し合う間に撮影はチャイムの掛け声で終わりを迎えていた。


「えっと、チャイムさん?これでいいんですか、大分シナリオとは違いましたが」


 すぐさま心配になったフォルテがチャイムに伺う。


「いいも何も、取り直すにしても主役の一人が再起不能ですから。今回はこれで良しとしましょう」


 二人は仲間に介抱されているテルミンを見て苦笑いを浮かべる。


「それにしても、フォルテ様さすがですね。目にも止まらぬ早業。でも欲を言えば、もう少し動画撮影の見栄えを考慮して欲しかったですー」


 チャイムは先ほどの出来事はフォルテの業績だと思い込んでいた。


「ち、違いますよ!あれは、」


「そうですよチャイムさん。あの程度の相手、魔王様でしたら赤子の手を捻るが如し。これでも手加減して、それで結果だったのでしょう?」


 フォルテとチャイムの会話にアコールが割って入る。彼のあまりの威圧感に二人は何も言い返せずに黙り込んだ。


「これで人間どもも我が魔王軍の強さを知って、さぞ燃え上がるでしょう!!」


 アコールは撮影の出来を確信して目を輝かせて喜びを叫んだ。

 その期待に応えるかのように、ネット上のアイドルであったテルミンを完膚なきまでに叩きのめした魔王に対して一部の恐怖と、大多数の怒りを買って投稿動画は大炎上するのだった。

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