実況勇者 テルミン その2
「それで迎え撃つ実力も策もないのに、わざわざ勇者を招き入れちゃったんですかぁ?」
魔王城において一番煌びやかな魔王の間、そこから壁を一枚隔てた部屋は普段魔王が執務をこなす部屋であった。
そこには書類が積まれたテーブルが二つ、扉の正面と左脇に置かれており、部屋の真ん中には向かい合ったソファーが置かれている。
フォルテは入り口正面のデスクに腰かけ頭を抱えており。ソファーの上では、フォルテの様子を楽しそうに眺めるメイド姿の女性がいた。
「仕方ないじゃないですかモニカさん。会議の場で、しかも乗り気なアコールさんの意見を押し切って、僕なんかが反対意見なんて出せませんよ」
フォルテは自分の不幸を呪い、手を合わせて神に祈る体制を取っている。
その様子を見てメイド姿の女性、モニカはニヤニヤが止まらない。
「それはご愁傷様です。あとはそのテルミンって勇者が話の分かる人だといいですね」
「あぁ、こんな事なら今期のボーナス少しは残して置くんだった」
フォルテはデスクの引き出しから通帳を取り出し残高を確認する。
「これでは買収は期待できそうにありませんね」
「モニカさん相手なら、戸棚に隠してあるケーキの半分でもあげれば簡単に釣れそうなんですけどね」
「あぁ、それならもう食べちゃいましたよ?」
「えっ!?せっかくティータイムに食べようと楽しみに隠しておいたのに!」
モニカは悪びれた様子も無く、勝ち誇った表情をフォルテに向ける。
彼女は一件するとフォルテに使える侍女であるかのように見えるが、その言動は荒々しくお互いの関係は同列か、女性の方が優位なようにも見て取れる。
「とりあえず、噂ではエンターテインメント性を重視している勇者のようですから、アコールさんを説得するより希望が持てます。もしもの時はモニカさん、あなたが頼りです」
「えぇー、私がやるんですか?」
「ケーキに手を出した時点で契約成立ですよ!」
モニカと呼ばれたメイド姿の女性はため息を付きながらも笑って同意した。彼女こそがフォルテにとって最も頼れる護衛であり、魔王軍最強の裏ボス・魔神とも呼ばれている存在であった。
「フォルテ様!フォルテ様!!噂の勇者が見えられましたよ」
思い悩むフォルテを待ってくれる時はなく、無情にも勇者来訪の声がかかる。扉を開けて現れたのはシンバであり、大きな耳をせわしなく動かしながらフォルテを呼ぶ。
いつもなら勇者が来た際は心の準備をする間もなく城内に警報が鳴り響き、否応なく勇者とのバトルに巻き込まれるが今回は招き入れた手前警報はもちろん切ってあり、来訪時間も決まっていた。
「いつ来るかわかっている方がいつにも間にて憂鬱になりますね」
フォルテは誰にともなく愚痴を吐きながら重い腰を上げる。
「来た来た、どんな勇者なのか楽しみだわ」
フォルテとは違い軽快に立ち上がるモニカ。
「ちょっとモニカさん!?今回は勇者が襲撃に来たんじゃないんですよ!あくまで来賓としてお招きしたんです。くれぐれも勝手な行動は慎んで下さいね!」
どちらかと言えば好戦的な性格のモニカに対して、シンバは余計な行動をしないように釘をさす。それを受けてモニカは笑いながら答えた。
「大丈夫よ、わかってるって。もう!シンバくんは心配性なんだから」
その言葉を聞いてもシンバの疑いの念は消えず、怪しい目線をモニカに送り続けていた。
「さぁさぁ、早く行きましょうよ。フォルテ様も、ここまできたら当たって砕けましょう」
「い、いやー!命大事にー」
フォルテの作戦立案も空しく、強引なモニカに引きずられ執務室を後にした。
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