変身勇者 バーンスリー
「まったく、どうなってるんですか?」
魔王城の大広間、そこは魔王が勇者と対峙する間であり魔王フォルテが一番ストレスを感じる場所であった。
この日、魔王フォルテはいつにも増して歯がゆい気持ちで豪華に彩られた玉座に座っていた。
「今までこんなことは一度もなかったんですけど。何かあったんでしょうか?」
フォルテの脇にはシンバが心配そうにソワソワしている。
「コトちゃんに限って大丈夫だとは思うけど、万が一ってことも考えられるわね」
「そんなモニカさん!縁起でもないこと言わないで下さい!」
同じくフォルテの脇に控えるモニカも心配して声を上げた。その意見にシンバが敏感に反応する。
いま、フォルテたち魔王軍は窮地に立たされていた。普段諜報任務を行っているコトの部隊から追跡中の勇者に対する情報が一切入ってこなくなったのだ。
そのため現在城では厳戒態勢を引いて、こうしてフォルテは魔王の間に待機する運びとなった。
「でも、もしかして、コトちゃん、勇者に捕獲されて拷問でも受けているんじゃないでしょうか!?あぁ、こうしちゃいられない!!」
青ざめた顔をしながらシンバが喚き、コトを探しに行くため出口へと急ぐ。
「しつれいしまーーす」
その時、タイミングよく扉が開き近くにいたシンバを吹き飛ばした。
「何やってるのシンバ?そんなとこにいたら危ないわよ?」
扉を開けて現れたのは、現在諜報任務についているはずのコトであった。
「コトちゃぁーん!!」
心配していたシンバは涙を流しながらコトへと抱き着く。
「ちょ、やめ、鼻息っ!ふんふんうるさいから!!」
コトは鼻息荒く近づくシンバを遠くへ押しやりながら言う。
「あれ?コトちゃん、なんでこんなところにいるの?偵察任務は?」
モニカはコトがここにいる理由が掴めずに質問する。
「それはですね、お姉様。実は、ボンゴさんから任務内容を交換してくれと頼まれまして」
コトは群がるシンバを遠くへ投げつけると、急ぎモニカの下へと駆けていく。
「ボンゴさんが偵察任務!?なんでそんなことに?」
コトの話しを不思議に思い、フォルテは聞き返す。
「えぇ、なんでも、せっかく元の姿に戻れたんでせめて結婚式が終わるまでは綺麗な体でいたい。とのことです」
「その発言、どこの乙女ですか!?」
コトの言葉にフォルテは反応する。
「確かに、ボンゴくん式が近いんだもんね。また怪我しちゃったら大変だ」
モニカがボンゴを心配して言う。
「それでボンゴさんの警護の仕事とコトさんの偵察の仕事を交換したわけですね?」
「そうなんです。それで、交換したはいいんですが」
コトが申し訳なさそうに俯いて告げる。彼女が何を言いたいのかはこの場にいる全員が何となく察していた。
「わかってます。ボンゴさんに偵察のような繊細な仕事が出来るとは思えませんね」
コトの代わりにフォルテが答える。
「そうなんです。せめて私の部下たちを付けましょうかと言ったんですが、頑なに自分の部下を信頼しているからと言われまして」
「ボンゴくんの部下って大柄なオーガとかガサツなオークとか、いるだけで目立つような巨人ばかりよね?」
モニカがボンゴの部隊を思い出して言う。
「それは偵察には不向きですね。なるほど、それで今のこの状況ですか、納得しました」
「えっと、フォルテ様?お話し中の所申し訳ないですが、どうやら勇者が来たみたいですよ?」
いつの間にすり寄って来たのかシンバが唐突に告げる。
「えっ勇者!?なんで?まだ警報も何も鳴ってないのに!?」
フォルテはいきなりの襲撃に慌てる。そんな中、唐突に城内放送が流れてきた。
『野郎ども!よく聞きやがれぇ、敵だ敵だ、敵襲だぁーーー。さぁ血と汗と涙を流して踊りやがれぇい!!』
いきなりガラの悪いアナウンスが鳴る。
「重ね重ねすいません。いつもなら勇者の存在に気づいて私の部下が警報鳴らすんですが」
「ここは賊のアジトかと勘違いしましたよ」
フォルテの言葉に、コトが申し訳なさそうに告げる。どうやらこのアナウンスもボンゴの部下によるものらしい。
「急だったので、兵の配置もなっていませんし、このままではマズイですよ!?」
「とりあえず警護任されているんで、私行きますね!」
シンバの言葉にコトは焦りを感じ、急ぎ勇者の下へと急ぐ。
「コトさんだけで大丈夫でしょうか?」
「どうやら、もう一人警護にまわってるみたいですし、時間稼ぎにはなるかと」
フォルテの心配に対し、シンバがその聴力を生かして戦況を伝えた。
★★★
「えっと、どちら様でしょうか?」
魔王城のエントランス、そこには不意に押しかけてきた不審人物の対応にあたるチャイムの姿があった。
「はははは、よく聞け悪党どもよ!私は正義の勇者、バーンスリー!!さぁ、死を恐れぬならばかかってこい!」
勇者バーンスリーは謎のポーズを決めながら高らかに宣言する。
「ちょっと!警備員さーーん、変質者がここにいますよーーー!!」
チャイムは明らかに怪しい男を目の前にして助けを呼ぶ。しかし、誰も関わりたがらないのか一向に助けはこなかった。
「あぁ、可憐な乙女が助けを求めてるのにぃ」
チャイムは涙目で訴えるが周りからは白い目線だけが送られてくる。すでにチャイムが男性であることは魔王軍に知れ渡っていた。
「まったく、仮にも魔王軍なら少しは自分で対処しなさいよね!」
そんなチャイムの元に颯爽とコトが登場する。
「えぇー、どうせならお猿さんじゃなくて魔王様に助けて貰いたかったですー」
「あんたをこのまま見殺しにしてもいいのよ?」
「あぁ怖い。前も後ろも敵だらけ、めんどくさーい」
せっかく来たコトに対し悪態をつくチャイム、そんな彼にコトは怒りの目線を向ける。
そんな目線を気にもせず、チャイムは勇者と対峙する。
「さて、少しは役に立つとこ見せないとね。魔王様を邪魔な年増に取られちゃいますから」
「ふははははぁ!!何人来ようと同じ事!我が正義の力、とくと見るがいい!!へーーーん、「ちょっと、あんたぁ!?」」
バーンスリーが何か行おうとポーズを決めたところで、コトの罵声が被さる。
「まさか違うとは思いうけど、その年増って誰のことかしら?」
コトは怒りで顔を赤くしながらチャイムに問いかける。
「何言ってるんですかー?そんなの、あの暴力魔人のモニカ様に決まってるじゃないですかー、ってあぶなーい!!」
チャイムが話している途中であったが、刀を抜いたコトがいきなり切りかかる。
「お姉さまを侮辱するものは誰であろうと許しません!死をもって償いなさい!!」
「ちょっとなんなんですかぁ!?同士討ちは重罪ですよ!?ここの人たちって危ない人しかいないんですかぁ!?」
華麗に逃げ回るチャイムを必要に追い掛け回すコト、その目は殺意に満ちていた。
「まったくちょこまかと!そうでなくても最近はヘタレ魔王様が妙にやる気出しちゃって、それも気に入らないっていうのにぃ、きゃぁ!!」
いつの間に構えたのか、コトの頬をチャイムの射った矢が通り過ぎる。
「私のフォルテちゃんを悪く言うのは許さないんだから!!」
いつになく真剣な眼差しでチャイムは攻撃を続ける。
「はーははは、仲間割れとはなんと醜い!所詮は悪の組織私のあ」
「「うるさい!!」」
高らかと宣言する勇者に対して熱く戦うコトとチャイムは言い放つ。
「邪魔するなら何処か行って!!」
「は、はい!!」
二人の剣幕に気圧され、勇者バーンスリーはその場を後にし魔王の元へ向かうのだった。
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