スパイ勇者 カスタム・ネトー トーナメント戦 準決勝
「さぁ、続きまして準決勝の開始になります!!」
会場中に響き渡るアナウンス、コトはリング中央に立ちながら観客たちに向かって大声で告げる。
「どちらも圧倒的な実力で勝ち上がって参りました。まず登場するのはこの人!その所作は、まさに死神!対戦相手に音もなく忍び寄っては容赦なく命を刈り取る。ドッペルゲンガー、カスタム・ネトー選手!!」
会場の歓声とは裏腹に、静かに佇むカスタム。予選で見た相手の動きを何度も思い出し、その動きに対応する自分をイメージしている。
(いける、いける。私なら戦える!勝てる、絶対勝てる!)
何度も自分に言い聞かせるカスタム。自己暗示のように集中し、気力を漲らせる。
「対するは、一回戦では華麗に舞う蝶のよな電光石火の一撃。私たちは目撃した、魅力と実力は比例するということを!次の戦いでも華麗に舞う姿を期待して、サキュバスのモーニアお姉さま入場ですぅ!!」
コトのアナウンスが明らかにおかしい、観客の歓声でほとんどはかき消されていたが、魔王軍の三人は悪い予感を抱いていた。
呼ばれたモーニアは、これからの戦いがよほど楽しみなのか、スキップしながら入場している。
「さっそく対戦で来たわね。楽しい戦いになりそう、よろしくね!」
モーニアはカスタムに対して右手を差し出す。既に戦闘に集中していたため、差し出された手の意味が分からずモーニアの手を見つめるカスタム。しばらくしてからハッとして、慌てて握り返した。
モーニアは満足したように仮面から覗く口元を緩めた。そのあとコトがお互いに離れるように指示を出す。
「さぁ、今回は本気で来ていいわよ」
まるでカスタムの実力を見透かすように、モーニアは去り際に声をかける。カスタムは返事を返さず、鋭い視線だけをモーニアに向けていた。
「わかってるわよ。相手は格上、胸を借りるつもりでやってやるわ」
カスタムが覚悟を決めると同時に開始の合図が鳴った。
「さぁ、来なさい!」
モーニアはカスタムの攻撃を誘うように、スタンスを広く取り受け身の姿勢で構える。カスタムは最初から全力で仕留めにかかる。
そうして一回戦と同じように気配を消し、カスタムの姿はリングから消えた。
「おい、また消えたぞ!?」「何処だ?」
どよめく会場、フォルテもまたも姿を消したカスタムに驚いていた。
「後ろです!」
シンバが叫ぶと同時にリングの上ではモーニアが真上に飛んでいた。そこにはモーニアの背後で手刀を振るうカスタムの姿があった。
「一回戦の時より、心音が乱れてますね。よほど緊張しているのかな?」
シンバがこの距離で相手の心理状況を読み取って解説する。その聴力に今更ながら驚かされるフォルテ。
リング上では二人の戦いが続き。華麗に着地したモーニアに足払いを繰り出すカスタム。足元を狙われ態勢を崩したかに見えたが、モーニアはリングに着いた手を軸としてそのまま蹴りを繰り出す。さすがにカスタムもたまらず距離を取った。
「前見た時はもっと気配消すの上手かったのになぁ?どうかしたの?」
モーニアは悪戯っぽく笑いながらカスタムに話す。カスタムは歯を食いしばりながら、モーニアを睨みつけている。そんな表情を見てモーニアは満足そうに微笑んだ。
「伝わってるわよ、あなたの精神。もっとぶつけておいで」
モーニアが手を広げてカスタムを挑発する。その余裕っぷりに舌打ちを返したカスタムはモーニアに向けて走る出す。
カスタムは拳を開いて掌をモーニアに向ける。二人の距離はまだ離れており、攻撃が届かないことは誰の目にも伺い知れた。あまりに隙だらけの姿勢にモーニアはしばらくカスタムの行動を見つめる。
「ほら、ボーッとしてると危ないよ!」
カスタムの言葉にモーニアはハッとしたが時すでに遅く、魔力の爪がカスタムの手から伸びてモーニアの顔を切り裂いた。
「危ないなぁ、近接攻撃しかしてこないから油断してたよ」
紙一重で避けたかと思われたモーニアだったが、その攻撃は仮面に傷を負わせていた。すでにモーニアの瞳には余裕はなく、真剣な目をカスタムに向けていた。
「ここまで見せたんだ、お代は安くないよ」
モーニアの真剣姿な引き出せてカスタムは少し嬉しげに伝える。
「もちろん、こっちも全力で行くよ!」
モーニアはチカラを込めると、解き放たれた闘志が衝撃となって周りに伝わる。
「や、やばっ!!ちょっとお姉さま!?」
その姿を見てコトは声を荒げる、モーニアの解き放った衝撃で自身の身に着ける仮面を粉砕する。
しかし、コトの声も届かずモーニアは素顔を晒す。
「あれって、モニカさんですよね?」
「えぇ、間違いありません」
フォルテは見覚えのある顔に頭を抱える。隣のアコールも額に青筋を浮かべながら答える。
当の本人はそんな事には気づかずにカスタムとの戦いを心底楽しんでいる。
「やっと素顔を晒したね。これで心置きなくその顔面に叩き込めるわ!」
観衆の中にはモニカの存在に気づくものが何人かいたが、カスタムはもちろんモニカの存在など知る由もなく、圧倒的な力を前にして冷や汗を流す。
それでも強敵に巡り合えた喜びを感じ軽やかに体を動かす。
変則的に動くカスタムの爪が紐のようにしなり、モニカを拘束をしてその自由を奪う。拘束を解こうと足掻くモニカにカスタムの渾身の突きが繰り出され、その拳が腹に深々と突き刺さった。
「ぐぅっ、いい一撃ね。あんな暗殺みたいな戦い方でなく、正々堂々鍛えていれば結果は違っていたかもしれないのにね」
モニカはカスタムの実力を認め、そして彼女に引導を渡すため拳を振るった。カスタムの攻撃は確かにモニカに届いたが、その強靭な防衛を破るには至らずモニカの眼前で決定的な隙を晒してしまった。
「私の完敗」
「久しぶりに全力で戦えて楽しかったよ」
立つことも出来ず、空を見上げて告げるカスタム。モニカの拳を受けた腕と、衝撃が突き抜けた足は使い物にならなくなっている。
「さぁ、審判さん。改めて勝者を称えてあげて」
カスタムはコトに向けてモニカの勝利を宣言するように促す。
「えぇ、そうですね。伝えねばなりませんな、愚者の名を」
しかし、代わりに答えたのはコトではなく内に怒りを込めたアコール・ディオンの声だった。
「先程の試合、一方の選手に違反行為があったため勝者はカスタム・ネトー選手とします!!」
アコールが急遽押し入ってカスタムの勝利を告げる。勝者となったカスタムはすでに意識を手放していて。静かに担架で運ばれて行くのだった。
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