スパイ勇者 カスタム・ネトー トーナメント戦②
城内は荒れんばかりの歓声が起こっていた。前の二試合とも圧倒的な試合内容であったため、その実力の高さが十分に伺えた試合であり。客の満足度も高く、皆がこれから続く試合にも期待を込めていた。
「続いて、一回戦第三試合!選手の登場です!」
コトのアナウンスによって二名の選手が対面する扉から現れる。
「見た目通り、まさに見た目通りの筋肉!もちろんそれは飾りじゃない、戦闘部族オークのバーバラ!」
筋骨隆々というに相応しい、足も腕も首も鋼のような筋肉を纏ったオークが現れる。長い髪を束ね、これまでの武勇を表すような無数の傷跡。そして伝統なのか、体だけでなく顔にまで入れ墨を施し、それだけで相手を萎縮させる。
「対するは、不利と言われる日光の下においてもこの平然とした佇まい。これは自信の現れなのか?数百の民を纏める伯爵が今ここに、ヴァンパイアのザックス!」
青白い顔ながら整った顔立ちで、登場と共に女性の歓声があがる。そんな声援に答えながらタキシードに身を包んだ男が現れる。その表情は、まるで食事をお預けされているかのように研がれた牙が口元から覗く。
双方舞台に上がり静かに見つめ合う。すでに相手の力量を推し量るかのように、お互いは熱い目線を交わしていた。
「いい肉体だ、それに生娘か。どうでしょう?私の妾になりませんか?」
ザックスはバーバラを見つめながら告げる。
「おい!今生娘って!?あのオーク女なのか?」「そんなわけあるか!?よく見ろどう見ても屈強な男じゃないか!」「やっぱりヴァンパイアやべぇよ!男でもお構いなしだ!」
ザックスの言葉で会場中に波紋が広がる。
そんな周りの賑わいをよそにザックスは話を続ける。
「ふふふ、周りの目は誤魔化せても私の鼻は誤魔化せませんよ?貴方から漂う純潔の匂い、いやぁとても食欲をそそりますねぇ」
ザックスは鋭い牙を見せながら笑いかける。その仕草に、観客の女性から歓声が上がる。すでに周りの女性を味方につけたようだ。
「はぁ?別に隠してたわけじゃないんだけどね。その方が自然だって言うから仕方なくそうしたまでさ。それと残念ながらあんたは好みじゃないのさ、もう既に私にはもったいないくらい、いい男がいるからね」
バーバラは澄ました感じて語りかけ、力を込めて気力を解放する。バーバラを中心として見えない風圧がザックスの魔力を押し流していく。
「あれ、私なんだかフワフワしてた気がする」「夢でも見てたのかしら?」
バーバラの気に当たられ、観客の女性が夢から覚めたかのように目覚める。
「まったく、女々しい技を使うねぇ。そんな事しないと女性に声もかけられないヘタレじゃ誰もあんたにゃなびかないよ!」
ザックスは入場と同時に会場内に魅了の魔法をかけていた。その効果をバーバラは気力で打ち消したのだ。
「あぁ、対戦相手が女性と知ったから、できれば穏便に済ましたかったんですが、仕方ないですねぇ」
ザックスとバーバラ、改めて構えを取った両雄が今激突する。ザックスは身軽さを生かし、一息で突進してきたバーバラを飛び越す。背後を取ったザックスはバーバラの背中を鋭利な爪で引っ掻く。
「はん!軟弱な攻撃だねぇ。そんなんじゃあ、私の筋肉は断ち切れないよ」
背中に傷を負いながらも気にすることなくバーバラはザックスを捕まえようと手を伸ばす。ザックスは逃げるそぶりも見せず自分からバーバラに掴まれにいく。
「なんのつもりだ?」
行動の意図が読めずに戸惑うバーバラ。
「なぁに、接近した方が私にも都合がいいんですよ」
口を開けて笑うザックスの牙がバーバラに襲い掛かる。亀のように首を伸ばしたザックスはバーバラの首に噛み付いた。
すぐに振り払ったバーバラであったが、すでに大量の血がその傷口から流れ落ちている。
「あぁ、もったいないですね。じっとしていて下されば、丁寧に吸い取ってあげますのに」
「それは勘弁願いたいね。嫉妬深いんでね、キスマークですらつけたくないのさ」
強かっていても辛そうなバーバラ、どうやら決着の時が近いことは皆が感じている。
呼吸を整えるほどの僅かな時が流れる、バーバラは息を吐き出し少し身軽になった体をそのまま前へと押し出す。長年の鍛錬で染み付いた自然な動きは、無駄もなく全ての力を右拳へと乗せられる。
「誠に残念です」
初めから避けるそぶりを見せないザックス。彼の目線の先、自らの右足が踏み抜く地面へと目をやるバーバラ。
「汚いねぇ」
短く舌打ちをするバーバラ。リングに足を取られ躓くバーバラ。それを見てザックスは楽しそうに笑う。
「はははは、正々堂々なんて今どき流行らないんですよ!」
床の割れ目の中にはザックスの眷属である蝙蝠が隠れていた。それがバーバラの足を捕まえ、彼女の進行を阻止したのだ。
ザックスは、その隙を逃さずバーバラに引導を渡す。強化されたザックスの爪により全身を切り裂かれたバーバラは血を噴き出して倒れ、地面に血溜まりを作り出す。
「シンバさん!彼女は!?」
流した血によってバーバラの入れ墨は流れ落ち、それにより素顔が晒される。
フォルテはその顔を見てシンバに問いかけた。
「えぇ、バラライカさんですね」
「なんで彼女がここに!?」
「誰かさんと同類で、根っからの戦闘狂ですから純粋に戦いを楽しみたかったのでは?」
フォルテの疑問にシンバが答える。彼女の性格を考えるとその解釈でフォルテは納得した。
「しかし、あのヴァンパイア姑息なことをしますね」
忠義礼節を重んじるアコールは、静かに怒りを込めた声を上げる。そんな彼以上に怒りを感じる存在が突如としてリングに舞い降りる。
「きゃぁぁぁぁ!!」「す、スケルトンだぁ!!」「しかもあれは、ジャイアントスケルトンじゃねぇか!?」
突然現れた巨大なスケルトンに観客は騒ぎ出す。
「な、なんなんですか!?こんな相手聞いてないですよ?エキシビションマッチですか?」
解説を求めて声を荒げるザックス。
そんなザックスの目の前には、カタカタと骨を鳴らす大きなスケルトン、怒りの眼差しでザックスを見下ろしている。
「ははは、高貴なるヴァンパイアに、スケルトンごときが楯突くなぁあああぁぁ」
ザックスの言葉も聞かずスケルトンは巨大な腕で薙ぎ払う。セルフを途中で遮られ、ザックスの腹部にはスケルトンの太い橈骨がめり込む。
その後も足で踏みつけたりと猛攻は続いたが、命あるところでコトに止められる。
「あれって、やっぱりボンゴさんですよね?」
あまりの恐怖にフォルテは恐る恐る周りに訪ねる。
「彼はあれでも四天王最強の男ですから、スケルトンになったところでその剛腕は健在ですね」
アコールは自慢げに話した。
その後、ザックスの違反行為も明るみに出て第三試合は勝者なしの無効試合となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます