スパイ勇者 カスタム・ネトー 第二試験
受験生の前に仁王立ちで現れたコト。その様子をフォルテとアコールは遠くから見ていた。
「コトさんはどんな試験を行うんでしょうか?」
「やはり彼女の事ですから、自分の得意分野、諜報能力や潜入能力なんかを見るのかもしれませんね」
フォルテの質問にアコールは自らの予想を話す。そして、答え合わせはすぐに行われる。
「第二試験は試合をしてもらうわ!その前にまだ人数が多いからいくつかのグループに分かれてまずは予選からね」
コトの試験は純粋な力の勝負であった。
「これはまた、彼女らしくないというか、似合わない事を言い出しましたね」
アコールは、コトの述べた試験内容に疑問を浮かべていた。
一方会場では、血走った多くの魔族がやる気を見せ狂喜乱舞していた。
「よっしゃぁ、また机に向かって、はいさよならじゃ俺様の実力は半分も見せられねぇからな」
「これだよ!これを待ってたんだ、力なら誰にも負けねぇ」
元々腕に覚えのある者の集まりであるため、みんなやる気を見せて盛り上がっていた。
「はーい、では順番にくじを引いて下さい」
そんな騒ぎを見せる中、コトは皆の前に立ってくじ引きを先導する。
カスタムも言われたとおりに箱からくじを引いた。
「Aグループか」
カスタムの手にはAの文字が書かれた紙が握られていた。
「皆さんクジは引きましたねー?それでグループごとに集まってください」
コトからの支持を受け、それぞれが手に持つ紙に書かれた集合場所へと移動する。
カスタムも自らの引いたくじに従ってAグループが集まる場へと向かう。そこには屈強な男たちがひしめき合い、カスタムの華奢な体躯はある意味注目を集めていた。
「なんだ?このチビは?ママのおつかいか?」
「悪いことは言わねぇ、帰るなら今のうちだぞ?」
熊のような全身に毛皮を纏った獣人がカスタムを上から見下ろして声をかけてくる。その言葉を聞いて他の参加者たちも一斉に笑い始める。
カスタムも言い返したかったが、ここで騒ぎになって目立つのも都合が悪いと思い、グッと堪えた。
「ここは口喧嘩を競う場なの?それともそんなに実力に自信がないのかな?」
何も言えずにカスタムが黙っていると、横からフードを被った人物が熊の獣人に話しかける。顔は見えないが、透き通るような声から女性であることがわかる。
「なんだテメェは?そんなに言うなら力で分からせてやってもいいんだぜ?どうやら余程痛い目を見たいらしいからな」
熊の獣人は全身の毛を逆立てながら威嚇する。そうこうしている間に組み分けは終わり、それぞれのグループは戦いの場へと移動していく。
魔王城に設けられたトレーニングルーム、広大な室内闘技場には大きな白い円が描かれており、それぞれのグループがその中に入るように促された。
「ルールは簡単、負けを認めるか円の外に出たら失格、ちなみに武器の使用は禁止よ。そうね、各グループ二人に絞られるまで戦ってもらおうかしら」
コトがみんなに向けて説明する。
「もし相手を殺した場合は、どうなるんだ?」
先程カスタムに絡んだ熊の獣人が、コトに訪ねる。
「死んだらもちろん失格、でも殺した方は罪には問わない。そのように誓約書にも書いてあるし、みんな承諾して署名したはずでしょ?」
コトは淡々と告げる。確かに受付で書いた誓約書にはそのように書かれており、口頭でも念を押されていた。
熊の獣人もそれを聞いてニタニタと笑い、先程喧嘩を売ったフードの女性に向き直る。
「だ、そうだ。どうする?謝るなら今のうちだぞ?」
「そうだな、謝っておこうかな。どうせすぐ話せなくなるんだし、勝利をありがとうね」
言葉を告げると同時に開始の合図が鳴り。熊の獣人が勢いよく円の外へと吹き飛ばされた。周りの参加者も何が起きたのか理解が追いつかない様子であったが、唯一カスタムだけが戦いの様子を認識していた。
「なんて早い拳なの、」
カスタムはフードの女性を見つめて言う。開始と同時に熊の獣人に拳を突き出し、そのまま場外まで押し出した。その速さと威力にカスタムは恐怖を覚える。
「て、テメェ何しやがった!?」
我に返った他の参加者が、要注意人物と認識し一斉にフードの女性に襲い掛かる。カスタムは圧倒的な気迫を感じ取って一人距離をおいた。
結果としてその判断が功を奏し、カスタムはフードをした女性の猛攻から逃れることができた。
「なぁんだつまんない。あなたもやる?いい勝負ができそうだけど」
一人円の中心で立ち尽くす女性はカスタムに向かって無邪気に笑いかける。すでにフードはとれたがその顔は半分以上が仮面で覆われている。カスタムはその仮面の女性に賛美と恐怖を送り黙って立ち尽くす。
「どうやら今はここまでのようね。それじゃ、続きは本戦でね」
こうしてAグループの選別は終了し、程なくして他のチームも次々に決着がついていく。
決勝トーナメントに残った人数は8人。コトが残った各選手の名をを読み上げていく。
「Aグループから、サキュバスのモーニア、ドッペルゲンガーのカスタム・ネトー。Bチームチームから、エンシェントオーガのゴーダ、ヴァンパイアのザックス。Cチームからは、マスターリッチのゴング、ゴーレムライダーのトラット。Dチームからは、ハイオークのバーバラ、ダークエルフのチャイム。以上8人が決勝トーナメント進出よ!」
名前を読み上げられカスタムは、フードの女性サキュバスのモーニアを見つめる。
サキュバスと言えば幻惑を用いて相手を魅了する力の弱い種族だが、目の前のモーニアは自らの力のみで他を制圧してみせた。そこ知れない彼女の実力にカスタムは恐怖心を抱く。
「それではトーナメント表の発表まで、しばらくお待ちくださいませー」
コトが合格者を告げ、そのまま自分は去っていった。
戦いの様子を見てフォルテはアコールに話しかける。
「8人とも実力的には問題ないですね。いやぁ、みんなお強い!すぐにでも雇いたいくらいですねアコールさん。特にAグル-プのサキュバスは圧倒的でした」
「うーん、確かにここまでの試験で、力にも知略にも優れているのはわかっていますからね。しかし、何かが引っかかります。なんとなく、あの動きに身に覚えがあるような」
フォルテの言葉にアコールは首を傾げて答える。
その後、決勝トーナメントは1試合毎に専用の闘技場で行われるということで、選手は控え室に、観客は闘技場周りの観客席へと案内された。
「こんな所ありましたっけ?それになぜ観客が?」
フォルテは、見慣れない場所とヒートアップしている観客に戸惑う。
「ここは以前までは捉えた人間と魔獣を戦わせたりして、それなりに賑わっていた場所なんですよ。今では関係各所から色々と問題有と判断され閉鎖してますが」
フォルテの隣にシンバが腰掛けながら言う。
どうやら自分の仕事は終わったので、見物に来たらしい。
「コトちゃんから試験内の話を聞いたときに、これはいい興行になると思いまして折角なので軍の財政を潤してみました」
不足する人材だけでなく、不足する資金面も考慮したシンバの発行に頭が下がるフォルテ。
「なかなかの賑わいですね、ここが使われるのも久しぶりです。私も血がたぎりますな」
シンバとは逆方向に腰掛け、不気味な笑みを浮かべるアコール。見た目とは違って意外と戦いが好きなのか、意外な一面を覗かせる。
すでに失格となった参加者も客席へと詰めかけ、闘技場内の空気はヒートアップしていった。
そうしてついに、人々が注目する中、闘技場の中心にコトが現れる。
先程までの装いとは違い、正装したレフェリーのような格好での搭乗であった。
「さぁ、紳士淑女もスライムからドラゴンまでお待たせしました!!これより、魔王軍四天王杯!決勝トーナメントを開始致しまーーーす!」
熱くマイクを握りしめるコトが華麗にアナウンスすると、会場に詰め掛けた観衆は一斉に声援で答えた。
「さっそく参りましょう!一回戦第一試合の選手入場です!!」
カスタムは開く扉を見つめながら、先程出会った悪魔がこの先にいない事を願った。
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