自由な勇者 ファゴット/ルート/バズ/クラリス その3
戦局は移り変わり3対1となった広間、一人の勇者を蹴散らしたモニカは余裕の笑みを浮かべていた。
床に転がって動かないルートを見つめて、一人残ったバズは背中に冷や汗を感じていた。
「へっ、まさかルートがやられるとは。ちょっと油断しちまったかな」
「へぇ、それじゃあ真正面から相手すれば少しは楽しめるのから?」
バズはゆっくりと後退しながら話しかける。
逃すつもりのないモニカは、バスの言葉に答えながら相手が下がった分だけ歩を進め、距離を開けさせようとしない。
「モニカさん、勇者は他にもいます!他の勇者は、フォルテ様のもとに向かっています!」
シンバはモニカに声をかけて、時間がないことを教える。
「それならこんなところで、もたもたしてられないね」
モニカは残った勇者バズに向けて駆け出す。
絶体絶命のバズであったが、その表情は笑っていた。
「魔王に使うつもりだったが、仕方がないよな?」
バズはそう言って、懐から赤い宝石を取り出す。それを天高く掲げると、宝石は眩い光を発した。
「なんなのよ、この光は!?」
コトはあまりの眩しさに目を覆いながら叫ぶ。
「こいつはまさに、とんだ隠し球だわ」
モニカは光りの先を見据えて呟く。
コトとシンバも収まりつつある光の先に目を凝らすと、そこには燃え盛るトカゲがいた。
「あれはまさか、サラマンダー!?」
シンバはトカゲを見て叫ぶ。それを聞いてコトも思い出した様に反応する。
「それって上位精霊の名前じゃない!?なんでそんなのがここに?」
「わからないよ、でも相手は実態のない精霊だ。武器も魔法も持たないモニカさんじゃ太刀打ちできないよ」
コトの質問にシンバは心配そうに答える。
「お、お姉さま?」
「そんな顔しないの、大丈夫よ、あんな相手あっという間に倒しちゃうんだから」
コトの不安を感じ取ってから、モニカは笑いながら答える。
「はははは、そんなに強がってて大丈夫なのか?サラマンダーは自然界のエネルギーを動力としている、つまり朽ちる事がないんだぞ?倒せない相手に勝機なぞあるものか!」
バズは額の汗を拭いながら勝ち誇ったかの様に言う。バスの辛そうな様子を見て、シンバがあることに気づく。
「モニカさん!!時間を稼いで下さい、恐らくあの勇者の魔力が尽きればサラマンダーは消えます。それまでの辛抱です!」
バズは確信をつかれたのか、渋い顔をしている。モニカはその表情を見逃さず、二人に支持を出す。
「辛いだろうけどコトちゃん、シンバくん。トカゲは私が抑えるからあの男をよろしく」
「わかりました」「任せてください、お姉さま!」
三人は気合を入れて戦いに臨んだ。
◆◆◆
場所は閑散とした大広間、フォルテは台座に座り落ち着かない様子でソワソワしていた。
「フォルテ様、落ち着いて下さい。魔王ともあろう者がそんな態度でどうしますか?」
フォルテの隣にはいつもと変わらぬ姿でアコール・ディオンが佇んでいる。
「どうやら勇者四人のうち、二人が先行してこちらに向かっているようです。まもなくこちらにやってくるかと」
「コトさんたちが二人抑えてくれてるんですね、大丈夫でしょうか?」
フォルテは心配になってアコールに訪ねる。
「最終手段ですが、寝起きの暴れ馬を放ちました。とりあえずあちらは何とかなるかと。しかし、すでに部下の心配とは、もはや分断された勇者の戦力ではフォルテ様には物足りませんか?」
「えっ!?」
フォルテは自らの置かれた状況を察して青ざめる。そんなフォルテの表情も視界に入らず、アコールは上機嫌に笑っている。
「もしかして、こっちに救援は来ないんですか?」
フォルテの言葉にアコールは冷たく微笑みながら答える。
「えぇ、誰も来ません。これで味方を巻き込む心配も御座いませんので、思う存分力を奮って頂いて結構です」
アコールからの死の宣告であった。おそらく戦いが始まってもアコールは手出しはしないだろう。フォルテは逃げられないこの状況を悔やんだ。
「さて、来たみたいで?」
アコールは現れた勇者を見て言葉を失う。
そこに現れたのは黄色ダチョウに乗った一組の男女。勇者ファゴットとクラリスであった。
「良く来たな勇者よぉぉぉぉ!!」
フォルテが、名乗りをあげようとする間もなく矢を放ってくるクラリス。慌てて避けるフォルテに向かってダチョウに乗ったファゴットが間を詰めてくる。
「ちょっと待て!?落ち着いてぇぇぇ!」
慌てて避けるフォルテ。そんなフォルテの命の危機においても、アコールは黙ってお互いの戦いを凝視している。
その後もフォルテの言葉はことごとく無視され、勇者二人の猛攻は続きフォルテは必死に逃げ続ける。
「はぁはぁ、ちょっと行動早すぎ、少しは休ませて」
真剣勝負中とは思えぬフォルテの言葉も勇者の胸には響かない。相手の都合など気にしないファゴットの剣がフォルテを捉えた瞬間、傍観していたアコールの声がかかる。
「そこまでです!!」
言葉と共に動いたアコールの手が、ファゴットの腕を掴んで止める。
「あ、アコールさぁん。ぼくはぁ、あなだの事を信じでまじたよぉぉ」
なんだかんだ言って自分を心配してくれるアコールにフォルテは嬉し涙を流している。
「すいませんフォルテ様。流石に見ていられなかったもので」
「お前、今まで静観していたから戦闘には参加してこないのかと思ってたが。まんまと騙された」
ファゴットはアコールを睨んで告げる。
「これ以上の傍若無人ぶりを見ていられなかったもので、さぁ、今すぐその動物から降りなさぁいぃ!!!」
アコールの威圧的な言葉にダチョウは驚いて逃げ出す。背中に乗っていたファゴットとクラリスはその背から投げ出される。
「な、何なの!?」
クラリスが痛む腰をさすりながら起き上がる。
「いいから正座なぁい!!」
逆らう事を許さぬアコールの言葉にファゴットとクラリスだけでなく、フォルテまで正座する。
「まったく勇者ともあろう者が、礼儀のひとつもなってないとは嘆かわしい。それこそ昔の勇者のほうが正々堂々、騎士道精神に溢れていましたよ。それなのに貴方達ときたら、騎乗したまま室内に入るわ、口上の途中で襲い掛かるわ、こっちのターンも気にせず切り掛かるわで流石に私も我慢の限界です!!」
怒りに燃えたアコールは誰も止めることが出来ない。
「フォルテ様!?」
「は、はいぃ!!」
「こちらの勇者少しお借りします。必ずや騎士道精神溢れる立派な勇者にしますゆえ、再戦はまた後日ということに」
アコールはそれだけ告げると、勇者二人の首を捕まえて部屋の外へと連れていった。アコールのターンはまだまだ終わらない。
「いやー、出来ればそのまま帰ってこないで」
フォルテは泣きながら見えないアコールの背中に告げた。
「あれ?フォルテ様、勇者は?」
そんな呆気に取られるフォルテの元に、ところどころ焦げついたモニカと傷だらけのコト、ガラクタを引きずったシンバが現れた。
「アコールさんが教育と称して連れて行きました」
「あー、それはそれは敵ながらご愁傷様ですね」
シンバの言葉に四人は、その場にいない勇者に揃って合掌した。
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