自由な勇者 ファゴット/ルート/バズ/クラリス その2
「もー!!!今日は早く帰れると思ったのにぃ。これじゃあ絶対、残業確定だわ」
魔王城一階の大広間、コトは急に連れて来られ終始文句を口にしていた。
「仕方ないよコトちゃん。ボンゴさんが居ないんだし、誰かが代わりをしなきゃいけないんだから」
コトの隣でシンバが声を上げる。そんな事を言いながら先ほどから震えているシンバを見ながら、コトはため息をつく。
「あーあぁ、勇者が来た時って終わってから報告書も出さないと行けないし、ほんと面倒なのよねぇ。あと、ちゃん付けしないでよね!!」
「いやでも、だって、まだ呼び捨ては緊張するというか。まずは、お互い付き合ってからというか、」
「あんた何言ってんの?」
ごにょごにょ照れるシンバにコトは冷たい目線を送り、その体を叩く。カァーーンといった乾いた音が部屋中に響き渡った。
「はぁ、それにしても何なのシンバくんのその恰好?」
コトは隣に佇む円柱の物体に目をやる。丸太のような手足が生えていて、頭からはシンバの耳が見えている。
「これは、この前攻めてきた勇者から奪ったものを改造した、
「あー、わかったわかった。もういいわ、それで勇者の位置は掴めてるの?」
必死に性能を語りだすシンバの熱量に嫌気がさして、コトは途中で遮る。
「えーっと、人数は四人だね。なんだか、すごいスピードでこっちに向かってるけど、馬にでも乗ってるのかな?もうすぐ来るよ!」
シンバは唯一出ている耳を動かして勇者の情報を探る。コトはその言葉に無言で頷いて身構える。
「来た!城門突破、中庭も駆け抜けて玄関ホールもスルー、3,2.1!」
シンバのカウントダウンと共に部屋の扉が勢いよく開かれる。扉からは黄色いダチョウに乗った男二人、女二人の勇者が一斉に室内に流れ込んでくる。
コトは四人の勇者を見て名乗りを上げる。
「私は、四天王が一人。無音のこぉぉわぁ危なっ!?」
口上の途中で切りかかってくる勇者の男。コトは名乗りを諦め、慌てて攻撃を避ける。
「ちょっと!何なのよ!?いきなり切りつけて来るなんて失礼じゃにゃぁぁ!!」
「コトちゃん、危ない!!」
またもやコト叫んでいる最中に振り下ろされる勇者の剣、今回は間にシンバが割り込んで強固なボディでガードする。
「コトちゃん、大丈夫!?」
「えぇ、助かったわシンバ。あいつら何なの?言葉の通じない蛮族なの!?」
四人の勇者は一旦立ち止まり、改めてコトとシンバに目をやる。
「あのゴーレム、硬いわね」
細身の剣を振り回していた金色の長い髪を纏めた女性は、剣の刃こぼれを気にしながら言う。
「猿の獣人の方もなかなか素早い」
頭の禿げあがった黒肌の男は、コトを評価して言う。
「バズ、任せても大丈夫か?」
今度は短い金髪を逆立てた男が聞く。バズと呼ばれた黒肌の男は黙って親指を立てる。
「私もサポートするわ、ファゴットとクラリスは先に行って」
「頼んだぞ、ルート」
ルートと呼ばれた金髪の女性は、細身の剣を構えてバズと並び立つ。
金髪の男性ファゴットと亜麻色の髪をした女性クラリスは、そのまま反対側の扉へとダチョウを駆る。
コトとシンバは、先ほどの件もあり不用意に動けずにいた。
「さて、待たせたわね。私たちもさっさと片付けて後を追いましょ」
「あぁ同感だ。こんなところでのんびりしてたらあいつらに後でなんて言われるか」
ルートはバズに話しかけ、お互いが剣を構える。
「あぁもう!人の名乗りは邪魔するわ、人のこと見下すわで不快な奴らね!シンバ!足引っ張たら承知しないからね!!」
「わ、わかってるよコトちゃん」
コトは短刀を構え、シンバは
一瞬の静寂の後、先に動いたのは勇者二人であった。ルートは華麗にダチョウを操り、一瞬のうちにコトたちの死角へと移動する。
「きゃぁ!!」
素早い動きについていけず、勇者を見失ったコトが右足に攻撃を受けて倒れる。
「ちくしょう!このっ!」
シンバが駆けつけて武器を振るうが、そこにはすでに勇者の姿はなかった。
「あのゴーレム、硬さは凄いけど運動性がいまいちね。搭乗者がその性能を生かしきれてないわ」
ルートは冷静に分析して答える。
「あの素早い猿も脚さえ潰せば、もう逃げられないだろ」
バズはすでに勝利を確信したのか、余裕ように笑って答える。
コトは、傷ついた足を庇いながらもなんとか立ち上がる。
「不味いわね、シンバあんただけでも逃げなさい」
「そ、そんな、コトちゃんを置いていけないよ」
「もともと戦闘職じゃないあんたがいても邪魔なのよ!さっさと行きなさいよ!」
圧倒的不利を悟ったコトはシンバに退却を命じる。
「なんとか一人くらいは道連れにしてみせるから、早く行きなさい!」
「いやだ!!、命にかえ、わぁぁぁぁ」
漢を見せようと意気込んだシンバであったが、そんな空気も読めずにバズの攻撃は行われる。
「そんな簡単に、逃すわけないでしょ!」
一方ルートは、ダチョウから降りてコトに近づきその髪を掴んで持ち上げる。
「い、いたい」
「ほら、ゴーレムくん。お猿さんを離して欲しければ、その機体を捨てて出てきな!」
コトを人質に取ったルートはシンバに語りかける。
「馬鹿!!気にせず逃げなさい!」
コトは苦しみながらも叫ぶ。その煩さに苛ついたのかルートが拳を振り上げる。
バシッ!!
拳はコトではなく、ゴーレムを乗り捨てコトを庇ったシンバにあたった。
「シンバ、あんた」
「たとえ、殺されても彼女は僕がぁぁぁ、いたいぃ」
シンバのセリフを遮るように、執拗に振り下ろされるルートの拳。
コトの手前格好をつけることも出来ずにシンバが頭を抱えて叫ぶ。
そんなルートの拳が不意に止まり、シンバは不思議そうに目を開けた。
「ごめん、ごめん、寝過ごして遅れちゃった」
ルートの掲げた拳を掴み、コトとシンバの前に悪魔が舞い降りる。
「折角熟睡してたのに。とりあえず、私の安眠を邪魔した罰は受けてもらうからね!」
「お姉さま!」「まったく、遅刻ですよモニカさん」
コトとシンバは喜んで彼女を迎え入れる。
「なんなのよ!?急に出てきて格好付けてるんじゃないわ、」
ルートは痛む手を振り払いながら叫ぶが、途中でモニカの拳を腹に受け気を失う。
「煩いから黙っててね」
悪魔の笑みを浮かべたモニカに容赦はなかった。
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