血統勇者 グロッケン・シュ・ピール その3
コンコン
「はいどうぞーー、開いてますよー」
部屋に響き渡る扉を叩く音に合わせて、フォルテは笑顔のまま軽快に返事を返す。
「あっ!アコールさぁん、早かったじゃないですかぁ。やっぱり、アコールさんの手にかかれば勇者なんて敵じゃないですよね」
ご機嫌なフォルテは、勇者を倒してきたであろうアコールを笑顔で迎える。
しかし、部屋に入ってきた人影は二人、不審に思ってフォルテは聞き直す。
「えっ?アコールさん?こんなタイミングでお客様ですか?」
フォルテは悪い予感を感じながらアコールに問いかける。
「はい、魔王様。この度は魔王様に直接引導を渡して頂きたく。こうして勇者をお連れしました」
「貴様が魔王か?私はグロッケン・シュ・ピール。呪われた血を持つ勇者だ」
「えっ?あっ、はい、私が魔王、フォルテ13世です。血液型はXO型です」
フォルテは訳の分からない状況に混乱し、訳の分からないことを口走る。
「ふ、それでは、魔王よ覚悟して頂こう」
グロッケンは数歩重い足取りで前にでると不意に後ろを振り向きアコールに話しかける。
「お前は本当に手出ししないのか?」
「えぇ、お二人の邪魔はいたしません」
「魔王が殺されても文句は言うなよ」
グロッケンは笑いながら前を向きフォルテへと向き直る。
フォルテはよくわからない状況に未だに話についていけない。
(ちょ、ちょっと!?なんなのこの展開!?なんでアコールさん勇者連れてきちゃってんの?何かの作戦?そうだよね!作戦だよね!!油断させて後ろから勇者をブスッとやるんだよね!!?)
フォルテは心の中で葛藤する。そんなフォルテの願いも空しくグロッケンはどんどんとフォルテとの距離を縮めていく。
「どうした魔王?いくら私が死に体だからって油断していると寝首をかかれるぞ?」
(確かにこの勇者の表情ちょっとおかしい、というか顔色悪すぎる。もしかして、アコールさんは瀕死まで勇者を追い詰めて止めは譲ってくれた!?)
フォルテは浅黒い肌を見て、相手が瀕死であると誤認する。
「ふ、ふははは、そのような体で我の前に立つとは命知らずな勇者もいたものだ!!」
アコールが配慮してくれていると勘違いしたフォルテは、いつも以上に強気の姿勢で臨む。
「部下が部下なら、上司も上司だな。いちいち人の気に障ることを言う。いつまでそうやって余裕ぶっているつもりだぁ!!」
グロッケンは叫び声と共に、かけていたサングラスを外し魔眼を発動する。フォルテはもちろん魔眼の存在を知る由もなく、グロッケンの術中にはまる。
「な!!もしやその眼は!?」
フォルテは露になったグロッケンの赤い瞳を見て驚く。
「ふ、やはり魔王、貴様も気づいたか」
(すっごい充血してるぅ、そんな状態でここまで来たの!?この人、魔王城より先に病院行ったほうがいいんじゃない?)
フォルテはもちろんグロッケンの魔眼の存在など知る由もなく、はなから役に立たない魔法など封じられても気づきもしなかった。
「どうした、動きが鈍いぞ?」
(そりゃ、こんな病人相手に本気で殴り掛かれないよ。なるほど、アコールさんも病人倒すの後味悪いから人に押し付けたのか、損な役回りだなぁ)
攻撃を尻込みするフォルテにグロッケンは優越感を感じる。
「やるしかないのか、(こんな病人を)攻撃なんて出来ない」
「ふ、(能力を封じられ)それでも私に向かってくる闘志は認めてやろう」
「待て、勇者よ!戦いなんかより、お前には他に行くべきところがあるんじゃないのか?(病院とか)」
「魔王よ、私にはすでに行くところなんてない!」
魔王と勇者はお互いの会話がかみ合わない。
「そんなことない、必ずお前にあった場所(病院)は見つかる!」
「わかったようなことを!私はこの力を得るために数多くの血を取り込んだ、私を作り出すために親父は多くの犠牲を払った。私はその期待に応えなくてはならない!!」
一子相伝の能力を継承したグロッケンは多くの種族と交配し生まれた実験体であった。
しかし、もちろんフォルテはその事情を知らない。
(どうゆうこと、作られたって、捨て子ってこと?保険証がないから病院に行けないってこと?)
混乱が混乱を呼びフォルテの脳はオーバーヒートする。
「そうだ、私は呪われているんだ!!」
(そうか、体調悪いの呪いのせいだと思ってるのか)
「アコーーーール!!今すぐバロムをここへ呼べぇい!!!」
「はっ!!ただいま!!」
フォルテの唐突な掛け声とともに、アコールは急ぎ部屋を後にする。グロッケンが呆気に取られていると、すぐさまアコールが誰かを連れて戻ってきた。
「魔王様、お連れしました」
アコールの脇には牧師姿の男性が立っている。
「いったいどうされたんですか魔王様?いきなりわたくしなど呼びつけられて?あぁ、ついに身を固める決心をされたんですね!それはおめでたい、さっそく式の日取りをご相談しませんと」
フォルテが呼んだ男、バロムはフォルテにお祝いの言葉を述べる。
どうやら初耳のアコールは鋭い眼差しをフォルテに向ける。
「ち、違うんですバロムさん!その話は、今は忘れて下さい」
年季の入った白髪を揺らし、残念そうに目を伏せるバロム、彼はその見た目通りの司祭であり、フォルテも数々の悩みを相談する存在であった。
「今回呼んだのは、彼の呪いを解いてほしいんです」
フォルテが指し示す方向には勇者グロッケンがおり、バロムも彼に注目する。
「これはこれは、そうとう深い闇を抱えていそうですな」
「お、お前なんかに俺の呪いは解けない!!」
「ふふふ、それは話してみないとわかりませんよ?さぁ、その呪いというのを言ってみなさい」
かたくなに拒むグロッケンに優しく語りかけるバロム。根負けしたグロッケンは少しずづ話し始めた。
「様々な血統を手に入れるため、俺の親父はいろんな女に手を出しまくった。それを周りの奴らは不貞だ不貞だと騒ぎ立てる、親父は俺を最強の勇者にするためあえてその汚名を被っているそう思っていたんだ」
「実際は違ったんですか?」
グロッケンの苦悩にバロムは優しく問いかける。
「あぁ、親父は、ただの女好きなだけだったんだ」
「・・・」
グロッケンの悲痛な叫びに一同は言葉を失う。
「せめて最後まで本心くらい隠しておけよな!最後だからって死に際でそんな爆弾渡されて、抱えて生きるこっちの身にもなれよぉ」
グロッケンの涙の訴えはその後も延々と続いたが、最後はバロムに抱えられ彼の務める教会へと連れていかれた。
「さすがです魔王様。あれほどの力を持った勇者ですら、簡単に手玉に取られる。このアコール・ディオン感服いたしました」
アコールは最後まで勘違いをしたまま部屋を去っていく。
その後グロッケンはバロムが施す呪いの解除により、手に入れた血統の力を失った。本人はそのことを喜び、満足そうに去っていくのだった。
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