血統勇者 グロッケン・シュ・ピール その2
魔王城中央に位置する巨大なホール、そこに異様な空気を纏った男が現れた。上半身は何も纏わず、浅黒い肌を露出している。
目にはサングラスをかけその目線がどこを向いているのか知るすべはない。腰にボロ布だけ纏い武器らしいものは携帯していなかった。
「そこにいるのはわかっている。闇討ちのつもりなら意味がないぞ?」
男は正面を向いたままで静かに告げる、その言葉は広いホールに反響し部屋の隅々にまで届いた。
「ようこそお越しくださいました、まぁ招いてはいませんがね」
部屋の奥、魔王のいる広間へと繋がる扉が歪み、そこに先ほどまで見えなかった人影が現れる。
長身細身、不気味な雰囲気を漂わせる男は侵入者をその目で捉えて告げる。
「一人か、愚かな。我は呪われた血を継ぐもの、勇者グロッケン・シュ・ピール。素直に道を譲れば命だけは助けてやる」
勇者グロッケンは目の前の男に告げる。
「その心意気は良し。では、我が主の前に立つに相応しい男かどうか、このアコール・ディオンが見極めてしんぜます」
グロッケンに前に立ちはだかるアコール、彼は自身の周りに杖を浮かべ臨戦態勢へと移行する。
アコールが目を閉じ集中すると、彼の周りに魔法陣が現れ淡く発光する。
「ふん、魔導士か。悪いが私に魔法は効かないぞ?」
グロッケンはそう言うと、かけていたサングラスを外す。その下には血のように赤く染まった瞳があり、真っすぐにアコールを見つめていた。
「その瞳はまさか!?」
アコールが驚くと同時に、彼の周りに展開していた魔法陣が砕け、泡のように消える。宙に浮いていた杖も乾いた音を立てて地面へ転がった。
自らの魔法が破壊されたことを知ったアコールが、グロッケンに尋ねる。
「断魔の瞳、トロンバ族に伝わる魔眼の一種ですね?」
「ほぉ、よく知ってるな。では、一族にしか使えぬ一子秘伝の技、とくと味わえ」
アコールは何とか魔法を構築しようとしたが、すぐに諦めて落ちている杖を拾った。
「潔く諦めたか。それが賢明だ」
アコールの態度をみてグロッケンがほほ笑む。
「えぇ、噂に聞いていた以上に強力な魔眼です。しかしその力を手に入れるため、トロンバ族は他の力を全て失ったと聞きました。戦う力もないあなたが、一人でどうやってここを突破するつもりですか?」
「確かに強大な力にはそれだけのリスクが伴う、トロンバ族の魔眼は魔法にとっては絶対の対抗策となるが、その反面、魔法以外には極端に弱い」
「わざわざ自分で弱点をおっしゃるということは、」
アコールはグロッケンの言わんとすることを察して話を催促する。
「そうだ、それを補う力がこれだ!!」
グロッケンはアコールの言葉に答えるように体を大きく変化させる、浅黒い肌の下からは怪しく光る入れ墨のような模様が浮き出てそれと共にグロッケンの体を一回りも二回りも大きくさせる。
先ほどまでグロッケンを見下ろしていたアコールも、今では彼を見上げる程になっていた。
「その模様と、特殊な体の変化、以前見たことあります。確か」
「ほぉ、これも知っていたか、これはマリーナ家に伝わる禁呪の入れ墨。代々一族の末裔が刻む呪われた烙印だ」
「なるほど、魔眼で相手の魔法を封じ、攻撃はマリーナ家に伝わる烙印で身体能力を強化して戦うといった戦法ですか」
アコールは数倍にも膨れ上がったグロッケンの筋肉をみて感嘆する。
「ふふふ、そうだ、こうなったからには誰も俺には勝てない!!」
勝利を確信しながらもグロッケンの瞳には血の涙が浮かび、口からは黒い血が滲んでいる。
「強力な力を授かった分の代償はかなりきつそうですが?」
アコールの言葉にグロッケンは強がって笑って見せる。
「わかりました。あなたの決意に敬意を示して、このアコール・ディオンが魔王様の元まで案内しましょう」
「なにを言っている!?」
グロッケンはアコールの言っている言葉の意味が分からずに聞き返す。
「見たところ、あなたには時間がなさそうだ。なので案内すると言っているんです」
「そうか、分かったぞ!!そういって俺を油断させるつもりだな?」
グロッケンは今にもアコールに襲い掛かる勢いで告げる。
「こっちにとっては私が倒そうと、魔王様が倒そうと結果は同じことです。ですが、あなたにとっては魔王に辿り着けずに敗北するか、魔王と戦って敗北するかは大きな違いではありませんか?」
「わかった。私の目標は魔王を倒すこと、罠だろうとここまで来たんだ。お前の誘いに乗ってやる」
グロッケンは自らの時間がないことを悟り、最短距離で魔王の部屋へと向かう決断をした、
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