パイロット勇者 トラット/コルネ/フリューゲン その2

「そうですか、骨ですか」


「フォルテ様?何を想像されてますか?」


「今度は骨からどう復活を遂げるのか考察してました」


「今はボンゴくんの未来より、自分の未来を考えて下さい?フォルテ様は骨になったらさすがに死ぬんですから」


 呑気にボンゴの復活に関してどうなるか考えているフォルテだったが、それをモニカに咎められる。

 フォルテは気を取り直して、相手の勇者について考えを巡らせた。


「しかし、今回の勇者。フォルムといい強さといい、まさか前と同じロボですか?」


 フォルテは前に襲来した勇者ロボを思い出す。


「あの技術は下手に使うと神の裁きを受けますからね、今回のものとは違うと思いますよ。それに前と違って、妙に人間臭い行動が目立つと報告もありますし」


 前来たロボは効率重視で一直線に向かってきたが、今回の勇者は感情豊かで遊び心もあった。


「まぁ、考えてもわかりませんし。後は実際見て判断しましょうか」


 モニカの意見にフォルテは余裕を持って頷いた。

 そうして、呑気に構える二人の元に、豪快に扉を開けて勇者が現れた。


「ん?なんだ?ここも随分と少ないお出迎えだなぁ」


「ひゃっはぁー!ガキは殺せ!女は奴隷だぁ!!」


「それ、どこの世紀末ですか?」


「www」


 妙にテンション高く、不躾な態度で三体のゴーレムが現れる。

 もちろん彼らの態度に現れた自信が、虚勢ではないことはフォルテも理解していた。


「おいおい、なんとか言ったらどうだ?もしかしてビビっちゃってますかぁ?」


「www」


 先程からずっと煽りまくるコルネと変な笑いを発するフリューゲン。

 三人もいてまともな奴がいないのか、モニカもよく耐えていると思いフォルテがそちらを向くと、彼女の顔には青筋が浮かんでいた。

 どうやら彼女の我慢も限界が近そうだ。


「もう、めんどくさいわ。俺たちのコンビネーションで、さっさと倒しちゃおうぜ」


 トラットがそう言って他の二体を先導し、室内へと足を踏み入れる。

 フォルテへと近づきながらトラットは剣を構え、コルネは魔法を放つ準備を進める。フィリューゲンは先頭に立って盾を取り出した。

 三人から感じられた余裕の足取りは歩を進めるごとに段々と重くなり、ついにはその歩みを止めた。


「あ?なんだ!?動かねえぞ、おい!?」


 思わぬアクシデントに動揺を隠せないコルネ。


「www?」


「どうなってる!?」


 コルネと同じく動かないフリューゲンとトラット。焦る三体に対して、それを見守るフォルテ。


「さっきまでの威勢はどうしたの?さっさと倒すんじゃなかったのかなぁ?」


 怒りに燃えながらモニカが三体のゴーレムに向けて歩き出す。


「ちょ、ちょっと待て!いま再起動してるから、」


「ダメだ!動かない!!」


「w@:い!?」


 思わに事態に慌てる三体。事態の好転は見込めないと判断し、トラットが早々に判断を下す。


「フリューゲン、コルネ、もう機体は破棄する!」


 トラットの掛け声に他の二体も同意し、三体のゴーレムから蒸気が発せられた。


プシューーー


 煙に包まれたゴーレムの頭頂部に亀裂が走ると、そこが蓋のように開き、中から生身の勇者が姿を現す。どうやら三体ともゴーレムの中に人がおり、そこで動かしていたようだ。

 緑のゴーレムからは、鬱陶しい長髪を携えてガリガリに痩せた男性が現れた。どうやら、この男がフリューゲンで間違いなさそうだ。生気が感じられないその見た目でブツブツとなにか囁いている。


「まったく、生身で戦うのなんていつぶりだよ」


 文句を言いながら赤いゴーレムからトラットが這い出してくる、顔はパンパンに膨らみ額からは大量の汗を流している、お腹が引っかかっているのか上半身だけ生やして足掻いている。


「やべっ、出れない。ちょっとフリューゲン、コルネ助けて」


 フリューゲンがトラットの手を掴み引っ張るが、その細い腕ではとてもトラットを引き抜くことは出来なかった。


「おい、コルネも出てきて手伝えよ!」


 未だ黄色いゴーレムは何も反応がなかったが、トラットに呼ばれその扉が開いた。

 中からは眼鏡をかけ、明らかに他の二人より年上の頭の禿げ上がった中年男性が出てきた。

 その姿を見てトラットとフリューゲンの手が止まる。


「え?お前、コルネ?えっ、本物?」


「あ、あぁ」


 お互いを初めて見たのかどこかギクシャクする三人。


「コルネ、おまえ俺たちと同じ歳って言ってなかったか?」


 トラットの言葉にコルネは答えず、視線も逸らす。


「お前、無視すんなよ!」


「うるふぁいデブ!!」


 口を開いたコルネの前歯は何本かなかった。


「はぁ、このジジイが!調子乗ってんじゃねぇぞ!!」


「・・・・」


「てめぇもさっきから、ブツブツブツブツなんか喋れや!!」


 笑いもしないフリューゲンに二人は当たり散らす。その後、何とかゴーレムから抜け出したトラットはそのまま三人で口喧嘩を始める。

 そんな三人を見てすっかりモニカの怒りも萎えてしまった。


「ちょっとアンタたち、喧嘩するなら出てってくれないかしら?」


 モニカの威圧感に三人は身をすくめる。しかし、三人も武装を解かれたとはいえ勇者の端くれ、いまだ抗戦の意思は消えていなかった。


「ふー、ふー、争ってる場合じゃないな、先に魔王を倒そうぜ」


「あぁ、ふぁかった」


「・・・」


 何もしていないが既に息切れしているトラット、その提案に賛同する活舌の心もとないコルネと、話し声も聞こえないフリューゲン。

 三人はそれぞれ、剣と杖、そして盾を構え改めてモニカと対峙する。


「やっとやる気になったのね、待ちくたびれたわ。それじゃあ行くよ!!」


 モニカが一気に駆け出し、握った拳で殴りかかる。その動きを察知し、攻撃を防ごうとフリューゲンが手に持った盾を構えでモニカの正面に移動する。


「・・!?・・・・・!!」


 フリューゲンはモニカの攻撃を受けるも、その体には衝撃を受け止めきれるだけの筋力はなく、終始聞き取れない言葉を発っしたまま、盾ごと吹き飛ばされていく。


「なんだよアイツ?そりゃ、あんなガリガリの体じゃ受け止められないよな」


 情けないフリューゲンを見て愚痴をこぼす残った二人。


「仕方ない、ここは俺の冴えわたる剣技見せてやるぜ!」


 そういってトラットは動かないゴーレムから剣を取り出し、華麗に振り回す。空を切るその音は、段々激しさをましていきついにはトラットの手を離れて空を舞う。

 そのまま床に投げ出された剣を、フォルテとモニカは不思議そうに見つめる。


「くそぉ、俺としたことが、武者震いしていやがるぜ」


「何言っる?太りふぎて手がギトギトじゃないふぁ?」


 モニカも落ちた剣についたトラットの手汗を見て顔をしかめる。

 周りの目線を振り払うかのようにトラットは頭を振る。


「はぁはぁはぁはぁ、ちょっと久しぶりに動いたから眩暈が、」


 トラットは膝をつき、苦しそうに咳き込む。


「運動不足なんらよデブ!!そんな体形で戦えるわふぇねふぇだろ!」


 コルネはトラットを叱りつける。


「ひょうがない、俺がやっふぇやる!」


 コルネはモゴモゴと呪文を唱える。


「はぁはぁ、へへへ、覚悟しとけよ、コルネの魔法は天下一品、いくら魔王といえども発動すれば防ぐ手立てはないぞ!!」


「もごもごもごもご」

 

 コルネの魔王に備える一同、しかし一向に魔法が発動する気配はない。


「だめら、呪文がはつろうしない」


「てめぇ!!活舌悪すぎだろ!?入れ歯ぐらい入れてこいジジイ!」


 コルネの魔法は活舌が悪すぎて発動しなかった。


「ち、ちくしょう搭乗式高性能機器、御堕例無さえ動けばお前らなんか、お前らなんかぁ」


 未だ負け惜しみを口にするトラット、そんな彼らにフォルテは無常にも告げる。


「ここ圏外だから、有線じゃないと電子機器使えないよ?」


「え?今時圏外って、」


「以前ロボが来たとき、その対策としてシンバさんがセキュリティ強化してくれていたんです。だから変な機械は持ち込めないんですよ。入り口にも書いてあったでしょ?」


 勇者たちは唖然とする。確かに入り口には土足厳禁の他に注意書きも足されていた。


「そ、そんなの読まねぇよ普通」


「さぁ、ここにきて生意気に啖呵切った責任は取ってもらおうかしら?」


 項垂れる三人に、悪魔のような顔をしたモニカが拳を鳴らして近づいていった。

 その後、モニカの果てない憂さ晴らしが延々と続いた。

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