試練の勇者 ピノア その3
「やっと着いたー」
「さすが神の試練です、想像よりキツかったです」
フォルテとピノアは頂上に着くなりその場にへたり込む。
「ほら、二人とも。そんなとこにいると他の登山客の邪魔ですよ、もっと端に寄って下さい」
「ピノア様、こんなに汗だくになって!?急いで着替えませんと!!わたくしお手伝いしますわ」
ソステートの申し出は丁寧にお断りするピノア。モニカの指摘に対して、這いながら隅に移動する二人。そんな二人の姿を見ながら年配の夫婦が笑いながら元気に通り過ぎる。
フォルテとピノアは情けなさを痛感し一緒になって膝を抱えた。
「はぁはぁ、見た目はヨボヨボなのになんてスタミナ!もしや名だたる英雄でしょうか?」
「フォルテ様、どう見てもただもお年寄りです」
モニカにつっこまれ密かにトレーニングを決意するフォルテ。
見晴らし良く心地よい風が吹き抜ける山頂には、大きな鳥居が設けられその奥には立派な社が建立されていた。
「昔は何もなかったのに、たった数十年でここまで変わるものなんですね」
モニカは以前の記憶と違う風景に驚きの声を上げている。
「昔は人間の手に伝説の武器が渡らないようにと凶悪なドラゴンに護らせ、人を寄せ付けないようにしていたんですが、いったい何があったんでしょうね?」
フォルテも変わり果てた景色に驚いている。
魔王軍の最高戦力ともいえるドラゴン、その力は並みの勇者では太刀打ち出来ず。挑戦して夢半ばで敗れた勇者は数えきれない。
そんなドラゴンの居城が、このように観光地化している事に違和感を感じながらフォルテたちは鳥居を潜り奥へと進む。
「あー、見てください、フォルテ様!?茶屋もありますよ。帰りに寄っていきましょうよ」
屋台も出ている参道に心躍らせるモニカ、すっかり観光客の仲間入りしている。
「あ!ピノア様。お守りも売っておりますわ!?家内安全、合格祈願、安産祈願、魔王討伐成就もあります!とりあえず恋愛成就勝っておきますね!」
ソステートの言葉に歩みを止めるフォルテ。まさか、自分の部下の領地で上司の討伐祈願を販売していることに焦りを感じた。
「ありました!伝説の武器です!!」
今度は奥の授与所でピノアが騒いでいる。フォルテは頭を抱えながらもピノアのもとに行き、自らを殺すといわれる伝説の武器を目にする。
「んー、一つ12000Gですか。意外と高いですね、それよりもこっちの伝説の弓矢8000Gなら手が届くかな」
「ピノア様?こっちの伝説の鉄窯なんでいかがですの?魔王の火力にも負けず具材も焦げ付かない優れものですわ!!」
軒先に並ぶ伝説の武器?シリーズを見ながらあれこれ考え込むピノアとソステート。
「フォルテ様も火力でも具材を調理出来るなんて優れものじゃないですか!?一個買っときますか?」
モニカがフォルテの火の粉を出す魔法を思い起こしながら笑って告げる。
「そんなものいりません!!ですが、伝説の武器って売ってるんもんなんですね」
フォルテは自らの命を脅かす武器が大量に並べられているとこに驚きを隠せない。
「なんでもお金次第なんですね」
モニカが身も蓋もないく答える。
「ふぁ!?フォルテ様?」
思わぬ現実に直面し困惑するフォルテに対し、背後から驚きの声がかけられる。フォルテが背後を振り向くと、そこには立派な装束に身を包んだ男性が立っていた。
正確には姿は人間に近かったが、その肌には青白い鱗があり、顔も爬虫類のような鋭い目と大きな口、鋭利な歯に長いヒゲをたくわえたドラゴニュートであった。
「アルフか?」
フォルテは疑問と疑惑を声に乗せ、目の前の男に詰め寄る。
アルフと呼ばれたドラゴニュートは頭を下げてフォルテに深々と礼をした。
「これはいったいどうゆうことだ?」
フォルテは珍しく威圧的な物腰で、この山の主ドラゴニュートのアレフに事情を伺う。
「こ、これは、商売でありまして!!」
「ほぉ、それで自らの主の命を切り売りする訳か?」
「決してそんなことは!?すべては現代の状勢を鑑みたもので、我々も長いこと外界と交易を絶ちひっそりと生活しておりましたが、生活は困窮するばかり。そんな折、ちょうど麓に私たちドラゴンを崇める風習があることを耳にしたものですから、それを利用して宗教でも立ち上げようかと・・・」
アレフはしどろもどろに受け答えをする。恐怖の原因はフォルテの背後にいる、ドラゴンすら恐れるモニカが睨みを効かせていたためだろう。
「それで?普通にお守りだけでなく、何故伝説の武器まで売ってる?」
「いえいえ、フォルテ様。それは間違いです!!売ってたのではなく授けていたのです」
「言い方なんてどうでもいいって!」
すっかり祭事に関わるものとしての振舞いが板についているのか、アルフはフォルテの言葉を訂正してくる。
「はは、いや、伝説の武器は元手がかからない割に高値で売れましてな。なんせ元は勝手に抜け落ちる私の鱗ですから、あ、でもレプリカですから刃も研いでおらず殺傷能力はあまりないですよ!!」
フォルテは、あくどい商売をするアレフに怒る気力も削がれていた。
「それで、この度はどのようなご用件で?」
フォルテの反応からいつもの調子を取り戻したアレフは本来の要件を伺う。
「えっと、贈答用の夫婦茶碗を買いに、」
「お、ついにフォルテ様も身を固めるご決心を!?お相手はいったいどちらに?前々から噂になっていた医療班のハーピーですか?それとも城下に行っては頻繁に会っている花屋のドリアードですか!?」
「ぶ、部下に送るようですよ!!」
いい加減なことを口にするアレフ、その軽口に翻弄されるフォルテ。
「へぇー、フォルテ様って、そんなにいい人がいたんですねぇ?」
「ち、違うんですよモニカさん!?これは勝手に周りが言っていることで」
「いえいえ、フォルテ様もお年頃ですからそりゃ女性と見れば目の色も変わりますよねぇ?」
「そ、そんな、モニカさん。信じて下さいよぉ」
「おや、フォルテ様?なにを情けない顔をされているんですか?さては以前付き合って、」
「余計なことばかりしないでください!!」
フォルテに叱られ、しょんぼりとした表情を浮かべるアレフから目的の品を受け取っているとモニカは怒って先に下山して行った。
フォルテは、未だ武器選びに悩むピノアたちに別れを言えぬまま急いでモニカを追いかけるのだった。
「モニカさーーん!待って下さいよー!」
未だ戻らぬ体力を押して急いで駆けつけるフォルテ。そんな彼を後ろ目にみながら楽しそうにモニカは声をかける。
「あれ?フォルテ様、何持ってるんですか?」
「な、なんでもありません!!」
急いで帰りながらも、こっそり買った恋愛成就のお守りを大事そうに抱えるフォルテであった。
なお、金欠に悩むピノアであったが、
苦労して持ち込んだ数々の武具を収めることにより何とか伝説の武器(レプリカ)を手に入れることが出来た。
帰りは軽くなった荷物のお陰で楽々下山出来たそうである。
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