試練の勇者 ピノア その2
「ど、どうも。毎回毎回お恥ずかし姿ばかりで」
フォルテの足も限界だったので、四人は休みながら話をすることにした。ちなみに女性の名前はソステート、神に仕える神官でピノアの旅の目的を知り同行を申し出てくれたそうだ。
長いブロンド髪を一本にまとめ、そこから白い肌が見えている。白くゆったりとした法衣に身を包み、歳はピノアよりも若干大人びて見えた。
「着実に旅は進んでいるはずですが、一向に成長してないように見えるのは何故でしょうか?」
「中身は出会った時のままだね」
ピノアの情けない姿を目にし、モニカがフォルテに耳打ちする。フォルテは苦笑しながらそれに小声で答えた。
その後、モニカの持参した軽食を四人で摘み、フォルテもピノアもだいぶ回復してきていた。
「お陰様でだいぶ楽になりました」
「ほんとに良かったですわ。ピノア様が動けなくなって一時はどうなることかと心配しましたの」
「ソステートさんには心配かけました」
「ピノア様が無事で良かったですわ」
「勇者としてはまだまだですが、男としては名をあげたようですねピノアくん」
モニカが二人の仲を見ながら微笑ましくフォルテに告げる。
「ど、どこがいいんでしょうね!まったく」
フォルテはなんだかピノアに負けた気がして乱暴に答える。
「ふふふ、わたくしが居ないとダメなんですわって思わせる、その絶妙な頼りなさがほっとけないんですわ」
フォルテの怒りを聞いて頬を赤くしながらソステートが答える。
「この様子だと、ピノアくんかなり甘やかされてそうですね」
「勇者じゃなくてホストにでも転職した方がいいのかも」
ソステートの言葉にピノアの今後を心配するフォルテとモニカ。
当のピノアは湿布を張った足を揉みながら話を聞いていない、ちなみにその湿布はフォルテが持参した物であった。
「それにしても、登山用にずいぶん準備してきたみたいだけど薬とかは入っていなかったの?」
フォルテはピノアの脇に置いてある大きな荷物を指差して訪ねる。
「あぁ、これはですね、」
ピノアは目を輝かせながら荷物を手繰り寄せて中身を取り出す。そして、大きな荷物からは様々な武器や防具が飛び出してきた。
「これは以前まで使っていたプレートアーマーで、こっちは火炎耐性のついた盾、これは刃こぼれした剣ですね」
おおよそ登山には必要ない品々が次々と出てくる。
「ピノアくん?なんでそんなもの担いで山登ってるの?」
「フォルテ様?きっとこれは罪人に課せられた、厳しい罰なんですよ!」
「それ前聞いたやつね」
フォルテが当たり前に疑問を口にすると、モニカが楽しそうに話に割って入る。
「違いますよ!フォルテさん、いいですか?冒険はいつでも命懸けなんです!準備を怠ればそれは死に直結します!冒険を舐めないでください!!」
「いや、そもそも登山舐めてるよね!?」
ピノアは熟練冒険者のように、旅の過酷さを力説するがフォルテは冷静に突っ込む。
そんなフォルテの言葉も相変わらずピノアには届いていなかった。
「ピノア様は神の使いたる勇者、これも一つの試練なのですわ。あぁ純真無垢なピノア様、素敵ですわ」
「あなたは試練には参加しないんですね?」
ソステートは悟ったように言うが、その法衣の下からはガチの登山靴が見えていた。モニカがそれを指摘するもソステートは笑ってスルーする、意外としたたかな性格のようだ。
「それでピノアくんは、なんでこんな険しい山を登っているの?」
唯一の救いであろう同行者のソステートも頼りにならず、フォルテはピノアの教育を諦めて話を進める。
「なんでもこのグンデル山の頂には、ドラゴンに護られた聖なる剣があるそうなんです。選べれし者のみが手に入れることが出来るというその剣を手に入れるべく、こうして試練に耐えて向かっているわけです」
自らその試練の難易度をあげているとも知らずに、ピノアは強い意志を込めた目で頂上を見据える。
「それでフォルテさんたちは何しに頂上へ?」
「えっと、ドラゴンが護っている有難い夫婦茶碗を手に入れに、」
フォルテはピノアの世界観を壊さぬようにそれっぽく告げる。
「えっ!?そんな道具もあるんですか!?」
「ピノア様、人によって救う世界は様々。あなた様のようにこの世界そのものを救うお方もいれば、一家の家庭を救う殿方もおります」
「はて?家庭を救うとはいったい?」
ソステートの言葉が理解できず疑問を返すピノア。
「ピノア様、世の中にはピノア様のように一途な殿方ばかりではないんです」
「えっ、フォルテさんとモニカさんて、あぁ、そうだったんですね!」
「いったい何を勘違いしてるんです!?」
「ピノアくんに変なこと教えないでください!」
ソステートにいい様に言いくるめられ、フォルテとモニカの仲を誤解するピノア、それをつっこむフォルテとモニカであった。
その後は目的地も同じため、四人は連れだって山頂を目指すこととなった。大きな荷物を抱えたピノアと元から体力のまったくないフォルテ、双方励ましあいながらなんとか山頂までたどり着くことが出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます