知の勇者 ピアニカ その2
「今回は爆死ですか、原形をとどめないとなるとさすがに、」
王座に腰掛けたフォルテのもとに、ボンゴが敗れた旨の連絡が入る。大広間にも爆炎と轟音は届いていたので、戦況は何となく伺い知れた。
「ボンゴ様大丈夫でしょうか?」
コトはフォルテの右側に立ちボンゴの心配をする。どうやら彼女はまだボンゴの耐性に詳しくないようだ。
「あれでも四天王の一角です、無様な死に方はなされないでしょう」
フォルテを挟んだ左側には、頼りなく立つ男性の姿があった。身長は190cm近くあるが、その線の細い体は倒れそうに頼りなく、青白い顔も相まって不気味な印象を相手に与える。
黒の外套を羽織り、物静かに佇む男こそ、アコール・ディオン。魔王軍の将であった。
いつの間にか傍で控える大人物にフォルテは驚きの声を上げる。
「え!?えぇ?なんでアコールさんがここに?」
突然の登場に驚くフォルテ、するとコトが笑顔で説明を始める。
「さっき魔法について学びたいっておっしゃってましたので、お呼びしておきました」
「魔王様。なかなか殊勝な心掛けです。このアコール・ディオン、僭越ながらお手伝い致します」
コトの説明にアコールは恭しく頭を下げる。物腰は柔らかいが、その表情は能面のように感情に乏しく、細身で背が高いので不気味さも際立っている。
ゆったりとした佇まいで手には杖を携えていた。
「まずは魔王様の実力を確認したく、こうして勇者との戦いを拝見しに参りました。その戦いを見て訓練内容を決めましょう」
「いや、それだと実力知る前に私死んじゃうかも、、、」
「ははは、大丈夫ですよ。このアコール・ディオン、戦いの邪魔は致しませんゆえ」
「えーっと、できれば邪魔でもなんでもして、さっさと終わらせて欲しいんだけど」
フォルテの願いはことごとくアコールに無視される。そうして、退路も断たれた逃げ場のない戦いが始まろうとしていた。
「コトさん、ちなみにモニカさんは?」
「お姉様は、アコール様が来るなら行かないだそうです」
コトはモニカからの伝言を伝える。
「モニカさん、逃げましたね。恨みますよ」
「では、お姉さまも来ないなら私はこれで、」
部屋を後にしようとしたコトをフォルテが必死に捕まえる。
「コトさん!退出は許しませんよ!」
フォルテの血走った必死の形相にコトは怯えながら頷いた。
珍しい三人組が出迎えるなか、広間の扉を開き勇者ピアニカと護衛騎士のチューバが現れる。
「我は勇者ピアニカ様の護衛騎士チューバ!魔王はいずこか!?」
部屋に入るなり大きな声で話し出すチューバ。離れていても耳を塞ぎたくなる音量であった。
「我が魔王である」
フォルテはアコールの視線を感じながら立派に魔王を演じる。いつも以上に緊張して喉が渇く。
「お前が魔王か?」
「さよう、フォルテ13世である」
フォルテは玉座から立ち上がり一歩前へ出る。ノリで踏み出した一歩だが格好の標的となる立ち位置にフォルテは酷く後悔した。
「二人がかりか、ならばこちらもそれに答えねばなるまいな」
フォルテは勇者に告げ、少しでも生存確率を伸ばそうと画策する。
「コトさん、コトさん。相手は二人ですから何とか協力お願いできませんかね?」
フォルテはアコールに聞こえないようにコトに小声で協力を申し入れる。
「ふふふ、愚かな勇者よ。魔王様は二人では物足りぬと言っておるのだぞ、自らの愚かさを後悔するがよい」
コトが返事を返す前に、勘違いをしたアコールが自慢げに勇者に語りかける。
「そういう訳で、アコール様がああ仰ってますので手助けは諦めて下さい」
コトは、フォルテに期待するアコールに恐怖して行動を起こさないことに決めた。
「なめるなよ、魔王フォルテ!覚悟しろ!!」
出来れば舐めたままでいてほしかったが、アコールの言葉が勇者に火をつける。
「人の魔法では煙も出ないのに、なんで勇者はどいつもこいつもこう簡単に火がつくの!?」
「精神攻撃は容易そうですよね?今度覚えてみます?」
「生き残れたら是非!」
「フォルテ様、勇者相手に慈悲は無用。さぁ、その実力存分に発揮ください」
チューバの怒りに震えるフォルテ、コトが隣でそれを宥めるが無情にもアコールが背中を押してくる。
感情とは裏腹に盾を構えて動かないチューバ。そんな受けの姿勢にフォルテも行動を起こせず固まる。
こうして勇者との避けられぬ戦いの幕が上がろうとしていた。
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