勇者ロボ ヴォット その2
「あれはいったい?」
フォルテの目に飛び込んできたのは、部屋の中央に佇む見慣れぬ物体。
人というには不恰好で、見た目は太い鉄の丸太が立ててあるかのようなシルエットであった。
「ガ、ガガ、マオウ?」
丸太から雑音のような声が響く。
「いかにも、私が魔王フォルテ13世だ!」
先程までの怯えは消え、フォルテは堂々と名乗る。
不格好な丸太の勇者は、顔らしき場所にはめ込まれたガラス球をこちらに向け、そのままフォルテを見つめただ黙っていた。
「なんだ?名乗りも上げないのか?」
フォルテが不思議に思って話しかける。
「マオウ、コロス」
勇者は轟音と煙を発しながらまるで飛ぶようにフォルテに近づく、そして丸太から生えた棒のような腕を振り下ろしてきた。
「挨拶もなくいきなり攻撃なんて、せっかちな勇者様ですね!!」
すかさず二人の間にモニカが分け入って、勇者の攻撃を受け止める。まるで全身鉄で出来ているかのような重い一撃にモニカの膝は一瞬崩れる。
その後も、勇者はまともな会話をすることなくモニカに向けて攻撃を続ける。
「モニカさん!?大丈夫ですか?」
人の動きを超越した素早さと重量感でモニカを圧倒する勇者。思わぬ苦戦にフォルテは心配の声を上げる。防戦一方のモニカは余裕がないのかフォルテの声に答えない。
「フォルテ様!あの勇者、おかしいですよ!」
シンバがフォルテに話しかける。
「確かに円柱のような鎧を着て格好も変だし、人の話を聞かない姿勢もってそれは、どの勇者も同じか」
シンバの意見に、フォルテは自身の考察を語る。
「そうではなくて!あの勇者、関節音も息遣いも、なにより心音がまったく聞こえません!」
フォルテは、シンバの耳の良さにも驚いたが、勇者の特異性になお驚いた。
「ということは、アイツってゴーレムってこと?」
シンバの言葉を聞いてコトが問いかける。
「ロボ・・・」
「え?」
一時勇者と距離を取ったモニカが三人の会話に割って入る。その聞きなれない単語に、フォルテはモニカに聞き返す。
「こいつの名は、勇者ロボ、ヴォット」
「モニカさん、アイツのこと知ってるんですか!?」
フォルテがモニカに詳細を訪ねる。
「いや、アイツの胸元に名前が書いてあったから」
よく見るとヴォットの胸に丁寧に名前の刻印がされていた。
「ロボって、確か最近ライド国が開発した新型ゴーレムですよ!ミスリルで構成されたボディはあらゆる攻撃をはじき、高性能の知能は魔法攻撃すら可能にしたとか」
シンバは驚いたが感じでヴォットをまじまじと見つめる。
「それで、弱点は?」
フォルテはシンバに詰め寄る、小さな体を持ち上げられ前後に激しく揺らされてシンバは答える。
「あわわ、詳しいデータはどこの国にも出回ってないので弱点も分かりませんよぉぉ」
フォルテはシンバから手を離すとモニカに向き直る。モニカはヴォットと善戦していたがだんだんと押されてきている。
モニカの顔から笑顔が消えると、全力の力でヴォットを抑え込み身動きを封じる。
「コトちゃん!!」
モニカはヴォットを抑え込んだ隙にコトに合図を送る。
「わかりました、お姉さま!!」
コトはいつの間に移動したのか、ヴォットの死角から忍び寄り、その首筋に小太刀を突きつける。
しかし、その切っ先がヴォットに触れる直前、彼の体は霧のように掻き消えた。
「「えっ!?」」
驚きのあまり声をあげるモニカとコト、急いでヴォットの姿を探すと彼はいつの間にコトの背後に潜んでいた。
「コトちゃん危ない!」
咄嗟にモニカが気付きコトを庇ったが、代わりにヴォットの攻撃を受けたモニカの左腕は、無残に砕かれ力なく垂れさがっていた。
「なんてこと、モニカお姉さま。わたくしのために、申し訳ありません」
コトは涙ながらにモニカに謝る。
「いいって、このくらいかすり傷よ、それよりコトちゃんが無事で良かった」
モニカは心配かけまいと笑ってコトに答える。
実際のところ、ダメージは相当蓄積されており、残す片腕で応戦するのにも限界があった。
「なんなんですかアイツは?動きも人間離れしてますし、力だってモニカさん以上。それに攻撃も正確無比、その全てが急所に向けられていますよ!」
なんとか弱点を探ろうと観察していたシンバだったが、見れば見るほどに穴はなく、まさに完璧な勇者であった。
皆が絶望感に苛まれる中、何処からともなく陽気な声が室内に響く。
「ほんとぁ、こんなのチートだよね。流石にこれは捨ておけないな」
部屋の中央に忽然と現れた男性はヴォットを見て語りかける。
「対話のプログラムは組み込まれてないのかな?まぁ、いいや、君ね、調子乗りすぎ、僕の世界観を勝手に壊さないでよ」
男は人差し指をヴォットに向け、何かを打ち出すような仕草をした。
「はい、バーーンっと」
間の抜けた掛け声だけが響くと、ヴォットの動きは止まり、腕もだらしなく垂れ下れ下がり輝いていた目も光を失った。
「いっ、一体何が?貴方は?」
フォルテは突然のことで理解が追いつかなず突然現れた男に問いかける。しかし、その問いに答えたのはモニカであった。
「あいつは神様ですよ」
モニカは神と呼んだ男を睨みつける。男もその視線を受けて微笑みを返す。
「はじめまして魔王様、僕はこの世界の神。リズムと申します」
リズムと名乗った神はフォルテにうやうやしく頭を下げる。フォルテもそれに釣られ、理解が追い付かないままに挨拶を交わした。
「この度は対応が遅れて申し訳ない、本来ならこのようなチート行為即座に対応するんですが」
「本当にもう少して大事になるところですしたよ」
フォルテが何か聞こうとするが、それを遮ってモニカがリズムに愚痴を溢す。
「次回から気をつけますよ。とりあえず、こんな真似をしたライド国には制裁を加えときますね」
リズムはそう言いながら光と共にその姿を消した。
呆気に取られた三人は解説を求めるべくモニカに視線を集める。
「さぁ、お仕事終わり。みんな帰りましょー」
モニカは説明責任を放棄して、みんなに優しく語りかけたのだった。
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