新米勇者 ピノア
「あっついですー、喉乾いたですー」
照りつける太陽、見渡す限り何処までも続く砂浜。何処待ていっても変わらぬ景色にに精神すら干からび、カラカラになった喉からモニカは叫び声をあげた。
「もう、だから言ったじゃないですか!喜んで付いてきたのはモニカさんなんですからね、これだから今回は一人で行くと言ったんです」
ラクダの背に揺られながらフォルテは隣を行くモニカに告げる。
彼らは魔王領の一角である砂漠の都市へと向かっていた、周りを砂に囲まれ、人間が生息するには厳しい環境であったがそんな環境すら苦としない種族にとっては、人間に介入される恐れのない平穏な都市を築ける場所であった。
今回その都市へとフォルテが視察に訪れる事になり、暇を持て余していたモニカもいつものごとく同行することとなった。
「フォルテ様、私はもうダメです。み、水を」
「さっき飲んだばかりじゃないですか?もう少し行けば都市が見えてきますから頑張って下さい」
終始愚痴を言うモニカに振り回されつつも、それを除けば、旅は順調に進んでいた。
「あれ?フォルテ様、あそこ。何か光ってませんか?」
不意にモニカが砂しかない砂漠で何かを見つける。
「そんな所にオアシスはありませんよ!モニカさん、しっかりして下さい」
ついにモニカが熱でおかしくなったと思い込み、フォルテはため息とともに返事を返す。
「違いますって!ほら、あそこ!!」
モニカは声を張り上げ前方を指さす。さすがに真実味を帯びた発言だったので、フォルテも視線をそちらへと向けた。
「ん?何処ですか?」
そこには太陽の光を受けて光輝くものが埋まって見えた。
「もしかして金銀財宝とかですかね?埋蔵金とか」
「モニカさん、盗掘は立派な犯罪ですよ。ちゃんと然るべき場所に届かないと」
モニカの邪な考えに釘を指すフォルテ。
「ですが、確認するくらいはしておきましょう」
「もし行き倒れとかだったらいやですよ?こんな砂漠の真ん中で朽ち果てたんですから、怨念てんこ盛りで近づいたら呪われちゃいますよ」
「大丈夫です。もし呪われたら私が怨念ごとき叩き出してあげますよ!」
「モニカさんに叩かれたら、魂も体から追い出されちゃいますよ」
すっかり元気を取り戻したモニカは好奇心に駆られ、フォルテの話も聞かずに光る物体に近づいていく。
「さぁ、どんなお宝が、あー、これは鉄ですね」
砂に埋まる物体を近くで目にしてモニカが答える。彼女に遅れて埋まっている物体を覗き込んだフォルテも同意見で頷いて答える。
「まったく、こんな砂漠の真ん中に鉄屑なんて捨てて。非常識ですね」
モニカは期待が裏切られたのでヤケになって埋まってる鉄屑を蹴り飛ばす。
「う、うっ」
その時。衝撃に反応して鉄屑が呻き声をあげる。
「うわぁ!!この鉄生きてる!?」
フォルテとモニカはビックリして距離を取る。
「み、水を、」
砂に埋まった鉄はモゾモゾと動き始め次第にその全貌が明らかになる。
そこには、全身を鉄の鎧で包んだ戦士が行き倒れになっていた。
「な、なんなんですか、こいつ?」
モニカは得体の知れない人間に恐怖する。
「まだ、息はあるみたいです。モニカさん水を!」
フォルテは急いでモニカに水を持って来させフルプレートの戦士に差し出した。
「あ、ありがとう、ございます」
戦士は律儀にお礼を言って兜を外し素顔を晒す。
「君は!?」
その見覚えのある顔にフォルテとモニカはは驚く。
「ピノアくん!?」
彼は以前会った駆け出しの勇者ピノアであった。
「あ、あぁ、誰かと思ったら。どうもフォルテさん、モニカさん、お久しぶりですぅ」
ピノアは弱々しい返事を二人に返し、また意識を失ってしまった。
「フォルテ様、また助けちゃいましたね」
モニカは苦笑いを浮かべながらフォルテに話しかける。
「ほんとに、ですが、ここまでしたんですから、放っとく訳にもいかないですね」
フォルテは疲れた顔を浮かべながら、重い鎧を着けるピノアを担いで街へと向かうのだった。
魔族たちが再建した都市は交易路として栄え、今や人間も多く出入りしていた。
そのため人間に対する偏見もなくピノアも問題なく街へと入れた。
「うーーん」
フォルテたちは、手ごろな宿を取りピノアをベッドに寝かせると、急いで医者を呼んだ。医師の見立てでは熱中症とのこと。
フォルテは取り合えずピノアの無事を確認し、胸をなでおろした。そして、部屋の隅に置かれたフルプレートを見ながら熱中症の原因に納得していた。
当の本人は時折うめき声をあげながらも、夜には顔色はすっかり良くなっており小気味よい寝息を立てていた。
「それにしても、なんでこんな格好で砂漠に倒れていたんですかね?」
モニカは疑問に思ってフォルテに尋ねる。
「もしかして、何かの刑罰じゃないですか?重く暑苦し鎧を無理やり着させて、熱線の降り注ぐ砂漠をひたすら彷徨わせる。最後は干からびて死んでしまうんです」
「お、恐ろしい。どんな犯罪を犯せばそんな恐ろしい罰が下されるんです!?」
「わかりません。しかし、死罪にも等しいこの仕打ち、余程の重罪なんでしょう」
「でも、あのピノアくんがそんな重犯罪を犯すとはとても思えませんが」
「甘いですよフォルテ様。前回もそうだったように、ピノアくんの世間知らずは犯罪レベルです。彼にその気がなくても罪を犯してしまっていることだって考えられます」
「それはあり得ますね」
「まったく、勇者も語るに落ちましたね」
モニカの説明に納得し、フォルテは固唾を飲んでピノアの顔を見つめた。幼い顔立ちながらも苦労を重ねたのか、その顔立ちは以前とは違って見えた。
「男子三日会わざれば、刮目して見よとは言いますが、あの純粋だったピノアくんが、ここまで変わってしまうとは、」
モニカが昔を懐かしむように泣く仕草を織り交ぜピノアを見つめる。
「な、何勝手なことを言ってるんですか!?」
目が覚めていたのか、ピノアが反論して体を起こそうとする。
しかし未だ安静を言い渡されていたため、急いでフォルテがピノアを制止する。ピノアは再度横になり天井を見ながら事の次第を話し始めた。
「そもそも僕が砂漠を歩いていたのは自分の意思です!誰かに言われて強制的にとかじゃありません。そもそも目的地は、この砂漠にあるという魔族と人との共存都市を目指していました」
「それならなんであんな恰好で?この砂漠をフルプレート着込んで往来しようなんて、自殺行為ですよ!?」
フォルテは一番の疑問点を伺う。
「そ、それは、」
ピノアは言いにくそうに口ごもる。
「や、安かったから」
「はい?」
ピノアの説明に耳を疑うフォルテ。
「ここに来る前、砂漠の際にある町でフルプレートが安く売ってたんですよ。それまで貧相な皮の鎧でしたが、余りに安かったので衝動買いしてしまって。そしたら店主がここで装備していくかい?とか、防具は持ってるだけじゃ意味ないからちゃんと装備しな、とか言ってきたので装備したまま砂漠を歩いていました」
ピノアの苦行ともいえる行進は、すべては自主的に行っていた。
「あんな重装備で砂漠を歩く人がいますか!?我々が来なければどうなっていたことか!!」
モニカが計画性のないピノアを叱りつける。
「すいませんでした。フォルテさんたちには重ね重ね助けて頂いて」
すっかりしおらしくなったピノアにモニカは呆れて言う。
「これでは、しばらく寝首をかかれることはなさそうですね」
フォルテはモニカの意見に同意し、この情けない勇者を介抱するのだった。
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