囚われの姫 バラライカ その2

「もしや、魔王様?すでに妾がおりましたか?我が国では一夫一妻制が大前提、正妻以外の妻は認めませぬ!!」


 すでに正妻の座に就いた気でいるバラライカがフォルテに向けて告げる。


「ちょっと、勝手に話を進めないで下さい。それにモニカさんとはまだそんな、、ねぇ?」


 フォルテは照れて口ごもる。


「魔王様!なんと情けない、そんな尻軽女ハッキリと振ってしまわないから尻に敷かれるんですよ!!」


 バラライカは煮え切らない態度のフォルテに叱責する。


「ほぉ、ちょっと同情して黙って聞いてれば、尻軽とは誰の事ですか?」


 フォルテの隣で怒りに燃えたモニカの声が響く。


「ふん、若い子をたぶらかして喜んでる悪魔の事ですよ」


 バラライカは背中に担いだ巨大な剣を抜きモニカに向ける。


「この若造が、身の程を知れ!」


 モニカは額に青筋を浮かべて拳に力を入れる。一触即発の空気にフォルテは下がり壁際に身を置く。

 しばらく見つめあった二人の女性だが、先に動いたのはモニカであった。右の拳を振り上げてバラライカに突進する。

 力任せに振り下ろされた拳をバラライカは剣の腹で受け止める。


「すごい!!モニカさんの一撃を受けて耐え切るなんて」


 今までどんな相手にも打ち勝ってきたモニカの豪腕が防がれたことに驚きを隠せないフォルテ。

 しかもバラライカは、耐えきっただけでなくそのままモニカを押し戻す。モニカとの距離をとると、すぐさま巨大な剣を振るった。

 バランスを崩された不利な態勢であったが、モニカは空中で器用に身を翻してバラライカの剣を躱す。

 再度距離を取った二人はお互いの力量を認め合い笑いかける。


「なかなかやるじゃない」


「あなたこそ」


 膠着状態へと陥った両者の元に戦闘音を聞きつけて第三者が現れる。


「魔王様!大丈夫ですか!?」


 勢いよく扉を開けた先には褐色の肌にアフロを携えたボンゴがいた。


「ぶっ!!」


 不意を突かれたフォルテはその姿に再度噴き出す。

 扉に背を向けていたモニカは難を逃れたが、バラライカはその視界にボンゴを捕らえ動揺し動きが止まる。


「隙ありぃ!!」


 その隙を見逃さずにモニカが攻撃を仕掛け、拳がバラライカの鳩尾にヒットする。

 バラライカは成すすべなくモニカの渾身の一撃をくらいその場に崩れ落ちた。


「一瞬彼女の気が逸れたから助かったわ。ボンゴくんありがとっ、ぶっはっ!!」


 お礼を言うためにボンゴの方を振り返ったモニカは、その姿を見て盛大に噴き出す。


「いやぁ、ボンゴさん本当に助かりましたよ」


 フォルテは笑い転げるモニカを無視してボンゴに話しかける。


「そんな、こちらこそ警備の手も回らず魔王様を危険な目に合わせてしまって申し訳ないです」


 ボンゴはふさふさなアフロを揺らしながらフォルテに頭を下げる。彼の一挙手一投足に笑いを堪えながらもフォルテはボンゴに指示を出す。


「過ぎたことはいいんですよ。それではボンゴさん、彼女を医務室へ運んでくれますか?」


 フォルテはボンゴを視界に納めないように注意して彼に指示をする。


「はい、わかりました」


 ボンゴは返事をすると倒れているバラライカの元へ行く。そして彼女を優しく抱きかかえる。


「んっ」


 その時、バラライカが目を覚ましボンゴと目が合う。


「あ、貴方は?」


 バラライカは頬を染めてボンゴの顔を見つめる。


「俺は魔王軍四天王の一人、轟音のボンゴ。魔王様の命により貴殿を医務室まで運ぼう」


 ボンゴはお姫様抱っこの要領でバラライカを持ち上げ運んでいく。


「なんて逞しい御方・・・」


「動くな、傷に障る」


 ボンゴの言葉に急にしおらしくなるバラライカ、二人はそのまま部屋を後にしていった。

 すでにフォルテの姿を視界に捉えていないバラライカ、フォルテは少し空しさを感じていた。


「フォルテ様、そんなに落ち込まないで下さいね」


「べ、別に寂しくなんてないんだから!!」


 複雑な心境のフォルテは、気恥ずかしさを覚え精一杯の強がりをみせるのだった。

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