異世界勇者 チェロ その3
「ぐ、ぐあぁぁぁ。抑え込んでいた負の感情が暴れだす。み、右目が疼く」
「なにやってんのこいつ?かなり怖いんですけど」
はたから見ると、痛い事この上ない光景にたまらずモニカが口を挟む。
「モニカさん、気を付けて!やってる事は馬鹿丸出しですが、その力は馬鹿になりませんよ!!」
モニカの言葉にフォルテは注意を告げる。そうしている間にもチェロの力は増大していき、次第に彼の理性まで奪っていく。
「殺す、ころす、コロス!!」
「な、なんだかヤバすぎます!?」
チェロの豹変ぶりに珍しく焦るモニカ。チェロから漏れ出た力は黒い閃光となって無差別に荒れ狂い、この部屋にいる全ての者に襲い掛かる。
「危ない!!!」
チェロから溢れた力がフォルに襲い掛かろうとしていたが、すかさずモニカが駆け付けそれを蹴散らす。しかし、次々とそれは襲いかかってきた。
「すいませんモニカさん、でも彼女たちは」
フォルテは遠くで観戦していたクレレとリンの方を見やる。彼女たちもまたフォルテと同じようにチェロの力に襲われていた。
「とてもあっちまで手が回らないですよ!」
モニカもフォルテを守ることで手いっぱいでとても助けに行くことは出来なかった。
彼女たちも何とか逃げ回っているが、捕まるのも時間の問題であった。
「チェロ!目を覚ましてお願い!!」
リンはチェロに語り掛けるがチェロは見向きもしない。
「も、もうダメ」
クレレは限界に達したのかその場でへたり込んでしまう。
「クレレ、もう少し頑張って」
「無理よリン、貴方だけでも逃げて」
「そんなこと出来ない。私たち仲間じゃないの!」
「リン、」
クレレはリンの優しさに触れ涙を流す。
「リン、ごめんなさい。今まで生意気ばかり言って、本当は私、あなたが羨ましかったの」
「何を言ってるのクレレ、王女の貴方が平民の私に嫉妬なんて」
「ううん、貴方は私の知らないチェロを知っている。小さいころからずっと一緒だったんだもの、途中から無理やり同行した私に付け入る余地なんてないわ」
「クレレ」
リンはクレレの内なる思いを知って動揺する。
「立ちなさいクレレ、こんなところで死んだら私がチェロに顔向けできない!だってチェロの本当に好きなのはあなたなんだから!」
「えっ!?」
リンの言葉に驚き、顔を上げるクレレ。
そして、遠くでその様子を見ているフォルテとモニカ。
「モニカさん、僕たちは何を見せられているんですかね?」
「ほんとに、あの金髪王女様。人のこと散々ゴリラ、ゴリラ言ってたくせに何急にしおらしくなってるんでしょうね」
モニカはいまだに根に持っているようであった。
「ですが、何故か勇者の攻撃も止まっていますし、ここは空気を読めってことでしょうか?」
さすがのモニカも場の空気を察して動きを止めている。
その間にも彼女たちの劇は続いていく。
「さぁ、ここは私が食い止める。悔しいけどアイツを目覚めさせることが出来るのはアンタだけなんだから、早く行きなさいよね!」
リンに背中を押されてクレレはチェロの元に駆けていく。ボロボロの体であったが上手く攻撃を避け彼女はチェロの元にたどり着く。
「あれ、攻撃当てる気ありませんね。勇者ももう正気取り戻してるんじゃないでしょうか?」
「茶番ね」
フォルテとモニカは気疲れし、その場に座り込んでいく末を見守る。
「コロス、コロス、コロス、」
「チェロ、もういいの。優しいアンタが今までよく頑張ってくれた。もうこれ以上自分を傷つけないで」
クレレはチェロに抱き着き涙を流す。その涙がチェロに伝わると彼に変化が起きた。
「く、クレレ。俺はいったい、」
「チェロ!!正気に戻ったのね、良かった」
正気に戻ったチェロにクレレは泣きながら抱き着く。その光景を見ていたリンも泣きながら喜んでいる。
いつの間にか空も晴れ渡り、暖かな日差しがチェロとクレレを照らしている。すると外から白いハトが舞い込み、二人の頭上で旋回しやがてチェロの肩に止まった。
「チェロ、何か手紙が括り付けてあるわ?」
クレレはハトに付けられた手紙を取ると中身を確認する。
「こ、これは、王国立魔道学園の合格通知。私と、チェロとリン。三人とも特別推薦枠だって!!しかも入学式は明日!?」
その内容を知ったチェロは急いで立ち上がる。
「こうしちゃいられない!?クレレ、リン、急いで戻るぞ!!」
そうして三人は慌ただしく部屋を後にする。無駄に広さを感じる魔王の間には、置いてかれたフォルテとモニカが取り残された。
二人が展開について行けず呆けていると、扉からシンバが顔を出す。
「お疲れ様でした魔王様。やはり異世界人、我々の想像の上をいってますね。どうやら彼らの物語、魔王編を終わらせて学園編へと突入したみたいですね。とりあえずこれで一安心かと」
「なんなの異世界人って」
「後半から怒濤の展開についていきませんでしたね」
困惑するフォルテにモニカも疲れた様子で答える。
シンバがやけに詳しいのは置いといて、疲れ果てたフォルテとモニカはその場に倒れこんだのだった。
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